AIが推薦する最高に効率的な高校生活の過ごし方

マギウス

第1章

第1話

「おお……」

 目の前に広がる光景に、俺は感嘆の声をあげた。

 真っ直ぐに伸びた大通りを清掃ボットがせわしなく行き来し、かつたちの大きな流れを一切邪魔していない。これは制御人工知能AIが優秀なのもあるが、道の設計時に導線が計算し尽くされているからだろう。ところどころの電灯や街路樹が人流を上手く誘導し、ボットの通り道を作っている。

 もちろん、車や自転車なんて一台も通っていない。このでは、そんな危険かつ効率の悪い移動手段を使う必要なんてないのだ。徒歩と公共交通機関の組み合わせが常に最適になるように設計されている。

「美しいな」

 道の両側には、カフェ、雑貨屋、服や装飾品、本屋やゲーセンやカラオケなど、およそ高校生が求めそうな店がずらりと並んでいる。この道の中だけで、放課後ライフの大部分をカバーできるようになってるんだろう。

 店は都市の運営者によって誘致され、手厚く保護されている。個別に最適化――売り上げを求める必要がなく、生徒たちが使いやすいように効率よく配置され、広さが決められ、売るものが決められている。それも、最先端のAIによって。

 そして道の終点には、俺が今日から通う高校がそびえていた。聳えて、と言いたくなるような威容いようだ。背後から照らす朝日が、真っ白な校舎を効率よく輝かせている。きっと帰りには、街と寮を夕日が照らすんだろう。

 ふと気づくと、目の前に清掃ボットがたたずんでいた。円柱の上に半球が乗った、古いSF映画にでも出てきそうな外見だ。

 どうも、俺の足下を掃除したいらしい。よく考えると、ずいぶん長い間仁王立ちをしていた気がする。何だか周りからの視線が痛いような……。

「……やべ」

 慌てて歩き出すと、素知らぬ顔をして人の流れに混じった。入学初日から悪目立ちするなんて、効率悪いことをしてどうするんだ。

 学校の敷地の中では、ドローンが交通整理をしていた。すごい、一糸乱れぬ動きだ。新入生たちが、右手の建物へ導かれていく。効率化のためか、複数の入口に分散して誘導されているようだ。

 体育館らしきその建物は、すぐに埋まった。生徒の数は多いが、比較的静かだ。みな、真新しい制服に身を包んでいる。

 壇上に、一人の若い男が立った。日本人には見えない、彫りの深い顔だ。

 彼は大仰に両手を広げると、芝居がかった口調で言った。

「ようこそ、新入生の皆様。はあなた方を歓迎します」

 その言葉に、俺は胸がいっぱいになった。

 この高校は、世界に名だたるテクノロジー企業によって運営されている。世にも珍しい、AIに管理された高校だ。

 一種の社会実験、技術検証の場になっていて、学費は無料。寮や食費などサービスの一部も無料。その上、最先端のAIによる最高に効率のいい教育が受けられる。もちろん、俺の目当ては最後の項目だ。

 教育だけじゃない。そもそも高校のあるこの島は、複数企業によって運営されている未来都市スマートシティだ。都市全体がAIによって最適化されている。

 ここに住みたいと願う者は多いが、移住権を得るのは非常に難しい。その一つがこの高校に通うことなので、当然倍率は凄まじい。受験戦争を勝ち抜いて、ようやく入学を手にしたのだ。

 まあ勝ち抜いたと言っても、学力勝負というわけではない。頭のいい生徒ばかりを集めても、技術検証にならないからな。基準は明確にされていないから、受ける側からすれば宝くじのようなものだ。

 思わずほろりと涙をこぼし……はしなかったが、感動したのは確かだ。今日から俺の、最高に効率のいい高校生活が始まる!

 と、その時は思っていた。

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