愛と熱の永久機関 - 火照った幼なじみは裸で僕を抱きしめる

霧切舞

第1話 ベッドの上で、彼女の肌に触れて体を暖める

 幼なじみのシャーロットとシチューを食べているとき、突然、雷に撃たれたような感覚がした。


「うあ…」


 たくさん情報が無理やり頭に入ってくる。しかし、それはわずかな時間で終わった。エリオットは再びスプーンを握り、残りのシチューを口にした。

 シャーロットをうかがうと、長い前髪が垂れたせいで表情はわからなかったが、口もとはわずかにほころんでいた。


「今、思い出したの」


 とシャーロットは言い、


「遠い国のどこかで死んじゃって、今の私になったって」


 エリオットは彼女と同じ年で、ずっと一緒に暮らしてきた。親がいなかった二人は血はつながっていなくても、家族のように助けあって生きていた。


「たまたま僕も今、同じような記憶が蘇った。ついさっき、僕は遠い国で死んだみたい」

「あなたも?」

「たぶんね」


 エリオットはため息をついて言った。


「それより! 今日は一人で浴場に入るから、シャーロットは入ってこないでよ!」

「どうして?」

「嫌なの! 裸見られるのが」

「だめよ、一人で入るとちゃんと洗ってくれないんだもん」

「洗ってるよ! シャーロットが神経質すぎるんだよ、もう」


 シャーロットは神経質だ。


 例えば、エリオットが他の人と握手すると、シャーロットは特殊な薬品につけていた布でエリオットの指をくまなく拭いた。握手した相手がいようがいまいが関係ない。


 今日の昼も、隣に住んでいるマリアがエリオットにベタベタ触ったせいで、シャーロットは朝に体を洗ったばかりのエリオットを脱がせ、浴場に連行して水を流した。


「というか、今日はもう入らなくてよくない? すでに二回も洗ったんだよ?」

「だめよ。そんなこと許さない」

「じゃあ今日はべつべつのところで寝ればいいんだよ。シャーロットはベッドで寝て、僕はそのへんで寝る。そうすればシャーロットは汚れない」


 シャーロットはテーブルをバンと叩いた。


「絶対に一緒に寝るの! だから私はあなたの体を洗わなきゃいけないの!」


 二人はいつも裸のままベッドで眠る。互いの体を直接触りながら寝る。物心ついた頃からの習慣だから、なかなかなおらない。


 シャーロットはエリオットを無理にひっぱって、水を流す「聖浴場」に入れた。近くの小川から引いた水は、土や不純物が除去されたあと、浴場の湯だまりをつくる。


 浴場に入ると、シャーロットはエリオットの服を脱がせた。


(慣れない…)


 裸を見せるのはいまだに慣れない。うつむき加減で歩き、湯だまりのふちに立った。


「いつになったら、この水をもっと自由に温めることができるんだろう」


 と独り言をつぶやいた。シャーロットに体を流してもらっているのは理由がある。このろ過された水は炎の石でわずかに温められているが、体を流すほどの温度にはならない。


 水を温水にするには、シャーロットの能力が必要だ。


「お待たせ」


 と言って、彼女は裸で真後ろにきた。


「寒いでしょ、今暖めてあげる」


 シャーロットはエリオットを後ろからぎゅっと抱きしめた。彼女の『熱を伝える力』のおかげで、肌を通して熱が伝わる。


「暖かくなった?」

「うん」


 エリオットが人差し指を湯だまりのほうにさすと、水の螺旋が中から出てきて、二人の頭上に冷たい水が降りそそいだ。


「あーもう! 冷たい!」


 とエリオットは叫んだ。エリオットは生まれつき水を操作する力を持っている。


「たぶん石が小さくなってる。ううう…冷たい…」

「それじゃあ、もっと体をこすっていかなきゃね」


 そう言って、彼女は押しあてている胸を上下させ、片方の足でエリオットの足をこすった。


「熱くなった?」

「うーん…もうちょっと…」


 シャーロットは片手を伸ばし、螺旋状に伸びている『水の道』をつかんだ。すると水はしだいに暖かくなり、ほどいい熱が冷たくなった髪に伝わった。


「ああ、温かい」

「ね? 私がいなきゃ体を流せないんだもん」

「そうかも」


 体を流して拭くと、二人は服を着ないですぐにベッドに入った。


「寒い…ううう…」

「ほら、こっちきて」


 恥などどうでもよかった。水を流したばかりで温度が奪われている体を早く暖めたかった。隣にいる全裸のシャーロットの体を抱きしめる。彼女の肌に触れるだけであっという間に暖まる。


「あ〜、あったか〜い」

「だから、ずっとこうして眠るのがいいの。一人で寝るなんてバカげてる」

「わかったわかった」

「わかったは一回でいい」


 エリオットはふとマリアの顔を思いうかべた。毎日どうやって体を流しているのか。自分はシャーロットの熱能力でなんとかなっているが、マリアは…。


「マリアさんって毎日ちゃんと体を洗っているのかな」


 シャーロットは冷たく


「どうして今あの人の名前を口にするの?」


 と言った。


「いや…なんとなく気になって」

「洗ってない」

「まあ、毎日あの貴重な石を使うわけにもいかないし」

「だからあの人の体にも服にも触っちゃいけないの」

「でも、さっきはちょっと言いすぎだよ」


『いつも言ってるでしょ? その汚い手で触らないでって! どうして言うこと聞かないの?』

『エリーくんはあなたの所有物じゃないんですけど。それに私、手はちゃんときれいにしてるし!』

『私のいないところで彼に触ったら、あなた、殺すわよ』


「だって!」


 シャーロットはエリオットをぎゅっと抱いた。二人の胸と胸がくっついて熱が伝わる。熱伝導の力はこの世界で最も希少で強力だ。生きていくために必要だが、ほとんどの人はこの力を持っていない。


「あの人の手、土っぽいんだもん!」


(土っぽいって…仕事だからしょうがないじゃん…)


「私は汚いの嫌なの! 嫌なものは嫌」

「わかったよ、ごめん」

「マリアに触らないで。触らせないで。あなたが触っていいのは私だけ」


 と彼の手をつかみ、自分の胸に押しあてた。


「触って」


 恥ずかしいけど触る。心臓の鼓動と熱が伝わった。二人は生きていくために肌を重ねる。

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