第3話 ほしきみ☆

 

 レオナルド王子の攻略ルートを悪役令嬢視点で見るとこうだ。

 

 アリア・スコルピウスは幼い頃より王妃になるべく厳しい教育を受けてきた。

 レオナルド王子との関係も良好で、レオナルドからは「私の王妃になる女性はあなたしかいない、高等部を卒業したら婚約しよう」と中等部の卒業後に告げられていた。

 アリアは初等部の頃よりレオナルドに恋愛感情を持っており、レオナルドも自分のことが好きなんだととても喜んだ。

 

 しかし、高等部に入りレオナルドは運命の人と出会ってしまう。

 

 もちろんアリアのことは大切であったが、ヒロインに引かれていく気持ちは抑えられず、少しずつヒロインと一緒にいる時間が増えていった。

 レオナルドの気持ちが離れて行くのを感じたアリアはレオナルドのことを諦めようとする。けれど、自分に優しくしてくれるレオナルドのことが諦めきれず苦悩するのである。

 

 諦めたいのに諦めたくないという葛藤かっとうと、周りからの好奇な視線にさらされ続けるストレスで少しずつアリアはおかしくなり、ヒロインへの嫌がらせをはじめてしまう。最初は物を隠すなど小さなことだったが、嫌がらせは徐々にエスカレートしていった。最終的にはヒロインを階段から突き落としたり、池に荷物を捨てたりと悪質なことをするのだ。

 

 そして、嫌がらせがエスカレートすればする程、レオナルドは冷たくなり、ヒロインを守るようになる。

 

 最終的には「あなたと婚約しようと一度でも思った自分が恥ずかしい。二度と目の前に現れないでくれ」と公衆の面前でレオナルドに言われ、自殺未遂を図る。

  

 一方、弟のノアは姉の様子がおかしくなっていくのをとても心配していた。アリアが3年生になった時に高等部に入学し、これでやっと姉のことを守れると思っていた。

 しかし、目の前で姉がレオナルドに「二度と目の前に現れないでくれ」と言われる場面に遭遇し、それによって姉が自殺未遂をしてしまう。

 

 幼い頃よりとても姉と仲が良く、優しい姉が大好きだったノアはレオナルドとヒロインによって大好きな姉が壊されたのだと復讐を誓った。

 誓ったのだが、公爵家を継ぐ者として表立ってレオナルドを批判することはできない。そこで秘密裏に魔術を使っての暗殺を企てる。

 

 自殺未遂をした姉の看病をしたいと学校は休学し、そのかたわらで死をもたらすための禁断の魔術を探し始めた。

 そして禁断の魔術を見つけ、暗殺を実行した。しかし、暗殺は失敗。限界以上に魔力を使ったためにノアは廃人と化してしまい、アリアは暗殺の首謀者とされ、修道院に送られる。 

 これが、レオナルド王子ルートのトゥルーエンドとノーマルエンドの悪役令嬢とその弟の行く末である。

  

 確かにアリアはヒロインに対してひどいことをたくさんした。罰せられなければならないだろう。けれど、レオナルドも悪いのではないかと思ってしまうのだ。

 

 そして、何よりも別ルートでは攻略対象のノアがレオナルド王子のルートでは廃人と化してしまうこともあり、このルートはかなり不評だった。

 一部ではバッドエンド、禁断の魔術を使ったノアにレオナルドとヒロインが殺されるシーンを支持してしまう人がいた程である。

 

  

 

 ノアの攻略ルートでも私は出てくるのだが、至って平和なルートだ。

 ノアが禁断の魔術を使うのはレオナルド王子ルートのみだし、ライバル令嬢も出てこない。

  

 難点と言えば、攻略が非常に難しいことだ。

 

 まず、ノアルートは年が2つ離れているために攻略を一年で行わなければならない。

 また、アリアと仲良くなる必要があるのだが、アリアはノアが入学するまではレオナルドのルートのみに現れるため、途中まではレオナルド王子ルートを進むことになる。

 

 そこで少しでもレオナルドの好感度を上げてしまうとノアルートには入れなくなるし、アリアからの好感度はバロメーターが見えないため、どこまで上がったのか分からない。

 

 シナリオ自体は一番人気なのだが、攻略が鬼のように難しいため、鬼畜ルートと呼ばれ、ノアファンを燃え上がらせていたものだ。

 

 余談だが、ノアルートではアリアが王妃になる。むしろ、レオナルド王子ルート以外ならアリアは王妃だ。そう思うと、アリア哀れだな。ヒロインさえ現れなければレオナルドと幸せになれたんだから。

 そのアリアになっちゃったから同情してる場合じゃないんだけどさ。

 

 

 なので、私が気を付けなければいけないのはレオナルド王子ルートのみとなる。

 

 私は二度目の人生だ。修道院に行ったとしても死ぬわけでもないし、衣食住は保証されている。

 それに修道院に行ったからといって一生そこで暮らす必要はない。改心したと判断されれば、そこから出て新しい人生を歩むことだってできる。

 もちろん、世間からの風当たりは厳しいけれど……。

 

 だから、私が修道院に送られるのは別にいいのだ。辛い思いはするだろうけど、大した問題ではない。

 

 一番の問題はノアなのだ。

 

 ノアは大好きな姉のために禁断の魔術に手を染め、人を殺めるという罪を背負って生きていくか、自身が廃人になるかという末路が待っている。

 

 可愛い可愛い弟の行く末がそんなことになるなんて、絶対にあってはいけない。

 ノアには幸せにならなければならないのだ。

 

 この世界がほしきみ☆と類似の世界ならいい。ヒロインがレオナルド以外を選べばいい。

 けれど、楽観視はできない。

 運を天に任せる訳にはいかない。

 

 

 ノアの幸せは絶対に勝ち取って見せる!!

 

 

 そのために、今からできることをやろう。

 あと5ヶ月もすれば、私はアマ・デトワール学園初等部に入学する。そこに入れば、レオナルド王子達と出会うことになる。私の取り巻きとなる令嬢もいるはずだ。

 

 ヒロインは入学するのが高等部からなので、まだまだ時間はあるものの、今から対策を取っておくのが賢明だろう。

 

 本当はもう少し時間が欲しいのだが仕方ない。レオナルド王子と出会う前に思い出せただけでも良かった……。

 

 これからどうしたら良いのか、注意すべきことは何なのかを頭の中で描きながら、悪役令嬢を回避し、ノアの幸せを掴むための作戦を考えようとした時、フッと疑問が浮かんだ。

 

 そもそも、アマ・デトワール学園には本当に通わなくてはいけないのだろうか?

 

 

 

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