第7話 陰キャ、異世界で得たチートで美少女をイジメた奴を社会的に抹殺する。

「さて……あいつらを撃退したのはいいけど、まだ根本的には解決してないな」

「まあ、いかにも一時撤退って感じだったよね」


 初音はつねさんは俺の言葉に同意した。

 俺たちは二人きりになった屋上で話している。


「多分、また俺がいない時を狙って初音さんに何かしようとするから、手出しできないようにしないと」

「手出しできないようにするって……八雲やくもくん、まさかあの人たちを病院送りにするつもり?」


 初音さんはそんなことを言って、冗談っぽく握り拳をシュッと俺に突き出してくる。


「いや、さすがに暴力で解決しようとしたらこっちが捕まる」

「はは、確かに」


 初音さんは面白がっていた。


「いや、割と冗談じゃないんだけど」

「じゃあ八雲くんには、他に何か案があるんだ?」

「まあ、うん」


 初音さんの問いに、俺はうなずく。


「お、どうするの?」

「あいつらには、この学校から消えてもらうのが確実だろう」

「八雲くん、大胆だね? でも先生とかに行っても無駄だと思うよ」


 初音さんの言葉には実感がこもっている。

 

「だったら、あいつらの権力が影響しない相手に頼ればいい」

「……? どういうこと?」

「やってみれば分かるさ。まずは証拠を押さえるところからかな」


 俺の言葉に、初音さんは何か察したようだ。


「放課後に何かするつもり?」

「どちらかと言えば、何かするのは向こうの方だけどね」


 俺がそう言ったところで、ちょうどチャイムが鳴った。

 昼休みの終わりを告げる音だ。

 

「あ、私まだお昼食べてない」

「俺もだよ」


 初音さんをイジメてくる奴らのせいで、お昼抜きで午後の授業を迎えることになってしまった。

 これは死活問題だ。

 早急に解決しないと。



 放課後、俺と初音さんは事前に打ち合わせた上で、作戦を実行することにした。

 あえて初音さんを一人にして、俺は先に帰る。

 さっそく初音さんは、金髪の女子を中心にした5人組に呼び出された。

 今度は体育館裏が犯行現場だ。

 校内からは建物の影になっており、外からは木々が植えられていて人目につかない場所だ。

 例のごとく、初音さんは体育館の壁際に追い詰められて5人組の女子に包囲されていた。 


「また呼び出して、何か用?」

「は? 昼休みのこと忘れたわけ?」

「そもそもあなたって誰だっけ。そう言えば私、名前も知らなかった」


 証拠を集めるために名前を自分から言わせる、というのは作戦の内だが、打ち合わせによると初音さんは本当に名前すら知らなかったらしい。

 

「私は筒井つつい刹那せつな! 今更知らないとか、ナメてるでしょ」

「別に。言いがかりで突っかかってきて、親の権力で悪事をもみ消してもらっている人のことなんて、興味がないだけ」

 

 初音さんは筒井刹那と名乗った金髪の女子を鼻で笑った。

 なんかノリノリだな……。


「さっきからお前、いつも以上に生意気じゃない? そもそもなんで上級生に対してタメ口なわけ」

「あなたに適切な態度で接しているだけ」

「チッ……こいつの腕、押さえて」


 筒井は周りの女子に指示を出した。

 初音さんの両脇にいた女子が、それぞれ腕を掴んで取り押さえる。

 初音さんは予定通りほとんど抵抗していないが、逃げられなくなった。 


「お前さ、自分に力がないからって嫉妬してるわけ?」


 筒井は何やら見当違いなことを言っている。

 むしろ初音さんに嫉妬しているのはそっちだと思うんだけど。


「まるで自分には力があるみたいな言い方ね」

「何が言いたいわけ」

「力があるのはあなた本人じゃなくて、市会議員をしている父親でしょ?」


 初音さんが冷静に言うと、筒井はまた舌打ちをした。


「あー、イライラする。上手いこと言ったつもりかもしれないけど、結局お前は何もできないじゃん」

「……」


 初音さんは何も言い返さない。


「でも私は親が議員だから、誰も見てない場所であんたの顔をこれでちょっと抉るくらいなら、何事もないわけ」


 筒井はまた彫刻刀を取り出した。

 懲りないな……。


「とりあえず証拠は色々確保できたし、そこまでにしてもらおうか」


 透明化を使って姿を隠し、木の横に立って様子を窺っていた俺はそこで姿を現した。

 俺の手には、動画を撮影中のスマホが握られている。


「な、いつの間に……そもそも、お前は帰ったはずじゃ……」


 筒井は自分の背後に、下校したはずの俺がいきなり現れて驚いている。

 彼女の仲間の一人が校門を出ていく俺を監視していたことには気づいていた。

 だから俺はその姿を見せつけた上で、スキルを使って初音さんのいる場所に戻ってきて透明化を使って潜んでいたのだ。


「全部録画させてもらったよ。名前も顔も、親の話も。それに刃物を取り出した場面もね」

「は? 消せよ」 

「もうクラウド上のストレージにアップロードして知り合いに共有済みだ。このスマホのデータを消しても手遅れだよ」


 俺の説明を聞くと、さすがに筒井も少し動揺した様子を見せた。


「別に証拠があったって、学校は相手にしてくれないから」

「ああ。だから相手にしてくれる人にデータを渡すことにしたんだ」

「ふざけんな!」


 筒井は苦し紛れに、俺に向かって彫刻刀を突き出しながら襲いかかってきた。

 しかしその辺の女子が小突いてきたところで、異世界で数々の修羅場をくぐり抜けてきた俺からすれば、止まって見える動きだ。 

 悠々と回避しながら、スマホで録画を続ける。


「お、追加でいい画が取れたな」

「っ……! そんなのあっても、どうせ意味ないから!」


 怒りのせいか顔を赤くした筒井は、捨て台詞を吐きながら逃げるように去っていった。

 他の女子たちも、初音さんを開放してその後を追う。

 逃げ足だけは早いな、あいつら。

 まあ、もう用は済んだから追う必要はない。

 体育館の壁際にいた初音さんが、俺の方に近寄ってきた。


「ふー……これで作戦成功?」

「うん、そうなるかな。あとは知り合いに今録画した映像を編集してネットで拡散してもらうだけだ」

「知り合いって、どんな人?」

「SNSでちょっとした有名人で、こういう炎上系のネタも含めて色々扱ってる情報屋……みたいな感じの奴だね」

「八雲くん、なんでそんな人と知り合いなの? 学校には友達が一人もいないのに」


 初音さんは、俺には友達がいないと断定してきた。

 まあ、合っているんだけど。 


「学校とは別の場所で知り合ったんだ」


 俺はボカして説明した。

 別の場所とはズバリ、異世界だ。

 俺が今回情報を提供した相手は異世界出身のエルフの魔女で、こちらの世界と異世界を股にかけて活動する情報屋だ。

 本当は、SNSのちょっとした有名人どころの存在ではない。

 街の小さな噂から国家機密までなんでも取り扱い、二つの世界のあらゆる情報を利用して莫大な利益を得ているらしい。

 俺はそんな魔女に異世界でちょっとした貸しを作ってきたので、今回協力を得ることで返してもらうことにした。

 その経緯はもちろん、初音さんには説明できないけど。


「ふーん?」

「とにかく、今日は金曜だし、夜の内に話題になり始めて土日には大炎上。週明けには、あいつらは一躍時の人だろう……悪い意味で」


 初音さんのことは伏せるように動画を編集しつつ、彼女たちの顔や名前に加えて、背後にいる市会議員の父親のことを絡めて拡散したら、ネットの格好のおもちゃになるだろう。

 調べたら元々、筒井議員という人は地元の企業と癒着していて、悪い噂が絶えないようだし。

 今回の件が親子共々トドメになるはずだ。


「つまり私は平和を手に入れた……ってこと?」

「そうだね。少なくとも、あいつらはとても登校できる状況じゃなくなるだろうし……最終的には退学にもなるんじゃないかな」


 イジメや汚職の件が発覚し、ネットで一般人に広く知れ渡れば、すぐに筒井親子は失脚する。

 この高校に対して影響力を持つこともできなくなるだろう。


「はは、そっかー……」


 初音さんは柔らかい表情を浮かべた。

 肩の力が抜けた様子だ。

 自分を脅かす存在がいなくなると理解して、安堵しているのだろう。

 そうして落ち着いたおかげだろうか。

 初音さんは、あることが気になったらしい。


「ところで八雲くんって、どうやってこの場所に戻ってきたの? どこで録画していたのかも分からなかったし……魔法でも使った?」

「いや、魔法は使ってないよ」

「それ、魔法じゃない何かは使ったって言ってるも同然だよ?」


 あ、今のは失言だったか。


「あれだ。他人よりちょっと身体能力が高いから、走ってきた。それと陰キャ特有の存在感のなさを生かして隠れてた」

「絶対適当なこと言ってるよね」

「うっ……」

「まあ、八雲くんは私のことを助けてくれたんだし。これ以上は聞かないであげる」


 初音さんが寛大な人で助かった。



◇◇◇◇


初音の敵は排除したので、これからはチートを生かしつつ本格的な学園ラブコメに入っていきます。

その前に初音から八雲に特別なお礼があるとのことで、次回のタイトルは「高校一の美少女と2回目の体験をした。」だとネタバレしておきます。

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