第8章 学校の中でも外でも世界はまわってる

第29話 闇に生きる者たち

 谷地田家、元は忍びの家系からなる現代の暗殺一族。親兄弟はもちろん、嫁の貰い手や嫁ぎ先含めて同じ系統が連なっている。谷地田家以外にも、全国各地に細々と……それでいて連綿と暗殺を家業とする一族は存在していた。かつては争いごともあった彼らだが、縮小を余儀なくされた現代では、お互いに協力し合い、盃を交わすことで成り立っている。


 谷地田家の現当主、谷地田 輝の父親は、「誉川 芽衣子」の暗殺依頼について調べていた。



「お父様が依頼主にについて探りをいれるなんて珍しいですね?」


「ああ見えてお父様は輝坊てるぼうに甘いからなぁ……」


「もう1人『滝本』という男についても調査してるんだろ? 輝の今回の依頼、首突っ込まない方がいいんじゃないか?」



 同じ家業に就く親族たちは、当主の行動に一抹の不安を覚えていた。「暗殺」自体が危険であり、普通ではなく、そして時に思わぬ争いに巻き込まれることもある。それはこの道に生きる者なら誰もが理解していた。当然、そういった事態を避ける方法も身に付けている。


 それは姿を見せず、そもそもの疑いすら抱かせないこと。そして、余計な詮索はしないこと、だった。


 谷地田家当主の行いは、その暗殺家にとってあまりに当たり前なことに反していた。それゆえ一族の者たちは警戒していた。当主がそんな「当たり前のこと」を理解していないはずがない。――となれば、理解したうえで危険を冒すほどの「なにか」がその依頼にはあるのではないか、と……。


◆◆◆


 除霊師の集団は一定の周期で夜な夜な情報交換を行っていた。リン曰く「老人ホーム」である。直近の除霊報告や取り逃がした悪霊の報告などがなされている。そして、今もっとも話題に上がっているのは、彼女が通う高校に眠る「御神体」であった。


 黒い法衣を纏った法師の集団は、とある大きな寺院の広間で話し合いをしていた。


「御神体が目覚めてしまう前に、より強固な封印を……あるいは消し去ってしまうことはできないんじゃろうか?」


「悪霊と呼応してしまっている以上、本来の役割はもう失われております。今の話にもあったようにいっそ消滅させてしまえば危険が減るでしょうな」


「そう簡単なものではありません。御神体を消滅させるには直接触れて祓わねばなりません。あの学校の敷地のどこかに『それ』はあるのでしょうが、きっと悪霊が何重にも守りを固めていることでしょう」


「普通にいっても呪い殺されて終わりじゃわのう、カッカッカ!」


「悪霊の動きを止めて近づく手段があればいいんでしょうけどね……。そんな都合のいい力なんてありませんよ」


「やはり今は、『誉川 芽衣子』があの学校を去るまで凛さまに守ってもらうしかないんでしょうねぇ」


「逆に霊力をもったその『誉川』という女学生をどうにかできませんのかね? 彼女が御神体に近づかなければよい話ではないですか?」


「これこれ、滅多なことを言うでないよ。仮にも傍からは『神職』と思われている我々ですよ」



 

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