第22話 ホメられホレた
唐突だけど、この私、杉浦 灯はホメ子さんが好きだ。LikeでもありLoveでもある。彼女と出会ってまだ1か月と少ししか経っていない。けど、彼女は私の心を射抜いた。
忘れもしない、あれは入学してすぐにあった中学の復習テストが返ってきたときだ。
入学してすぐ私は注目を集めた。当然、この「髪」のせいだ。同級生の女子生徒はしきりに私の髪を羨ましがった。別に悪い気はしない。幼い時からずっとそうだったからだ。
小学校のクラス替えでも、中学校に入学しても、塾に通っても……最初に注目されるのは必ずこの髪だ。人の目を引くのは好きだった。けど、いつ、どんな時でも髪は私の代名詞となっていた。
「異能力」なんていう才能が私にはある。この力に酔いしれて、磨きに磨きをかけた。自分が「特別」になれるのが嬉しかった。だけど、この力は決してこちらの次元の誰かの目に留まることはない。
それはそれでいいと思っていた。誰かに認められたり、褒められたりしなくても私がみんなを守っているという自負があったからだ。けど、ホントに時々だけど、誰かに見てもらいたいと思うときもあった。
私がホメ子さんを知ったとき、彼女はすでにクラスの中で有名だった。かなり独特の価値観をもっているみたいで、なんでもかんでも褒める人だった。生物の授業でミトコンドリアを褒め称えたエピソードはクラス中で話題になっていた。そんな彼女が話しかけてきたとき、私は条件反射でこう思った。
『どうせ、私の髪が綺麗とか褒めるんでしょ?』
「杉浦さんは数学が得意なんですか!? 最後の文章問題を解けた生徒は1人しかいないようですよ!」
私は返却された数学の答案用紙を見た。最後の問題に〇が付いていた。
「べっ……別にたまたまよ。それに点数は誉川さんの方がずっと上じゃない? その点数なら学年トップに近いんじゃないの?」
私は80点そこそこの点数だったが、ホメ子さんは96点、最終問題以外は全問正解だった。自分より点数の高い人に褒められるとなんかバカにされているような気分になる。
「点数は確かに私の方が上です。ですが、最後のはひっかけ問題になっています。先生も言っていましたが、『数学的な思考』をきちんと持っていないと解けない問題みたいです。つまり、杉浦さんは数学を根本からしっかり理解されているということです!」
「しっ……知らないわよ。数学とか好きじゃないし」
「でも、通学のときとか授業前にいつも勉強してますよね! それが実ってこの問題を正解したんだと思いますよ!」
たしかに私は通学の電車でいつも数学を勉強している。授業前の休み時間もだ。これは数学が好きなんじゃなくて、一番苦手な科目だからだ。実は80点を超えただけでも内心喜んでいた。苦手な科目でここまでやれた自分を褒めてやりたかった。それをまさか、知り合って間もない同級生に褒められるとは思っていなかった。
「実は私、通学の電車が杉浦さんと一緒なんです! いつも熱心に勉強していてすごいなぁ、と思っていたんです!」
このとき私はとても満たされた気持ちになっていた。初めて容姿でも才能でも結果でもなく、「過程」を認めてもらえたからだ。それに、ホメ子さんは私の髪についてまったく触れてこない。こんな人初めてだ。髪以外のところで私を見てくれている人がいるなんて……。
この瞬間、私の心はホメ子さんにもっていかれた。
「スギウラさん、うら……『ウララさん』て呼んでもいいですか!?」
「……なんでそんな中途半端なところ取るの?」
「なんとなく! 可愛いからです!」
ホメ子さんは、小動物のような大きな黒目で私を真っすぐ見つめてくる。
――もうダメ、この人可愛い。惚れちゃう。
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