第4話 モテ男のイサミんと中途半端なウララさん

 通称「リンちゃん」が投げた教科書を拾う生徒がいた。彼は「滝本 勇(たきもと いさみ)」、学級委員長でクラスの女子からの人気も高い「モテる男」だ。男子にしてはやや長めの耳まで隠れる明るい茶色の髪が、外からの日を浴びて輝いて見えた。彼は「イサミん」と呼ばれている。


「リンさん、教室で物を投げるのは危ないですよ?」


 彼は拾った教科書の表紙を軽く手ではたいてから手渡していた。それを両手で受け取るリンちゃん。たったこれだけのことでも、非常に絵になる二人だ。教室内の皆の視線はそこに集中していた。


「イサミんは、本を拾って手渡すだけでもカッコいいですね! 陽射しを浴びてなんかこう……『選ばれし者』って感じです」


「はははっ、ホメ子さんはおもしろいなぁ」


 はにかんだ笑顔をするイサミん。あれで性格が悪いやつだったら遠慮なく嫌いになれるのだが、「超」が付くくらいに性格もいい男なのだ。正直、男のオレでもなにかの間違いがあったら惚れてしまうかもしれない。いや、それはないか……。


 さっきまで主役だった蜂は完全に舞台の外へと追いやられてしまった。そういえば、羽音も聞こえない。大魔神級の剛速本にびびって退散したのだろうか。



 蜂がどこかに止まっていないかと周囲を見回していると、近くに立っていたウララさんと目が合った。

 彼女は「杉浦 灯(すぎうら あかり)」、なぜ名前の中途半端な部分があだ名になったのかは定かでないが、なんとなくみんな「ウララさん」と呼んでいる。校則で許されているのか、と思うような、金髪でミドルのソバージュヘアーの女子だ。


 ウララさんの席はオレの席とは真逆の廊下側だったはず。なんでこんなところに立っているのだろうか。――というか、いつからここにいたんだろう? まったく気づかなかった。


 彼女は特になにか言うでもなく、オレから視線を逸らして自分の席へと戻っていった。蜂はどうやら教室の外へと出ていったようで、ようやく教室は落ち着きを取り戻した。机の上に目をやると、解答欄が埋まった漢字テストがあった。そういえば、書き取りテストの真っ最中だったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る