手抜き

エリー.ファー

手抜き

 手抜きだと思われたくはないけれど、そこに真実があるとも思えない。

 忘れないようにメモをした言葉が、私の脳内から出て行ってしまうのは、私に必要ではなかったことを証明していない。

 まるで、嘘で塗り固めた経歴で勝負しているかのようだ。

 私には、何があるのだろう。

 何が残っているのだろう。

 プライドの高さだろうか。

 いや、違う。

 何もかも手を抜いて生きてきたことで、十分な思考が育たなかったのだ。誰かのせいにしてもしょうがないけれど、負けん気で勝負するべきとも思わない。麻痺した社会性によって作り出された幻覚が私を白く染上げて、周りから見えなくさせてしまう。

 カモフラージュではない。

 消失である。

 いや。

 最初から何もなかったかのように感じられる。

 私はどこにいるのだろう。

 風になってしまった、と思ったこともある。

 風を探してしまったこともある。

 でも、すべては同じことなのだ。

 最初から。

 私はずっと。

 私の人生で手を抜いていたのだ。

 手抜きの人生。

 誰かの責任にできない分、寂しさが埋まることはない。

 ハズレに生まれてしまった責任を感じながら、命の気高さに押しつぶされそうになる。

 私という存在がこんなにも小さいのに、私の中にある強かさは、燦然と輝いている。

 失ってはならないと、私以外も叫んでいる。

 私には、何が残っているのだろう。

 手抜きだけが上手くなった人生に、技術も、魂も残ってなどいない。

 旗の色は白く、孤独の色をしている。

 嘘をつくのが上手くなることはなかった。

 私は私らしさを失って、私以外に近づこうとした。

 最も恥ずべき行為をしたと思う。

 けれど。

 私は納得している。

 この生き方しか教えてもらえなかったし、教えてもらおうとも思わなかった。

 後悔が積み重なると、私になってしまう呪いが、私にかけられていたのだ。

 私は、どうして、私なのだろう。

 生まれてからずっと、私以外になれなかった。

 私と私以外の境界線を常に踏みつけ、触れているのに、向こう側に行ったことはない。

 常にあと少し。

 常にほんの少し。

 常に少しだけ。

 私は私を通した窓から、私以外を眺めているのである。

 いつになったら、私は、私に満足できるようになるのだろうか。

 もっともらしい言葉を、私の人生に投げかけてくれる誰かを探しているのだろうか。

 哀れだ。

 余りにも哀れだ。

 自分の人生で結果は出せなかったけれど、プライドだけは立派に高いので、身の回りで結果を出した誰かの肩書のお零れで残飯を漁り続けた凡人の成れの果て。

 あぁ。

 私ではないか。

 私以外に誰がいるというのか。

 何故、戦わなかったのか。

 何故、戦い続けなかったのか。

 何故、戦うために考えなかったのか。

 何故、戦う意味を理解しようとしなかったのか。

 何故、戦う相手を間違えたのか。

 何故、戦うべき場所を間違えたのか。

 何故、戦うための装備を間違えたのか。

 何故。

 この戦いの勝利に固執してしまったのか。

 私には、まだ多くの戦いがあり。

 私が、求める戦いがあったというのに。

 私は、ここでの戦いに興じている。

 もう、失ってしまった。

 時間がない。

 戻って来ないものが多すぎる。

 私は、どうすればいいのか。

 分からない。

 助けてくれ。

 この場所に、何年もいる意味を疑わなかったせいで、帰る場所がない。

 あぁ。

 このオアシスに休憩をしに来たはずだったのに。

 もう。

 オアシスからも出られない。

 余りにも上品な蟻地獄式のオアシスである。

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