八尺様はビビらない坊やが気になる

@optimumpride

出会い

「ぽっぽぽ……ぽっぽぽ……」


 時は夏、太陽は空の上で高く輝いており、森の間から涼しい風が吹き上がり、蝉の音が周りで響き渡る。


 そんな素晴らしい天気、まさに人を呪い殺すいい日である。


 私、人呼んで八尺様は、森の隣にいる川の土手で散策している。


 元の名前はとっくに忘れた、名前で呼ばれることなんてもう何十年前のことだ。私気にしていないし、どうでもいい。


 私にとっては、村にいる人だちを呪い殺せればいい。


 でも、今の私にはやることがない、暇である。


 標的である村は地蔵に守られており、人から誘われないと何しても入れない。


 あの忌々しい村め……! 私を村八分した恨み、いつか必ず晴らしてやる!


 残念なことに、妖怪になった今でも、怨念だけで人を殺せない。


 だから私はこうして、散策するしかやることがない。


「私の手助けをしてくれるかわいい子供とかいないかな~ ん?」


 そう考えていると、土手で人影が見えた。

  

 そこには、年齢が十五歳くらいの、黒髪で冴えない顔をしている男の子が座ってた。


 ここの川は私が出ると噂されてるから、普通なら人がいるなんてありえないことである。


 そんな状況にびっくりしつづ、私は笑ってしまった。


 手助けをしてくれる子、見つけった。


 「ぽっぽぽ……ぽっぽぽ……」


 私は笑いながら、あの坊やに近ずく。


 「おや、こんなとこに坊やが」


 私の声を聞いて、坊やを慌てて顔をこっちへ向く。


「ぽっぽ、君、誰だい、こんなとこで独りぼっちになって。もしかして迷子かい? 良かったら私が村まで案内しよっか?」


 私は笑顔を隠しつづ、坊やに挨拶する。


 上手くいけば、あの村はもう終わりだ!


 「何だ……」


 でも、私のことを見えると、坊やはあっけない表情になり、座り直してた。


 私を見えてもこん反応をする人、初めて見た。


「どうしての? こんなとこで独りぼっちて、親が心配しちゃうよ?」


 釣れない坊やの態度に戸惑いつづも、私は何とか一緒に帰る流れを作り出すようとする。


 でも……


「僕は騙されないぞ、君、八尺様だろう? 村に行きたいなら自分で何とかしろ」


 坊やは私の計画を、あっさりと打ち砕いた。


「ぽっぽぽ、ぽっぽぽ、賢い子だね、お姉さん嫌いじゃないわ。そう、私はあなたたちが言ってる八尺様」


 私のことを気にしないだけでなく、正体まで気付かれるとは、つくづく面白い坊やである。


 でも、私の正体がバレた以上、生かす訳にはいかない。


「君の手で村に入らせたいが、バレたら仕方がない」


「……」


「いただきますー」


 私は両手を挙げ、坊やの元まで走る。


 さあ! 怖がれ! 私に絶望の表情を見せてくれ!


「……」


 でも、坊や怖がらず、ただただ私のことを見ている。


 あれ? この子ビビらないの?


「わからないから?私は今から君は憑り殺すのよ」


「……」


「ぽっぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ、もう泣き叫んでも誰も来ないのよ!」


 私を思い切り口を常人じゃできないほどの角度まで開け、首をまるごと喰らう勢いで坊やへ叫ぶ。


「……」


 でも、彼は動じなっかた。


 表情は全く変わらず、声も上がらず、ただただその生気のない瞳で私を見つめる。

 

 その目を見て、私は何とかわかった気がする。


 彼は状況をわからないわけじゃない、彼は……


「君、今ここで死んでも気にしないの?」


 彼にとって、生きる気なんて最初からこれぼっちもない。


 だから私が何しても、彼はビビらない。


 こんな子、初めて見た。


「……」

 

 すると、彼は視線を逸らし、そのまま地面にぶっ倒れ、目を閉じる。


 この一連の動作、まさか……


「おい!何寝ているのよ!」


 私の問題や脅しを無視して、そのまま寝てしまった!


「だって君、何もしないじゃん」


 私の気持ちを気にせず、彼はそう言った。


「何もしないなら、僕はこのまま寝るぞ、起こすなよ」


 寝返りながら、彼はそう言った。


 何なんだこの子は!


「はぁ・・・調子狂うわね」


 ここまでくると、焦ってるこっちの方がバカバカしく感じる。


 なんかやる気がなくなったので、私は坊やの隣に座った。


 すると、坊やはこっちの方に寝返って、どう見てもびっくりしてる目で私を見つめる。


 何よその顔、先襲われる時よりよっぽどびっくりしてるじゃない。


「何するんだよ君!?」


「私だって歩き疲れするものよ。 それに、最初から死ぬ気なやつを殺しても、なんも面白くない。 だから寝かせてもらうわ」


「……」


「もしかして怖いのか坊やぽっぽぽ、あらあら」


 びっくりした坊やの顔を見て、何だか勝気になった私は、さらに彼を煽る。


「あっそう」


 でも彼はそのまま、私を無視して寝返った。


「なによ、あっそうって!」


「……」


「何なんだこの坊やは!もう好きにして!」


 この坊やに話しかけたら何だか無駄に疲れた気がする。


 もうどうでもよくなったわ。


 だから私はこのまま体を降し、寝ることにした。


「……」


「……」


 それにしても……


「いつぶりかしら、誰かと昼寝することって……」


 返事はもちろんない。


 私たちただ黙って、土手で日光浴をしながら、昼寝するだけ。


 涼しい風が顔へ吹き、太陽が体を温め、森にいる鳥の歌声が耳に伝わり。


 なんていうか、嫌な感じじゃなかった。


 私はこのまま、眠りについた。


 そして起きると、坊やの姿をどこにもいなっかた。

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