追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 辺境、廃城・ゴーストタウン・悪役令嬢つき

第1話 婚約破棄から辺境の地へ追放。ただし円満に

「ディートヘルム・ボニファティウス王子! わ、わたじは、あなたとの婚約を破棄じばず! ぶわあああああごめんなさああああい!」


 婚約者のセレネ姫様が、僕にそう告げた。


 来賓している人たちも、魔物の帰り血まみれになった僕を見て嘆いている。


「ごべんなざい! よわよわな我がソラドロア国を救ってくれでぇ!」


 僕は、セレネ姫のいるこの国を、モンスターの襲撃から救ったのだ。たった一人で。


「申し訳ございません、不甲斐ない我々に代わって、この国を救ってくださったのに」


 王国の騎士たちが、僕の返り血を拭ってくれる。


「お気になさらず。あなた方の使命は、ソラドロア王国の街と王女様を守ること。みなさんは仕事をなされた」


「ですが我々は、お客人である王子を助けられなかった」


「一人でも戦えるから、十分だよ」


「その冒険者気質で、わたしはあなたと結婚を躊躇したのですよ?」


「ならば、それでいいです」


 僕に不快感を抱く視線は、一つもなかった。とはいえ、歓迎してくれているわけではない。


 配下を一人も連れず、この地に来たのだ。国でどんな扱いを受けているか、わかっているはず。


「でも、ディートヘルムさまは、本当にいいの? 私は、北東カイムーンの王子様と婚約していいの?」


「いいでしょ。ボニファティウス王家といっても、僕は四男坊だ。なんの恩恵もない。そんな人間より、ミルドレン王子と結婚なさる方が、将来性が高い」


 王都に嫁いできても、この国は果樹園や果実酒などの利権を搾取されるだけ。ならば、酪農などに優れた北東に嫁いだほうが、相乗効果も得られるだろう。さらにこの国が栄えてから、王都は交易の形で相手をすればいい。


 父にもそう説得したと語ると、セレネ王女は安心した。


「それに、お互い愛し合ってらっしゃる」


「ぶわあ。ありがどおおお」


 セレネ王女は、うれし泣きをしている。


「でもぉ、あなたは私との婚約を破棄されたら、行く場所ないんでしょ?」


「アテはあるよ。辺境に飛ばされるってだけだし」


「ですが」


「そこで稼げばいい。何より僕は、冒険者になれるのがうれしいんだ」


 僕はもし婚約を破棄されたら、遠い異国の地へ飛ばされる予定だ。


 個人的には、どんとこいである。僕は以前から、冒険者に憧れていた。何も持たず、なにもないところで、自分の腕だけで旅がしたい。知らない場所の開拓だって、僕にとってはくではなかった。


「すぐ冒険に出ます。結婚式には出られませんが、ご容赦を」


「ばいいいい。おぎをつげでええええ!」


 慰謝料として、多額の金貨をいただく。


 こんな大金、どうしよう。まあ、辺境の開拓資金にでも充てるかな。





 帰国後、父であるボニファティウス国王に報告をする。


「やっぱり、婚約破棄されたかあああ! 悪いが追放だああ! すまん息子よおお!」


「そういう言葉が出る辺り、父上も僕には期待していなかったんですね」


「誰に似たのか、お前はまったく向上心がなかったからなあ……」


 向上心はあるのだ。ベクトルが違うだけで。


「僕は、自分の力で開拓がしたいんだ。王家の力なんて借りずに、全部一人で」


「魔王の対処に追われているというのに、リスクジャンキーだのう。お前は」


 国王が、ため息をつく。


「だからだよ。ちょっとでも魔王に『この国はめんどくせえ』と思わせておきたい」


「お前一人の対応でも、めんどくさかったよ。俺は」


「最高の褒め言葉だよ」


 人の力を借りて登っていける山より、自分の足で大地を歩きたい。


 王家となると、それも難しかった。


「要望どおり、お前はこの国に生まれてこなかったことにするからな」


「はい。万が一、僕が魔王軍や盗賊に捕まっても、身代金などは一切払わなくてよいので」


「実の息子にそんな仕打ちをするわけには」


「育ててくださって感謝しています。それだけでいいのです」


「あいわかった。もう何も言わん。お前は昔から言っても聞かんかったからな」


「ありがとう父上。行ってまいります」


 自室に向かい、僕は用意していたバッグを担ぐ。


「ディートヘルム!」


「はい?」


「その、なんだ。あの」


 強く呼び止めた割に、国王の口調は歯切れが悪い。


「あのジジイどもに気をつけろ、でしょ?」


 あいつ……南東諸国の国王たちは、僕を人一倍嫌っている。


 僕が産まれたときから、我がボニファティウス国は、南東の各国といがみ合っていた。


「わかっているなら、それでいい」


「ええ。母上にあいさつをしてきます」


 母上である王妃にあいさつをしに行く。


「おかえりなさいディートヘルム。セレネ王女は、お気に召しませんでしたか?」


「お美しい方でした。けれど僕の破天荒には、ついていけない感じでしたね。国全体が、真面目過ぎる。愚直なのは美徳なのですが、融通がきかない感じでした」


「だから、南東につけ込まれたのでしょうね」


 ソラドロアは元々、南東側の言いなりである。僕がセレネ嬢と結婚することで、ボニファティウスはソラドロアもろとも南東に取り込まれるところだった。北東にあるカイムーンの王子と結ばれたがっていると知った僕は、先手を打ったのである。


 北東に義理を立てたことで、ソラドロアはボニファティウスのムチャに応じざるを得ない。


 南東と対立している北東とソラドロアをつなげたことで、僕は南東側の勢力図を書き換えた。余計、僕は南東に恨まれていることだろう。


「ですがあの辺境は、南東諸国の侵攻先。そのど真ん中でしょう?」


 僕を追放する案は、彼らをけん制するためだ。


「あなたの向かう土地は、荒れ果てた荒野ですよ。よろしいのですか?」


 未開拓の領地ながら、魔物も出没し、海賊も現れる。そのため、誰も手がつけられないのだ。


「再スタートに、うってつけの環境ではないですか。僕なら、やれますよ」


 いったいどの国が、北にある魔王軍を押し留めていたか。世間に思い知らせてやる、絶好の機会だ。


「何もしてあげられない母を、許してください」


「なにをおっしゃる? 産んでくださっただけで、僕はありがたく思っておりますよ。愛してくださってありがとう。これからは、僕はいないものと思っていただきたい」


「ディートヘルム! めったなことをいうものではありません」


 母が、僕を叱る。


「ごめんなさい。でも僕のことで、いちいち気をもまないでいただきたい」


「そう、ですね。あなたなら、この情勢をなんとかしてくれそうなのは確かですわ。お気をつけて」


「行ってまいります」


 いよいよ、僕は旅立つことになった。

 



 護衛もつけず、僕は一人で荒れた土地に降り立つ。


「ここが、旧ボニファティウス王国。シンクレーグ平野か」


 どこが平野なのか。あちこちが山に囲まれて、土も荒れている。これでは作物も育つかどうか。


「とにかく、近隣の街を……!?」


 大勢の人を乗せた馬車が、全速力でこちらに向かってくる。護衛の冒険者も、一緒だ。


 ガーゴイルが口を大きく開けて、馬車に火球を放った。


 大量の火球を、魔法使いが弾き飛ばす。


 だが、一発は車輪にガーゴイルの命中してしまう。


 馬車が横転し、子どもがふっとばされた。


「おっと! 【ウインドクッション】!」


 風魔法を唱えて、子どもを助ける。


「もう大丈夫だぞ」


 子どもを冒険者に預けて、ガーゴイルを相手にする。


「僕に勝てると思っているのか? 上等だ。【レビテイト】!」


 まだ世界のどこでも開発されていない【浮遊魔法】を、僕は唱えた。


「空を飛べるのが、ガーゴイルだけと思うなよ」


 ショートソードで、ガーゴイルたちの翼を切り落とす。


 後は冒険者たちに任せよう。


「ありがとうございます、名前は?」


「ディータ、っていえばわかる?」


 僕は身分証明用のカードを、冒険者に見せる。


「わかるよ。【ノーブル・サベージ】がいれば、百人力だぜ」


 ノーブル・サベージとは、僕の冒険者としての二つ名だ。


「街までどれくらいだ?」


 上空から、冒険者たちに尋ねる。


「ここから馬車で三時間ほど走った先だ!」


 ならば、一時間もあれば到着するかな。


「馬車が直ったら、ついてこい。街を助けてやる!」


 馬車を守る冒険者たちに告げて、僕は街へ向かう。


 魔物たちが、街を襲っていた。


 こんな小さな街すら、容赦なしかよ!


「今助け……え!?」


 特大の火球が、魔物たち「だけ」を粉砕していく。


 炎の弾は、廃城から落ちてきた。城は外壁が朽ちて、内装が丸見えになっている。まだ、ゴーレム製の防衛システムが機能しているのか?


「また性懲りもなく、来おったんか」


 朽ちた廃城のてっぺんに、一人の少女が立っていた。火球を投げつけたのは、彼女か。


 茜色の着物に身を固めた少女が、魔物の群れを城の屋根から見下ろしていた。漆黒のロングヘアをたなびかせ、着物はわざと着崩している。見事な半球を包むのは、紫色のブラだ。岩のようにゴツゴツした黒い大剣を、細い腕で担ぐ。


「しゃらくせええ!」


 ドレスの少女が魔物たちを屠る。首をゴキゴキと鳴らし、アクビしながら魔物たちを蹴散らしていた。見た目こそ美少女だが、あの娘のファイトスタイルはまさに鬼神である。


「シンクレーグの地は、このリユ・キヴァ伯爵令嬢が通さんけぇ! 覚悟せえ!」


 追放先に先客がいるなんて、聞いていないんだけど!?

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