第28話 魔人になったら
「レンジ」
ポシュ。
「レンジ」
シュウゥ。
「レンジ」
プヒュルル。
畜生、道路すらない、面積当たりの遭難は日本が一番多いと聞く、嵌ったな。
「レンジ」
ビシュウ。
妻が居なくて良かった。
元々妻の趣味のなんちゃってサバイバル、装備の数と小重量を競い合い山を従軍する。
トイレだけはしっかりと確認して自然に返さ無いのがルール、コンビニの裏で寝ることも有り、なので人里からあまり放れないはずだった。
とっくに破ってるけどそれは迷ったから。
「ふう喉が乾いたな」
水筒を出すが空だ。暗い空を見ながらつぶやく。
「ウオーター」
空中から水が現れ水筒に飲まれていく。
二日前に突然奥さんに行かないと言われた、娘が二人孫娘と帰ってくるそうだ、それなら俺もと言ったが現地までの切符がもったいないせめて一人はと言われた二日前キャンセルは半額だそうだ、さらに女子会をしたいとのこと、まあたまには一人もいいかと自分に言い訳して納得した。
ゴールデンウィークに毎年行くのでたまには違うこともしたいだろうと思った、俺は何でも変わらない方が好きなので人と少しずれている自覚があるから。
一日目の野営地を目指している途中で霧が出た、夕方の霧って初めてだな、と思いながら足を止める。
以前早朝、まだ暗いうちに出発して霧に遇ったことがある、その時目の前に悪魔の顔が出て大声をあげて転がった、もう少しで崖である。
まあ鹿だったんだが奥さんに笑われながら何があるか分からんなと、シッカリ覚えている。
無理をするより予定道理に帰ることを優先しよう、木の根に腰かけポンチョを被ってしばらくして目が覚めた。
いつの間に寝たのか周りも完全に夜だが水の音がする、湧き水でもあるのかと歩いていくと草原の手前に川がある、なんで?。
慌てて地図アプリを見るが衛星が見つかりませんのメッセージ、電波は覚悟のアプリだがこれじゃあ無意味だ、その後必死に状況を確かめようとしたが無理だった。
また迷ったか。方向音痴気味の俺は定期的にやらかす、戻れたらいいけど。
そう思いながら川に降りて手を洗った、これがお湯なら入れるんだけどな、そう思ったとたんに左手が膨れ上がった。
声は出なかった自分とは思えない唸りが聞こえた、ただただ左手を抱きかかえて蹲っていた。
しばらくして息を吐いたあまりの痛みに息を忘れていた、左手を見る少し跡はあるが戻っている。
しばらくあれこれ試して分かったこと、俺は水分を自在に操れるらしい、さっきの火傷を治したのも延長のようだ、水を出せるのに気が付いて俄然やる気が出た、あの痛みを忘れるためいろんなことを忘れている気がする。
草原を歩いて見晴らしがいいところを探そうとした、歩きながらパブロフの犬を思い出し逆をしてみる。
「レンジ」
じゅううううぅ。
「レンジ」
シュオオオン。
レンジと言わないと発動しないように出来ないか試している、暴発はもう嫌だ。
「レンジ」
草から水蒸気が上がり直ぐ炭化する。
最近のLEDは電池の持ちがいい「レンジ」を数百回試して歩いても気にならないが闇ばかりが何処までも続く。
その時感じた、何だろうこの感じ自分の手じゃない髪の毛?を無遠慮に触られている感じ。右だ。
LEDを消して目を凝らす、なんとなく邪魔な気がした、確かによく感じる、二百メートルは有るのに、大きさはサイ?
え、こっち見た、いけない、きいたぁ、まて、おちつっけ、技だ、さっきのだ、何だったか、なに、こわっ。そうだ。
「レンジ!!」
「ビュヒィィ」
どざああああぁぁ。
え、一瞬、え、頭、グロ、目玉見つけた、えぐ。
どうなったかと近くまで来て見たくないものを見てしまった、しかしでかい昔吉野で大人が二人乗れるイノシシを見たがそれ以上の大きさの猪。
そう思って突っ立っているとまたあの感覚、ただ今度は少し柔らかいし距離が2~3キロ?。
じっと目を凝らしていると小さな明かりが近寄ってきた、不安は感じない、おんなのこ?まだかなり遠いが分かる髪が柔らかい。
立ち止まったそりゃそうだ、幼そうだし案件だぞ、え、まて、やっと光の点が見える距離だぞ。
その時自分の体にまといつく靄みたいなものに気が付いた、猪の方に伸ばしてみる、分かる、毛の硬さ、未だ続ける心臓の鼓動、冷えていく体、これか、こんなものに触られたら絶対通報される!。
女の子を見る、居なくなってると思ったのにこちらに近寄ってくる、え、俺狙われてる?。端的に見て一番有り得る答え。でも一人。
小説なんかだと同じ能力者とか?、しかし一番状況を把握する近道、さっきの靄を体に纏わせてみる、これは氷?、目に見える壁が出来て気が大きくなる、自分の周りを氷の壁が覆っている。
女の子が近付いてくる銀髪碧眼北方系の美少女、此処日本だぞ?。
近くまで来て止まって何か言っている、分からない聞いたことがない言葉。
「分からない、言葉分からない」
ジェスチャーを交えていってみる。
「わからない、わかる」
分からないってことが分かるということか。交流は有るってことだな、手を差し出してきた、警戒したが氷に当たると絶望したような顔をする、この能力も知ってるってことだよな、前側の氷を半分消す。
握手を求めるように手を近寄せてくる、何かの本で読んだ利き手を相手に預ける儀式。
握手をするとその手を首筋にあてて温めるように包んでくれる。ここまで無防備な女性を見たことが無かった。
しばらくして手を離すと遠くを指さし偉そうに胸を張ったりなよっとしたりしだす。
頷いてみると二三歩離れてはこちらを見る、何かのゲームでよく見たなあ、娘に付き合ったやつだ。ついて来いってやつだな。
「おい!、これ食えるのか」
猪を指さし食うしぐさをする。頷いているので靄で包んでみるとあっさり持ち上がった。
一度目を丸くした娘はその後にっこりして前を歩きだした。
二時間ほど歩き朝になって村と言うか集落?に着いた、電柱は無い、井戸が沢山あるし結構身綺麗だが服は明らかに木綿と麻ばかり。
どこかのアトラクションかテーマパークかいや俺、魔法っぽいもの使ってるよな。
少女が村長?、地主ぽい人と話をしている、猪は逆さにして血抜きをしながら運んでいるんだが子供たちがわらわら集まってくる。
しかしあの時間が四時頃だとして二時ごろ一人で村を出て俺と会うのか?、いろいろ可笑しくないか?。
また少女が歩き出しこちらを見るのでついていくと竹を編んで絨毯のように敷いている田舎でよく見る中庭のような玄関に出た。
一瞬逃げかけたが少女が慌てたように後ろを指さす、すまないやくざ映画の見過ぎだな。
これだなと思い、猪を下ろした時、大きな包丁や鉈みたいなものを持って大人衆が集まってきた。
上目遣いで猪の体躯を叩きながら何か言っている、変な映画の事は忘れて素直に両手で丸を書いて差し出す仕草をする。
子供達から歓声が上がる、大人がたしなめるような声を出す、甥や姪の家に行ったときを思い出した、同じだな。
「・・・オージン・・」
偉そうな人が言っている、名前だろう。自分を指さし樋妻耀司と二度言う。
「カレナ」
少女が言う。
「カレナ?」
コクコクうなづいて少女が笑う。
少し疲れたので腕枕の形をして庭の隅っこを指さしてリュックのテントを広げる、ワンタッチテントと安物タープが重量対性能比が高い、後、雨でも逃げれないのでキャンプベッドは必須、少女が聞いてくれる。
家を指さしてくれるが首を振って遠慮する、親せきの家でも息が詰まる質なんだ、ため息交じりに頷いてくれた。
テントだけで下に寝袋を引いてリュックを枕にしたらすぐに寝れたらしい。
頭を小突かれて起こされた、目の前では少女が寝ている。
「この状況でよく寝れますね、さすが日本人」
どかから声が聞こえる日本語だ、やはり何かに担がれたか何だ手の込んだ。
「僕は十年前にこの世界に来た甲斐田 崖一万キロ離れたところから話してます」
俺は声を潜めていう。
「で、どうすれば正解だ」
「うーんじゃあ姿を見せるね、子供だけど大事なことを話すからちゃんと聞いてね」
やがてテントの天井に映像が浮かぶ、思わず自分の目をこする何かついてないか思わず確認した。
「初めまして樋妻さんでいいんですか?テントに書いてありました」
頷くしかない。
「時間がないので端的に今の状況を説明します質問は後でまとめてでいいですか?」
ああ、と答える、流れが見えないのでどう漕ぐべきか分からない。
「まず貴方はこの世界で魔人と呼ばれて恐れられています」
そう来たか、ワクテカシチュって奴だな。
「これから情緒が不安定になるかもしれませんが三、四日で帰れます頑張ってください」
え?、待てそれは犯罪レベルじゃないのか?。
「前回会ったのは地球の言葉じゃない音波みたいな声を出して子供を生きたまま食おうとしたので討伐されました」
質問タイムはまだか?。
「あなたは畏怖の対象ですが同時に恵みの神でもあります、あなたの水魔法を糧にこの世界は回っています、出来るだけその種付けをして頂けたらと思うんです。」
18禁になったぞおい!。
「横で寝ているのは占い巫女見習の少女です、その子から出来れば、あと占いババが西の角に住んでるので気を付けてね」
俺は質問と言う意味を考えて諦めた、質問でどうにかなる話じゃない、なので二事だけ確認する。
「帰れるんだな、それと無理だぞ娘に見える」
「その時は十年我慢します。けど言ったでしょ不安定になるって、それじゃあまた明日に伺いますじゃっ」
「あ、おおい」
「わあプリン間に合わないよ、」
「テミス&$)&#!?+*&%」
「<>・?(&%”*@5&・・・....」
なんか、一周回ってリアルに感じるが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます