第27話 留守番したら


  妻に言われて一生続けて来た家族サービスがある。子供を五回は遊園地に連れていくこと、それは孫、ひ孫まで達成した。


 その中で必ず通るのがいろんな乗り物なのだが唯一理解できないものがジェットコースターだったりする。


 怖いのではなく、評判が高いもの、派手なものほど面白くない、唯一怖かったのは椅子にまたがって吊るされた奴、何時壊れるかという方向で、だが。体幹が鍛えられて視覚で理解したものは重要視されないのかもしれない。


 その中で一番恐怖を感じたのがこれだ。


 「上げて、上げて」

 「えいさ、ほいさ」

 「次に乗る人が上げるのよー」

 「ぎやぁぁ、やだやあだ」

 「しゃぁぁぁ」

 「きゃあああ」

 「前はダメ、まえはだぁめぇ」


 がらがらがら。


 時速四十キロで走るネズミのトロッコ?。


 元ネタは四人乗りだが特別席一の三人乗り、これ、スピードが遅いのを最大限に利用している。


 まずバンクがない、真横にいきなり振られるのは他では味わえない、怪我をしにくいので壁や木枝のすれすれを通る、そしてお尻の下に前輪があるので完全に車体が外に飛び出してから曲がる、この恐怖は大人の方が分かるのかもしれない。


 特等席はさらに前なわけだ、ナツフカさんが大人がしてはいけない顔をして叫んでいる。

 ゆるフワ奥さんの叫ぶ姿、眼福です。


 「坊ちゃんちょっと良い?」

 テミスさんは順番の列にいるしと思って振り返るとマリナさんが居た。


 「はい何でしょう?」

 「この辺り結構オオカミとか出るのよ、大きくないから見つけにくいってジョイさんとガラリアさんが言ってるの」

 「ああはい、わかりました、すぐ作ります、リサ姉!!」

 「はーい」

 緩く上体を捻って返事をしてくれる。

 夕べ奉仕してくれた姿を思い出した、軽い体重を生かして抱っこスタイルで肌を合わせる姿が脳裏に蘇る、無意識だろうがスキルだな、もう少し寄ってあげなきゃ。

 「ごめんまたお願い」

 

 トロッコの橋脚を見て柵なんかできないかと言うことだ。あれリサさんの目の端が固い?、あ、奥さんにも言われた。


 「有難う」

 「いえいえ」


 まにあったか、セーフかな。


 デバスさんと上を見ながら野営地を回り土をまき散らす、手を突っ込んで一気にフェンスを作る高さは七メートル、地面の下は十メートルほど迄木の根状にして頑丈に宿車の監視デッキのところだけフェンスを削っている、あ、煙突型投光器置くの忘れてる。


 ガラス入りパーテイションと煙突をパンテさんと一緒に持って上がる。あれそう言えばウインドウ大きくなって無いのかなぁ?。


 「さてそろそろバニラさんの準備も出来たかな?。」

 

 屋台裏のパーテイションの中に入りウインドウを開けると真っすぐ此方を向いたバニラさんと目が合った。


 「準備はいい?」

 「はいっ」


 この人私を見るときは背を伸ばすんだよ、コミュ障か。


 「場所を知りたいんで、前に写すから教えて」

 「分かりましたー」


 めっちゃ素直な子に見えるんだが。


 「えーと、セレガの南、マルイルの北側に集落があるんです、五百人くらいの」

 「集落を大きな川が横切ってます、それを西に辿っていくと、あった、緑の屋根ほら見える?」


 見えるけど人住んでるのか有れ五、六メートル四方の小屋で嵐のせいか屋根が一部壊れている、何よりここまで南だとラプトルが居る。人の領域からわずかに出ている、て、いた!!、大中小家族がそろっている、ラプトルの。


 「やばい僕もやるけどバニラさんもっ!」


 切れた女性が何をするか分からないので顔見知りは必須。


 「はいっ!」


 どうすればと周りを見渡す彼女を目の隅に入れてもう一つのウインドウを開く、火掻き棒で取り出したのは以前の銃。


 「どうぞこれ使って、中にこれが入ってるから火をつけて、最初は一秒経ってからこのレバーを引いて、人によって最適時間が違うんだ、鉄の玉が飛び出せば成功!」


 フラスコ型薬莢を六個放り投げて。


 「撃ったら大きなレバーを引いてこれと似たのが飛び出すから同じ場所にこれを詰めて、レバーを戻して最初から!!」

 「はい、はい、はい、はいっ!!」

 「こっち向けんな!!、向こう、ラプ・ト・ル!!」


 バンジュヒュン。


 独特な音が一度する、次弾はもたもたしている、おい銃口がこっち出てんぞ、とか聞こえる、事故じゃなくて良かった。


 「えーと、リオナさーん、一寸来て下さい」

 近くにいたらしいリオナさんが顔を出す。

 「はい、でもあの、さすがに出ませんよ」


 なにが?


 こんなところに呼び出されて何か思ったのか。


 「えっとこの中に木片が入ってるんで火をつけてください」

 「あ、あ、はい、ファイヤっ」

 例の手榴弾に小さな振動が生まれる、よし。


 何事かと周りを見ていたラプトルの頭上二メートル当たりで爆発、危ねーちょっと薄過ぎた。

 それでも威嚇には十分でギャーギャー叫びながら走り回っている、大きな奴の背中から血が出ているな。


 バンジュオン。


 次弾の音がしてコラプトルの足元の岩が砕けたのをきっかけにラプトル一家が山に逃げて行った。


 二人で溜息をついて、リオナさんの?の顔に、有難う大丈夫だからうん本当にシャサちゃんが不安がるといけないから、そう言って帰ってもらった。


 「ちょっと中を確認するよいい」

 「はい、おねがいします」


 近づいてみると成程、小さいのは頑丈にするためだな、古い猟師小屋に見える、人の領地が近寄ってきたので森に移動したのかもしれない。


 「バニラさん中は大丈夫です、でも急いだほうがよさそうだ」


 そう言って箱台車を半分突っ込む。




 「はいそれじゃあ真ん中に線が見える?」

 「はいっ」

 「それがこちらと、そちらの境界線、僕の言うとおりに移動して指一本出しちゃだめだからね」

 「はいっ」


 目的地に着くと中に駆け込んでいく、鍵を持っていた。


 「スーチ、スーチ、ああっ!」

 見つけたがほとんど骨と皮だ、何とか生きてるけど記憶すら怪しくなるレベルだな。


 「どうしよう、どうしよう神様!!」

 鉄のトレイを床に置いてここに寝かしてというと、まさに壊れ物を扱うようにゆっくり抱き上げてトレイに乗せる。あまりの軽さにか涙ぐんでた。


 しかし森の中で飢えるって、人間はその気になれば土だって食って生きれる、日本ならともかくこの世界の人が冬以外で自然死っていうのは考えにくい。


 「あいつだあいつが来たんだ」


 トレイをストレッチャーに変えて箱車に乗せるときバニラちゃんが呟いた、まあ今度は四千キロだそちらは安心していいと思うぞ。


 ローデルさんのところにストレッチャーを出して身ぎれいにしてもらう、弱った人間は菌に弱い、服を脱がせてそのままユックリと人肌のお湯をかける、ローデルさんがストローにジュウスを吸わして一滴一滴飲ませる、ゆっくり、ゆっくり今日一日かけて。


 さすがに点滴の知識は無い時間をかけるしかない。私にできることをしよう。


 リサさんに事情を説明して追加で耕してもらう、出来た鉄で屋台をもう一台、ちょっと大きめ、幅140、高さ200、長さ300、軽箱より一寸大きいし機械がないので中はずっと広い。

 下はセミダブルベット二段目はシングルより一寸狭い、一番奥にストーブを置けるように、煙突を出せば自然に換気してくれる。


 二階部分に合うようにストレチャーを改造一.二メートルまで上がるようにしてトレイは二重構造にしてメッシュワイヤーで柔らかい寝心地にして二段ベッドに移動できるようにした。


 外用のストーブも作り、車体側面にパラソルを固定できるようにした、屏風も使えば外でもかなり余裕を持てるだろう。


 果物やスープ、黒砂糖、蜂蜜、卵を渡しておいてまた見に来ると言ってウインドウを閉じた。


 ここの所気が休まらないな、そう思いながら一応日課になっている伝声チェックをする今朝から一寸やり方を変えてメガホンのような伝声塔のミニチュアを作り、その前でウィンドウを開き声を拾っている、やはりジーニアス領が一番大きく聞こえる?。聞き覚えのある声だけ拾おうとしても限度がある、そう思ったとき緊急そうな切迫した声が聞こえた。


 「魔人現認、魔人現認、カバートロン南、コルガの森、繰り返す・・」

 「次から次へとラノベか!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る