第17話 エビフライの準備をしたら

 ひもを引っ張っている紐の先はウィンドウの中でだんだんハコが見えてきた、大丈夫以前に一度成功している、ただなぜ出来たかわからない、これで十八回目、いろんなパターンを試した、いい加減いらいらする。やがて箱の端が見えるここからだ、箱のふたを開ける今まで唯一しなかったこと、先に逆側のふたを閉めこちらを開けて。


 「鍋に水を入れなくていいのか?」

 「は、はい?、へ」

 「なんだ寝てたのかい」

 「あ、ええ、初めてです、夕べ無茶したかなあ」

 「へええ、どんなこと??」

 「テ、テミス何言ってんだお前!!」

 「いやまあそんなことも」

 「「え」」

 「いやお前が言ったんだろ」

 「いやセリちゃんがあんなこと言うから」

 「昨日トラポス商会の人といましていろいろ歓待したりしたら遅くなっちゃって、あんなってどんな」


 セリアーヌさんの視線が私の下半身をちらりと過ぎた、見なかったことにしよう。

 

 「あ、鍋ね今は味〆してるのでいれません」


 そういいながら弱火に掛けていた寸胴鍋の蓋を取って、持ち上げて中身をもう一つの寸胴にに移す、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、良いにおいがする、このまま蓋をして冷ます、コツは野菜から出た水分などを上から丹念にかけること。


 「すごくいい匂いがするぞ」

 「バターと塩、香辛料を少し入れてますから」

 「先ほど食事を頂いたところなのに、冷ます料理ですか?」

 「いえ蒸ては冷ますを三回ほどしますから丁度いい時間になりますよ」

 「???」


 娘命名ケーキカレーだ、書店で見た”逆説もあり”という垂れ幕を見て思いついて父の日のお返しと家事をした日に出したメニューで、混ぜない、煮込まない、置かないでカレーを作って成功したものだ。


 それからは父の日と誕生日とホワイトデーには必ず作った、時間がかかるので妻には何でカレーにって言われたが違うものを出すとむくれた。


 居酒屋で(スーパーに肉のたれが沢山あるのは人間が肉を嫌いだからだと言うトンチキがいる)と言って騒いだら料理番が乗ってきた。思うところが有ったらしい。


 そこで野菜の味は煮込むと薄れると教わった、煮込むとは出汁をとることだそうだ、もっともそのまま冷ますと混然となった出汁が野菜に戻るので料理として成功するらしい。


 夜のスーパーのおでんが独特なのはそのせいか、苦労してんなと思ったことがある。ほんとのことは知らないが。


 「夜に出します家では喜んでもらえているので待っててください」

 「そうか。何か手伝うことはない?」

 「いえ、騎士様は暇にしているくらいがいいですよ」

 「セリアーヌだ」

 「はい?」

 「セリアーヌ!!」

 「?」

 「セリでもいい、んっ!」

 「えっと」

 「ふふ、今朝手を握ったでしょ」

 はい確かに。

 「んっ」

 「ほら」

 「は、はい、セリアーヌさん」

 「うん、それじゃあ巡回してくる」

 「坊ちゃん、、」


 残念な子を見る目で見られた。

 「やっぱり」

 「なんかしました?」

 「まあ本人も冗談ポク言ってましたけど両手で手を握りましたよね?、しかも親指で愛撫までしましたよね。」

 「ええ母に手を取る時の礼儀だっていわ、、」

 おう、キャパ嬢に良くされていたので鵜呑みにしたけどセックスアピールか。

 「気づきましたね、言っときますけど本気にはしてませんからね」


 「ところでこちらの凄い匂いの鍋は何です?」

 テミスさんが顔をしかめながら小さめの鍋を見て言う。

 「これ?、醤油を火にかけてる。昆布と出汁の具と甘麦酒を入れて、負けました」

 今朝のうどんではっきりしました返しはいる絶対、今からじゃ一か月は置かなきゃだめだな。


 「醤油って何?」

 「コミネ村の特産で塩の代わりでしょうか?。さっきも出しましたよ」

 「ふーん、こっちは何してるの」

 「野菜に足りないのは塩と油だそうで、それを染み込ませています」

 「でね?。こっちにあるのはエビに見えるんだけど手が長くないから海のだよね」


 本題が来た。

 「詮索はなしでお願いします」


 仕様がなかったんや、カレーに一番合うのはエビフライなんや、我慢できんかったんや。

 今のうちに皮を剥いておこう。


 「生きがいいよね新鮮だよね?」

 「詮索はなしで」

 「テミス!何話してるだ、こっちにこいよ」

 「嫉妬よあれ」

 「普通にうれしいけど・・・」

 「ふふ、そうよね」


 テミスさんが陽気にお尻を振って馬車の方に歩いて行った。


 さてと横を向きシーソーや、やじろべえを見る、子供たちが順番待ちをしている、スペースの加減で沢山は作れない、もう一つトランポリンを作った、フェンスで囲った休憩の高台付きの奴、二三回跳ねては休憩しておしゃべりしている、ばね付きブーツを最初に作ったがリリカが消えてしまったのでこちらにした。


 最初トランポリンの入り口が高いせいで尻込みしていたけれどリリカがムーンサルトを決めてからハニラシア、ブリシア、サイカちゃん長女組が食いついた、もうずっとそこにいる。ユリシア、ナツフカ、マリンカさん大人組は交代でリバーシをしている。


 皆であと片付け迄したけどみな楽しそうっだった、リサがお皿やカトラリーの数を数えていてパンテさん一家が窓テーブルで七並べをしている、ガラリアさんが宿泊車の上、デバスさんが馬車の上で全体の様子を見ている。


 「あのカレーを作ってるの?」

 「時間が作れるのってもうないから」

 「そう、じゃあ夕方には帰ってくるからね?」


 そういってリリカが手を大きな四角を描くように動かす。


 「うん分かった」


 そろそろだと思っていた、私は車両の影で箱つき荷車を引き出したハコは二メートル四方、リリカがいそいそと扉を開け入っていく。


 「向こうの扉が開くまでこちらの扉から手を放しちゃだめだよ」

 「分かってる」


 ピーピングウインドウを出してコミネ村に繋げる誰も見ていないのを確かめて荷車を半分だけ向こうに出す、ここで先ほどの扉を密閉する、それからコミネ村側の扉を開放すれば。


 「おかーさーん、ただいま~!!」

 「あれリリカ昨日も会ったじゃないかい」

 「いいじゃない、ん~やっぱり空気も違うよ」

 「それじゃあ夕方に来るから」

 「オムルくんありがとね」

 「いえ大した事じゃないので、あそうだここ十日ほどで天気が悪かったら嵐が来ると村長に言っといて下さい」

 「分かったわ、あ、パンの注文ありがとね」

 「いえじゃあ」


 そうピーピングウインドウは実は私以外なら移動に使うことが可能、イメージとしては水槽にコップを沈めて逆向きに持ち上げて、水面より上に水を上げれる有れ、例のおっさんが居たら何とかの猫とか言いそうだ。


 自分自身はできないまあ自分の体をつかんで投げれないのと同じことかとあきらめているしウィンドウがあれば行く必要もない。


 天気のことは昨日空から見たときに台風が見えた、東を湾岸都市、西を山脈に挟まれた超縦長領地の我が家は台風に見舞われる事はあまりないが念のため連絡しといた、スチリス子爵も連絡積み。


 セリアーヌさんが剣の鍛錬をしながらチラチラ見てくる、私的にはうれしいが周りから見てどうなんだろ?テミスさんは嫌な感じじゃないけど・。

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