理科室に住み着くカップル

夕日ゆうや

キャンプファイヤー

《今夜、我が校で開催される前夜祭、皆様もどうかお楽しみください。キャンプファイヤーも用意しています》

 ラジオから流れる電波が音を鳴らす。

「前夜祭だって」

 鈴音すずねがクスクスと笑いながらアルコールランプの上でフライパンに卵を落とす。

 目玉焼きとベーコン、トースト、サラダ。いつもの朝食だ。

 俺はこの朝食が好きだ。

 まるで他に意識を向けるために用意されたいつもの朝食。あるいはいつもと変わらぬ朝を迎えることで、一気に気持ちを振り切るためか。

「鈴音は前夜祭に行きたいのか?」

「え~。どう見える?」

 高校の理科室。その端で俺と鈴音は会話をしている。

 鈴音は制服の上にエプロンをしている。いつもはおろしている黒髪を一束にまとめている。

 なんだか、その格好は萌える。

「さ。食べて元気だそ?」

「お、おう……」

 言われるがまま、俺は朝食を口にする。

 俺と鈴音は分け合って学校で暮らしている。

 その特殊性も、俺と鈴音の仲を深める要因になったのだ。

 ラジオでは今でも前夜祭の話をしている。

 前夜祭のキャンプファイヤーでは一緒に踊ると恋仲になれるという伝説がある。

 それをこっちに持ってきて近づける鈴音。

 なんとも不器用で可愛らしい行動だ。

「なあ、鈴音」

「ん。なに?」

「ぜ、」

「ぜ?」

「前菜はこれでいいか?」

 俺はサラダに目を向ける。

「ふふ。コース料理じゃないんだから、好きにお食べ」

「そう、だな……。それよりも前夜祭に行くか?」

「うん。うん?」

 ちょっと待ったと言いたげな鈴音。

「あ」

 うっかり零してしまった。

「ふーん。鹿丸しかまるくんはそうしたいんだ……」

 鈴音はニマニマと笑みを浮かべながら、唇に指を持ってくる。

「うっさい。いくぞ!」

「はーい」

 元気のよい返事が返ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理科室に住み着くカップル 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ