第2話

 私は都会のビジネス街で働く、ごく平凡なオフィスレディ。そして彼、周吾しゅうごさんは会社の先輩で、同じフロアにいる。色々と面倒なことになるから、この関係は秘密。でも、そのカッコいい仕事中の姿はどうしても目で追ってしまう。そのままうっかり目が合ってしまった時は、きっと私は顔が真っ赤になってるんじゃないかしら。ああ、もう、周吾さんの事を考えるだけで仕事が手につかなくなっちゃうくらいに、大好き。



「ミキさん!」


 就業時間中、周吾さんが書類を手に私に話しかけてきた。ひょっとして、昨日の手料理のこと、聞けるかしら。


「この書類のチェックお願いするよ。問題なかったら、会議の為に人数分刷っておいてくれるかな?」


 私がはいと返事をして書類を受け取ると、彼は「ありがとう」と私に笑顔を向け、さっさとデスクに戻ってしまった。


 ……え? それだけ? ちょっとした雑談もなにもなし? 少し落ち込んだ気持ちになりながらも、仕方がないとも思う。今までだって私が何かしてあげても、彼からその話を振ってくれたことなんて、ないもの。


 それに、職場の女の子には分け隔てなく優しく、同じように接しているのは知ってる。女性社員を味方につける、これだって立派な処世術なんだし、気にしちゃダメだって頭ではわかってるわ。

 優しくて、かっこよくて、気が利いて、仕事もできるなんて、完璧すぎて誰だって好きになっちゃうわよね。だから周吾さんは、本当は彼女がいるっていうのに女性たちの人気者。私は、きっとみんなの知らないもっと素敵な周吾さんを、色々と知っているけれど!


 こうやって気持ちがモヤモヤした時は、デスクの彼を盗み見して心を満たすのが一番。以前にプレゼントしたちょっと特別なボールペンを、胸ポケットに差していつも使ってくれている様子が見れたり、私がいないところで、私を褒めてくれているのを知ると、とっても安心する。

 

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