7
「すっごいあっけないような例えになるけど、これはゲームのRPGに置き換えることができる。十年前、ヤス君と翔君は道中、あのおばあさんと遭遇した。が、レベルの差からして勝てないと踏んだ二人は逃げる、を選択した。十年後また翔君はあのおばあさんを探すべく同じ場所に出向いた。ここでもおばあさんと翔君のレベルの差は縮まっていないのにも関わらず今度は戦う、を選択してしまったので翔君はおばあさんに負けてしまいゲームオーバー。帰らぬ人に。こんな感じ」
えぇっ。非常に明快な例えだったが、はいそれで納得できましたと頷くことができない内容だった。
「そういうことなんですか!? それだと何の対策もしていなかったのに勝てない敵に立ち向かったようで馬鹿な話じゃないですか!」
「そう、馬鹿だったんだよ。敵のレベルも知らずに突っ込んで行った。これを馬鹿と言わずなんと言う? ゲームであれば親切ご丁寧に自身のレベル、パラメーターは表示されるけどリアルはそんな甘くはないってこと」
待ってくれ、前提がおかしい。いつから僕達はRPGの世界に身を置いていたのか、その自覚がそもそもないのにレベルが違い過ぎる敵に負けてしまいましたって理不尽にも程があるじゃないか……。
「あのおばあさんは会おうと思えばずっと同じ場所で待機しているってことですか? ゲームのように」
「だろうね。幽霊だって因縁のある場所にずっと留まっているって世間は認識してると考えれば、この点に関しては同じだと言えるし」
もはや黙り込むしかできなかった。想定していた世界とはまるで違う。よくあるホラー映画の流れのように幽霊の正体、謎を解いてやるってあれほど意気込んで行動に移したのに、実は戦闘ものファンタジー映画でした。しかも主人公は無防備のままボス戦に挑んでしまいお亡くなりになりましたってオチはあまりにも酷い。これがリアルなのか。
「操っている人がいるはずだ」
俯きながら頭を抱えていたが、素早くお兄さんの方を見た。唐突にお兄さんは言う。
「いまなんと」
「操っている人がいるはずなんだ。考えてもみてくれ。もしもこの町にそんなモンスターが出現するならもっと翔君のように子供が姿を消してしまう事件が多発してもおかしくないはず。けどそんな事件は翔君の他に聞いたことがない、そうじゃないのかな?」
「……はい。この町に長く住んでいるお年寄りもこんな大事件がこの町で起きるなんてって信じられないって様子でした」
「つまり翔君だから狙われた、こういう仮説も立てることができるってこと」
「翔君だから狙われた!? えっ、でもさっきおばあさんは子供が好きだからターゲットにしているって」
「それは本当さ。だからまだ小さい翔君を狙うなら、そんな性質を持ったエネルギーを使った方がすんなり指示に従ってくれるって踏んだんだと思う」
初めて出てくる単語を耳にした。そんな性質を持った、エネルギー……。そうだ、その前にお兄さんにもう一つ確かめなければいけないこともある。頭がこんがらがってきて整理したいけど、休憩するわけにはいかない。
「あの、そういえばなんでお兄さんはおばあさんが子供が好きだって知っているのですか?」
「核心を突くいい質問だね。それが僕が持っている一つの能力なの。他人が放出するエネルギーを取り込んで、それを解析する。それによってその人物が今、何を考えているのか頭の中を覗けるって力」
唾を飲み込む。それが不思議な能力ってやつか。
「あれ、でもおばあさんはもう生きていないんですよね?」
「あのおばあさんは強い未練を残して亡くなった。とても悲惨な死に方をした。そんな理不尽にこの世を去ると最後に断末魔と共に強烈なエネルギーが放出されて、その場にいつまでも残留する場合もあるんだ。今回はそれを取り込んだってこと。それを別の表現で成仏できない幽霊って言うのかもしれないけど」
なるほど。これには妙に納得してしまった。エネルギーと言ったのはこれが理由なのか。
待てよ。となると恐ろしいことが起きているのではないか? 僕はお兄さんをじっと見て無言の懸念を送る。それにはにっこりと微笑む。
「わかるよ、ヤス君の心配していることも」
そうだった。お兄さんは人の考えていることが分かるんだ。それを試したわけではない。口に出すのも恐ろしいから無言なだけなんだ……! なのに、なんでお兄さんは笑っていられるんだ。
「僕だって流石にこれは怖いと思っている」
僕の憤りに応えたのか、急に低い声で真剣な顔になる。
「誰かが、僕と同じ能力を限界まで極めた人がどこかに潜んでいる。いやもしかしたら、もっととんでもないことも出来るのかも。この能力を悪用している人が出現してしまった。これが事実なら世界は変わる。やがて今までにない第三の勢力がこの地球を支配していく未来がやって来るかもしれないんだ!」
両肩を掴み必死な形相で訴える。お兄さんの声と、指、肩が震えていた。
地球が能力を持った人によって支配されていく。決して大袈裟なんかじゃないだろう。
僕は本当に引き返せない所まで来てしまったようだ。この静かに迫り来る恐怖を知ってしまい、もう普通に過ごすことができなさそうだ。
僕もいつか、誰かに狙われるのだろうか?
今のところ大丈夫なはず。これからも清く、正しく生きなければ。
翔くん、君は一体何をしたっていうの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます