第8話:国籍
帝国歴222年4月13日:ジョルダーノ商会客間(幼女の家)
「ミア様の事情は理解させていただきました。
まさか、ミア様がカタ―ニョ公爵家の御令嬢だったとは。
色々と噂は聞いていたのですが、見た目の年齢が一致しませんでした。
とても18歳とは思えません。
13歳前後だと思い込んでいました。
まともに成長できないほど酷い扱いを受けられていたのですね」
シモーネはベニートに、ミアの正体と事情、今の状況を正直に伝えた。
その方が後に裏切られる事がないと思ったのだ。
ベニートが必ず王家や公爵家と敵対してくれると思っていたわけではない。
娘の恩人を売るようなら、情け容赦なく殺す覚悟を定めていた。
日本の戦後生まれでも、異世界に転生して20年、後継者争いが激しい皇室で育てば、生き延びる為にそれくらいの冷酷さは身に付ける。
「ああ、信じられない扱いだが、これが現実だ。
助けようと思えば、王家と公爵家を敵に回す事になる。
下手をすれば刺客が送られてくるだろう。
だが、これほど心清らかな令嬢を見殺しにはできない。
命懸けで助ける決意をした」
「私も王国では多少は名の知られた商人でございます。
商人が1番大切にしなければいけないのは信用です。
娘の恩人を見殺しにしたと知られては、今後の商売に差し障ります。
私もミア様の味方をさせていただきます」
「そうか、そう言ってもらえると助かる。
だが、ベニート殿に自分の命や家族の命を賭けろとまで言う気はない。
正直に話すが、我らの母国はグレリア帝国なのだ。
今回は、知見を広げる為に、北大陸の属国であるこの国に遊学していたのだ」
「ほう、グレリア帝国の方だったのですね。
これは奇縁なのでしょうか?
私の商会は、グレリア帝国との交易を主な商いにさせて頂いています」
ベニートの目に殺気とも言える気合が籠った。
これが何かの策略ならば、必ず見抜いて見せるとの覚悟だった。
「家中の者からそう報告を受けたから、真実を話したのだ。
本当なら大使館を通じて帰国船を用意させるのだが、王家や公爵家が体面を気にしてミア嬢を殺す覚悟していたら、大使館を通じて文句を言ったのが仇になる」
「大使館を通じて文句を言われたのですか?
貴方様は何方なのですか?」
「口で正体を言う訳にはいかないが、これを見てくれ」
「これは?!」
シモーネは、今回護衛についている者の中で、最も適切と思われる伯爵家の身分を借りていた。
その伯爵家は海沿いに領地があり、交易に適した港が繫栄しているとても豊かな家で、今ベニートが商売している貴族家よりも遥かに有力な家だ。
「単に危険な協力を求めている訳ではない。
恩を笠に着て無理難題を押し付ける気もない。
恩を返してもらった後は、働きに応じた褒美を渡そう。
どちらかだけが儲けるのではなく、互いに儲かる交易をしないか?」
「正直驚きました。
王家と公爵家を敵に回すとは、どんな生まれの方かと思っていましたが、帝国の伯爵家の方なら頷けます。
それに伯爵家の方にしては交易にも明るく、王国の貴族とは比較にもなりません」
「それは王国貴族が無能なだけだ。
帝国では貴族ほど優秀だ。
無能では皇城内の権力闘争に生き残れないし、領地も近隣領主に食い散らかされ、瞬く間に他人の物になってしまう」
「王国も先代の頃はそうだったと聞いております。
ただ、それが激し過ぎて、国内が荒れ果ててしまったとも聞いております」
「帝国もその点は気をつけなければいけないだろう。
だが現皇帝がお元気なうちは何の心配もいらない。
ベニート殿も、帝国内の商売のしやすさは知っているのだろう?」
「これからはベニートと呼び捨てにしてください。
はい、身に染みて理解しております。
何かにつけて賄賂の必要な王国とは大違いでございます」
「本国に帰ったら呼び捨てにさせてもらう。
この国にいる間は、何処で誰が聞いているか分からないし、まだ幼いラウラ嬢がポロっと話した事で、俺の正体が露見するかもしれない。
ラウラ嬢に口止めするよりは、我々が気をつけた方が良いだろう?」
「ありがとうございます。
ここまで正直にお話ししていただいたので、私も本音で話させていただきます。
どうしてもお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、俺にできる事ならやらせてもらおう」
「私の弱点は妻と娘でございます。
王家と公爵家を敵に回す以上、2人には安全な場所に居て欲しいのです。
2人に帝国籍を用意していただけないでしょうか?」
「ふむ、伯爵家の領民籍であれば、今直ぐにでも俺の権限で与えられる。
2人と言わず、ベニート殿や使用人の領民籍も与えられる。
何なら、伯爵領の港に商家を購入する権利も与えられる。
だが、平民とはいえ、帝国の国籍を直ぐに手配するのは無理だ。
どうしてもと言うのなら、先に伯爵家の領民籍を与えるから、移住して安全を確保したらどうだ?
多少の時間はかかっても、帝国の国籍は必ず用意するが、どうだ?」
「申し訳ありません。
そこまでの事を願ったわけではないのです。
帝国に住める権利がいただけるのなら、それで十分でございます。
伯爵領の領民籍をいただけるのであれば、安心してお味方できます」
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