Final Phase 処遇

 結局のところ、山崎勲は特別背任の疑いで兵庫県警に逮捕された。山崎重工業と山谷組の黒いコネクションは、兵庫の経済に対して激震が走る結果となった。当然、黒老虎側からも逮捕者が出たのだけれど、日本の法律では外国人を裁くことが出来ない。つまり、彼らは中国へと強制送還されることになった。

 そんな中で、僕は大泉警部からの話を聞いていた。

「古谷君、今回の件はご苦労だった。今回明るみに出た山谷組の黒いカネは、氷山の一角に過ぎない。つまり、叩けば埃が出るはずだ」

「それで、僕の処遇はどうなるんだ」

「そうだな……仮の段階ではあるが兵庫県警への復帰を認めよう」

「それは本当か」

「もちろん、条件付きだが」

「条件?」

「古谷君には組織犯罪対策課の特殊事件捜査班への異動を命じる」

「特殊事件捜査班? そんな班は聞いたことがないが」

「この4月から新たに設立する事になった、古谷君専用の班だ。要するに、今まで通り潜入捜査を行ってほしい」

「なるほど。今度は兵庫県警の刑事として潜入捜査を行うわけか」

「そういうことだ。今までは非合法な捜査を行っていたが、今後古谷君に行ってもらう捜査は全て合法になる。つまり、兵庫県警が全責任をまっとうすることになる。覚悟は出来ているか」

「当然だ」

「よろしい。正式な命令が出るまでは待機だ」

「分かりました」


 それにしても、今回の事件は骨が折れるほど疲れた。なんというか、自分の無力さを改めて実感してしまった。自分は半グレ集団に対して復讐がしたくて刑事になったのに、何も出来ていない。自分はただのサツの犬だ。こんな自分にも希望はあるのだろうか。

 ふと、天国の母親に会いたくなったので、僕は母親が眠る墓地へと向かった。

「今回の事件も、無事に解決できた。中々厄介な事件だったが、僕は刑事としての仕事を全うしたつもりだ」

 どうせ墓前に向かって話したって、返事は返ってこない。でも、僕の中で、母親が話しかけてきたような気がした。


「善ちゃん、今回もがんばったねぇ。お母さん、なんだか嬉しいよ」


 仮令それが幻聴だとしても、僕にはそういう風に聞こえた。


 数日後、僕は三宮の裏路地にいた。今回の事件の解決に協力してくれた長友雅人に挨拶がしたかったからだ。

「あっ、古谷さん。また何か事件の依頼ですか?」

「いや、むしろ逆だ。今回の事件を解決してくれたことに対して感謝がしたい」

「古谷さんって、意外とそういうところが真面目なんですね」

「僕は真面目なのか」

「まあ、そんな事は言わずに……。まあ、お茶とポテチでも用意しますからゆっくりしてください」

「ありがとう」

 僕は、長友雅人から出されたお茶を飲んでいた。流石にこの時期になると温かいお茶よりも、冷たいお茶のほうがありがたい。

「旬さんから聞きましたよ? 何でも兵庫県警に復帰するとか」

「まあ、仮の部署ではあるが」

「それでも、情報提供には協力しますよ」

「そうか。そういうタレコミ情報はいくらでも欲しいぐらいだ」

「まあ、今はまだその時じゃないんですけどね」

「そうだわな。また、新しい情報があったら僕に教えてくれ」

「分かっていますよッ」


 それから、僕は長友雅人の事務所を後にした。春は、少しずつ日が暮れるのが遅くなる。午後6時過ぎとはいえ、まだ明るい。もし、この中に新たな犯罪者がいたらどうなるんだろうか。そんな事はあまり考えたくないが、職業柄考えざるを得ない。なんとなく、煙草に火を点ける。身体に悪いモノだと分かっているのだけれど、矢張り依存性が強いモノを無理にやめる訳にはいかない。それは、兵庫県警に正式復帰しても同じだろう。


 ――そして、僕は吸っていた煙草の火を消した。(了)


 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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