【完結】黒い泥-兵庫県警組織犯罪対策課・古谷善太郎-
卯月 絢華
Phase 00 依頼人
僕は、夜の三宮で一人
煙草を吸い終わって、表通りに出る。今日は金曜日というのも相まって、周辺は賑やかである。仕事終わりのサラリーマンやデート中のカップル、インスタ映えを狙って自撮りをする女性など、色々な人間が集まっている。僕は、こういう職業柄からつい人間観察をしてしまうのだが、特に怪しそうな人はいない。少し考えすぎだろうか。
しかし、
そして、僕は
「兵庫県け……じゃなかった。
無愛想な女性が僕の質問に答える。発音から恐らく中国人だろうか。
「この部屋。円さんは、そこにいる」
「ありがとう。その部屋に向かわせてもらう」
今にも壊れそうな古いエレベーターのボタンを押す。階の到着を告げるチャイムの音が、
そのまま通路を歩いて、604号室と書かれたドアをノックする。
「僕だ。古谷善太郎だ。円愛梨で間違いないか」
「そうよ。鍵を開けるから待っていて」
ドアの向こうには、
僕は、そのまま部屋へと入っていく。昔ながらのラブホテルと言った感じの部屋で、淫らなピンク色の照明が辺りを照らしている。僕は、その場に似つかわしくない会話をする。
「どうして僕が兵庫県警だと気付いたんだ」
「簡単よ。女の勘をナメないでくれる?」
「それはそうだが、僕にも
「じゃあ、旬くんからの話は聞いてる?」
「当然だ。僕は大泉警部の命令だけで動いているロボットのようなモノだからな」
「なるほど、ロボットなのね。確かに、アンタの顔に人間らしい表情はない。まるで、喜怒哀楽という表情すべてを失ったようだよ」
「そうか。それはとある女刑事にも指摘された」
「女刑事?」
「
「それって、捜査一課と組織犯罪対策課の間に因縁でもあるってことなの?」
「それはどうだろうか。正直言って僕にも分からない。それよりも、早く本題に入らせてくれ」
「はいはい。私、付き合っていた彼氏が山谷組のヤクザだったのよ。そうだと気づかずに付き合っていた私も悪いんだけど、多額の借金を背負わされることになった。その額は3000万円。正直言って払える額じゃないわ。それで、アンタには彼氏の事を洗いざらい調べて欲しいわけ。これ、彼氏のデータだから」
僕はスマホでアドレス帳のデータを受信した。名前には
「四隅行雄か。名前は聞いたことがあるな」
「流石刑事さん。知っていたのね」
「ああ。彼はヤミ金融を営んでいるとして組織犯罪対策課でもマークしていた。まさか、本物のヤクザだとは思わなかった」
「ヤクザだったら、めちゃくちゃお金持ってそうなのに……。そこまでしてお金が欲しい理由って、何かあるのかしら」
「それは僕にも分からない。しかし、ヤクザの資金源となると放っておけないな。僕がなんとかしなければ」
「そうね。アンタならなんとかしてくれると思っているわ」
「僕はこれで失礼する。急いで大泉警部の元に戻らないといけない」
「まあ、そうは言わずに……」
そう言って、愛梨は全てを
「今日だけは、アンタは私のモノよ」
その甘い言葉に、僕も全てを曝け出す。そして、そのまま愛梨のいるベッドへと入った。己の黒い蛇を、愛梨の
――その夜の事は、出来れば忘れたかった。
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