愛を知らない魔女の二回目の人生

猫カイト

第1話終わりと始まり

「君は強い子だ。だが強くありすぎた。」

血だらけの彼の剣が私の体を貫く。

その剣は素早く引き抜かれそこから血がしたたる。

血の染みは部屋を赤く飾り付ける。

「こんなに美しい最後を遂げられるのであれば満足だ。」

私は私を貫いた彼に笑顔でそう告げる。

彼は悲しそうな顔をしている。

なぜ?あの時から決まっていたことなのに。

なぜ私の心は苦しいの?

あぁ、これが恋か

私は初めての感情を死際で悟る。

この感情をもっと速く知れていれば変われたかも知れないのに。

そんな後悔が私を襲う。

時計盤は決して戻せないと言うのに。


「ならもう一度チャンスをあげるよ」

そんな声が私の脳に響く。

「でも料金は貰っていくよ?二度目の生に同等な対価を。 それでもいいかい?」

契約書が私の前に現れる。

「これにサインすれば新たな旅が始まる。

その旅を良くするも悪くするも決めるのは君自身だ。僕はあくまで機会を与えるだけ。わかったかい?」

もう一度の旅...それは辛く険しいと分かっている。

本当は旅なんてもうしたくないはずなのに..

私はペンに手を伸ばす。

「これで契約は完了だ。」

声が遠ざかっていく。

私は疑問を大声で訪ねる。

なぜ私にチャンスを与えたのか。

「僕はバットエンドがだいっきらいなのさ!

恋を知らない少女なんてバットエンドもいいとこさ。」

バットエンドか...彼にとってはハッピーエンドだったのだろうか。

「その答えも旅で探すといい。」

声の主はそういい消えていく。

そして私も消えていく。


(寒い...)

私が目を覚ますとそこは真冬の街だった。

暖まれる所に移動しようと身体を動かそうとするが動かない。

私は自分の手足を見る。

その手足は恐ろしく小さく触れただけで折れてしまいそうな手足だった。

そう。私は赤ん坊になっていた。

「こんな時期に捨て子かいまるで童話だね。」

老婆がわたしを見つけ持ち上げる。

「魔憑きかい...どうするかねぇ」

魔憑き...

それは生まれついて魔力を持った赤ん坊の事。

私の世界では生まれつき魔力を持つものは少なく、悪魔の僕として扱われていた。

この世界でも変わらないのだろう。

「見てみぬふりも出来ないか。」

その老婆はあろうことか私を連れて家に入る。

魔憑きの周りはどれだけの差別が待っているか分かっているはずなのに。

私には理解できなかった。

人間とは他人と違うものを嫌悪する生き物だ。

その人間が他人とは違う魔力と言う力を持っているものを拾うなんてありえない。


「あんたの名前どうするかねぇ。」

老婆は考え込んでいる。

名前 以前の私には無かったものだ。

破壊の魔女や破滅の魔女なんて呼ばれたがそれは名前ではない。

「雪の日に見つけた子供だからホワイトなんてどうだい。ありきたりの名前だけどね。」

老婆は私を見て笑いそう告げる。

ありきたりの名だ。

だが何故か心が暖まる。

「初めて笑ったね。無表情な子かと思ったけどそうじゃないようだ。」

老婆は私の顔をつつきながら笑顔でつげる。


グゥー

私のお腹がなる。

「ご飯だね。何か幼児が食べれるものあったかしら...」

老婆は台所に向かう。

「こんなものしか無かったけど食べれるかね?」

老婆は私にパンをちぎって食べさせる。

私は腹が減っていたのでパンを急ぎ食べる。

飢えこの感情を味わったのもいつぶりだ。

「そうかいそうかいそんなにお腹が空いてたのかい。」

腹を満たし瞼が重くなってきた。

やはり身体が赤子の物だからか思考も赤子に引っ張られるのか。

「ねんねかい。ゆっくり寝な。」

老婆の笑顔を見ながら眠りに落ちる。



魔女...それは力を持ちその力をおのが為にしか振るわぬ魔法使いの事。

俺が住んでいた国では悪として処罰されてきた。

 本当にそうなんだろうか。

魔女たちの多くは魔憑きとして扱われ、己の力のみで生きてきた人達だ。

そんな生ならば力を己の為に振るうのは当たり前なのではないか?

嫌、己しか知らぬのでその力を他人の為に使うという事が分からないのではないのか?。

本当は優しかったのではないのか?

俺はそう考える。

俺がそう考える理由はある魔憑きの少女と出会った事が起因する。

 彼女と出会ったのは本当に寒い日だった。

友達と遊んだ帰り道。

「寒い...」

俺は震える美しい白い髪の少女に出会った。

その少女は美しく、まるで彫刻のようだった。

そしてどこか妖艶さも感じた。

その少女に俺は一目惚れをした。

「寒いんだろ。これ使えよ!」

俺は赤くトマトのようになる顔を見られないようにしながら着けていたマフラーを渡す。

「でもそれじゃああなたが...」

彼女は遠慮をしたようにそう告げる。

「うちすぐそこだから!」

俺は恥ずかしい顔を見せぬため走り抜ける。

「待って!」

彼女の呼び止める声が聞こえるが気にせず走り抜けた。

次の日俺はその少女の事がきになり友人たちに訪ねた。

「その子多分魔憑きの子だよ。」

友達の一人がそう告げる。

「魔憑き?」

魔憑きについて知らなかった俺は首をかしげた。

そんなに俺に友達は教えてくれた。

魔憑きは魔女の子供で悪いやつなんだと。

「何で魔女の子供なら悪いやつなんだよ!」

俺は彼女を悪く言われ怒る。

俺はその日皆から苛められた。

それだけ魔憑きという存在は嫌われているのだと実感できた。

だが俺には彼女がそんなに悪く思えなかった。

次の日みんなの記憶から昨日の出来事が消えていた。

そこで俺は分かった。

彼女が力でみんなの記憶から消したのだと。

そんな優しい子が悪くは思えなかった。


「こんなに美しい最後を遂げられるのであれば満足だ。」

大罪を犯し続けた魔女はそう笑顔で倒れて生を終わらせた。

なぜこんなに悲しくなるのだろう。

彼女は罪を犯しているというのに。

彼女と話がしたかったと感じてしまう。

あのマフラーをあげた少女を思い出すのは何故だろう。

俺は分からない悲しみを抱きながらその魔女の拠点から出ていく。

 帰りの道すがらマフラーが飛んできた。

それはボロいが大事にされていたようなマフラーだった。


「サービスさね。」
































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