第25話:邂逅
記憶にあるデートとは違う、だが見覚えの有る場所でのデートは、マリーズの心を
優しくされればされる程、前回との差を感じて心が軋むのだ。
今のジスランは、ちょっと駄目な貴族らしい傲慢さは有るものの、理想の婚約者と言えるだろう。
「この花を公爵家の庭に植えるように、管理者に言っておけ」
マリーズがジッと眺めていた花を、ジスランは公爵邸の庭に移植するよう近くに居た係員へと命令する。
「いえ、この植物園の花は特別な手入れが必要でして」
係員は突然の命令に、目を白黒させてながらも、丁寧に対応してくる。
「では、その手入れが出来る者ごと公爵家へ移動させれば良いだろう」
ジスランは当たり前のように言い、なぜ解らない?とでも言うように鼻で笑う。
横暴極まりない発言である。
「ジスラン様?私、ここで他の花に囲まれて咲いている、この花が可愛いと思いますぅ」
可愛いピンク色の薔薇を見て、マリーズは笑う。
「そ、そうか」
ジスランは係員への命令を撤回して、下がらせた。
公爵家の庭で前回咲いていた、他の花との調和が取れていないように見えた元気の無い薔薇は、今のように無理矢理移植された物だったのだろう。
コレットの好きそうなヒラヒラとした派手な花弁の薔薇だ。
今回はジスランが勝手に動いたが、前回はコレットが甘えて
「ここで色々な人に見られて褒められた方が、お前も嬉しいわよね」
匂いを嗅ぐ振りをして、マリーズは薔薇へと呟いた。
ジスランとの仲を、節度のある範囲で順調に深めていたある日。
約束通りアルドワン公爵家を訪ねたマリーズは、午前中の予定が押してジスランがまだ帰って来ていないと、一人で応接室で待たされていた。
お菓子とお茶を用意したメイドは、すぐに退出した。
「時間潰しに誰か話し相手を寄越しましょうか?」
メイド長にそう提案されたが、偶然ここに来る前に新しい本を買ったばかりだったので、マリーズは丁重にお断りした。
新しいインクと紙の匂いを感じながら、マリーズはページをめくる。
女性が読むには珍しい、経営学の本だ。
何か、前回心配を掛けただけで終わってしまったクストー伯爵家の為に出来ないかと手に取った本だった。
まだ最初の導入部も読み終わらないうちに、応接室の扉が開いた。
思ったより早かったわね……そんな思いで本を閉じ視線を上げると、入り口に居たのはジスランでは無かった。
「アンタが泥棒猫ね!」
いきなり金切り声を上げて大股で室内に入って来たのは、記憶の中よりも大分くたびれたコレットだった。
「あのぉ、どこの誰様?」
頬に手を当て首を傾げたマリーズは、可愛く見えるように計算した動きでコレットを見る。
「はぁ!?ふざけんな!アンタなんか単なるお飾り妻なんだよ!」
まだ結婚してませんけど、と言う台詞はぐっと飲み込んで、マリーズは微笑む。
「初めましてぇ。ジスラン様の婚約者のマリーズ・クストーですぅ」
ソファから立ち上がり、カーテシーをする。
ローテーブルがあるので、深い正式な挨拶では無く、子供がするような簡易の浅いカーテシーである。
それでも、コレットを黙らせる事は出来た。
「良かったら、ジスラン様がお帰りになるまでお話しません事?」
マリーズは自分の前の席を
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題名の邂逅は「かいこう」と読みます。
なぜ題名にはルビが振れないのでしょうねぇ……。
ずっと「かいごう」だと思ってたのはナイョ(笑)
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