異世界サバイバル生活~召喚されて早々追放されましたが、万能スキル【サバイバー】でクラフトと建築してたら最強になってました~

ぴよぴよ

第1話 異世界へ

 生乾き臭と汗拭きシートの混ざった臭いのする騒がしい更衣室から抜け出し、歯抜けな列に並ぶ。

 今日の授業は体育祭の競技種目となるバスケットボールとサッカーの練習。

 背が高いためバスケをやらされる事になったが、ほぼ未経験なこともあって下手くそで、失敗する度に不良の成り損ないたちに煽られる。

 元からあいつらを毛嫌いしていることもあって、あいつらに揶揄われるのは苦痛でしか無く、体育という科目も、バスケというスポーツも、心底嫌いになってしまった。

 

 これから起きるであろう地獄な二時間を想像して思わずため息を吐いていると、女子更衣室から愛らしくもありながら、クールな雰囲気も纏わせる女の子が現れた。

 体育の時は決まってポニーテールにしている彼女の名は中村夏月、女子としては高身長な百七十センチ弱の身長と、出るところは出た素晴らしいルックス、そしてアイドルにも勝る愛らしい顔立ちをしている。

 二年生になってから急に学年どころか全学年で人気を博した女子で、件の不良たちもメロメロらしく、隙アラバナンパしている。

 ……まあ、振られたらしいが。


 内心でほくそ笑むと同時に、卒業する時にでも告白してみようかと思いながら、列に並ぼうとする彼女を眺める。

 どうやら俺と同じ、と言って良いのか分からないが、このクラスには友達がいないらしく、いつも一人で行動している。

 クールな彼女の事だ、きっと一人の方が気楽だから友達はあまり作らないのだろう。


「全員並べー」


 後ろの方で声が聞こえて振り返ると、体育館に入って来たばかりらしい体育教師の山田と黒川の姿が見えた。

 黒川の方は体育館の後方で綺麗に列を作っている隣のクラスの元へ行き、山田はステージ側でぐちゃぐちゃな列を作る俺のクラスの方へやって来る。 

 それを見た不良たちは、バスケのゴール籠を掴む謎の遊びを辞めて列に入り、間隔を狭めてそれっぽい列になる。


「号令」


 山田の掛け声で体育委員が号令を掛け始める。

 面倒くさく思いながらも、しっかりやらないと晒し上げに合うため、それっぽい動きを心掛ける。

 

「気を付け! 礼!」


 掛け声に合わせて頭を下げようとした時、急に視界が真っ白に染まった。

 眩さから目を覆い隠そうするが、どういうわけか身体の感覚が全く無く、腕を動かせているのかも分からない。

 次第に眩しいと感じていた白い光がなんとも無いように感じられ始めると、少しずつ身体の感覚が戻って来た。


「うおっ?!」


 強い光を当てられた後の視界のように黒いモヤで何も見えず、そして瞼を開けてられないほどの痛みに襲われる。

 左右や後ろでも呻き声が聞こえる事に気付いて、あの訳の分からない状態に陥ったのは自分だけではなかったことに少し安堵する。

 視界が元に戻って来たところで周囲を見回すとーー


「は?」


 さっきまでいたはずの体育館とは比べ物にならないほど広い空間。

 しかし、ただ広いだけでなく、天井には宝石がふんだんに使われたシャンデリアが垂れ下がり、壁にも金がかかっていそうな装飾が施されている。

 部屋の最奥では頭に王冠を乗せたおっさんがふんぞり返っていて、その横には真っ赤な美しいドレスを身に纏った女の子の姿がある。

 さながら国王と王女といったところで、そして俺たちの周囲を取り囲む数十人の騎士と、魔法使いのようなローブを被った十人ほどの男女を見るに、これはアレだろう。

 

「これ、異世界召喚ってやつじゃね?!」


 後ろでヲタクたちが心底嬉しそうに騒ぎ始め、あいつらと同じ事を考えていた嫌悪感からため息が出る。

 と、王女がゆっくりとした足取りでこちらへやって来る。


「勇者の皆様、よくぞいらっしゃいました。私の名はマリー・ウォル・ヴァッフェン、王女でありますが、皆様と同じ立場として接してくださいませ」


 そういって一礼した彼女は、相変わらず玉座に座ったままの肥えたおっさんを手で指し示す。

 全く知らない言語のはずなのに、まるで最初から知っている言語だったかのように意味が分かり、困惑してしまいながら男に目を向ける。


「あそこに居るのは私の父、アレクサンドレ・ウォル・ヴァッフェン……今回、勇者召喚の儀の指揮を執り、見事皆様をこの場に呼び出しました」


 王女の言葉を受けてふと思う。

 それはつまり、俺たちをこの場に誘拐した主犯格はこいつだと言っているのと同じなのではないか、と。

 やっていることは犯罪であることに気付いてしまったせいか、見た目麗しい姫に対する好感が薄れ行く中、彼女は手をポンと叩いて。


「さて、皆様はこんなにも素晴らしい城に召喚され、混乱していることと存じます。ですので、今から皆様には事の経緯についてお話致します」


 そう言って語り出したのは、予想通り魔王による残虐かつ非道な侵略行為についてだった。

 約十年前に突如として異界の地から大量の魔族を連れてやって来たソレは、瞬く間に勢力を伸ばして行き、今や大陸の四割が征服されてしまった。

 このままでは人類の滅亡もありえる状態であるため、伝説に登場する勇者を召喚することで、人類を救おうとした。

 ……という内容を三十分かけて説明された。


「――そんな状況でして、今やいつ滅ぶかも分からない状態なんです。どうか、勇者様方の力をお貸しください」


 何で関わりの無い別世界の住人のために命を賭けて戦わねばならないんだと思わないことも無い。

 しかし、学校でのつまらない日常が変わるかもしれない事を考えると、それはそれでアリかもしれないとも思う。

 ――運が良ければ、日本では絶対になれない英雄だってなれる可能性もあるのだから。


「では、皆様が神より授かったスキルについて調べてまいります。【鑑定】と口にしてみてください」


 その指示に従って、俺は「【鑑定】」と呟いた。

 すると何かエネルギーのようなものがすぐ近くに集まり出し、それはやがてゲームでメニューを開いた時に出現するポップアップのようなパネルを形作った。

 そこに書かれているのは俺の名前や年齢などの個人情報、レベルや体力などの定番な数字、そして一番最後にはスキルの欄がある。

 称号などは無いのかと少し落胆しながら、三つあるスキルをそれぞれタップしてみると、説明画面に切り替わった。


「ほーん」


 一つ目は今使っているスキル【鑑定】で、視界に捉えているものや、自身のことを調べることが出来るという便利スキル。

 二つ目は【自動翻訳】で、王女の話している内容がすんなりと理解出来たのはこれだったらしい。

 そして肝心の三つ目は――


「【サバイバー】……?」


 強そうと言えば強そうだが、何を出来るのかイマイチ分からない名前をしていて、微妙なスキルが来てしまったかもしれないと、ドキドキしながらタップする。

 しかし、表示されたとんでもない長文を見て、俺は思わず顔を引き攣らせる。

 

「スキル、何でしたか?」


 他の生徒に聞いて回っていた王女がいつの間にかすぐ隣にいて、【鑑定】の画面を覗き込んで来た。

 他人も見れるのかよと驚きつつ、彼女の反応を伺っていると、表情が段々と曇って行くことに気付いた。


「あ、あの……?」


「後で話します。お待ちください」


 嫌な予感のするそのセリフに、俺の脳裏では『追放』の二文字が浮かび上がる。

 このスキルで出来ることを全て理解しておこうと、うんざりするほどの長文を全力で読み進め――すぐに何が出来る代物なのか分かってしまった。

 誰も俺を見ていないことを確認して、今度は試しに「クラフト」と呟いてみると、【鑑定】で出て来たのと似たようなパネルが現れた。

 様々なアイテム名とそれのアイコンが表示され、案の定どこぞのサバイバル系のゲームのように、何でも出来てしまうものであると察してしまう。

 と、全員のスキルを確認し終えたらしい王女は皆の前に立ち、それを見て咄嗟にパネルを閉じた。


「皆様、とても素晴らしいスキルをお持ちですね……一人を除いて」


 そう言ってこちらをチラリと見た彼女は露骨な溜息を吐く。 

 何を言われるのか、何をされるのか分からない恐怖感からドキドキしながら彼女の言葉の続きを待つ。


「さて、勇者様をお部屋へご案内したいところですが、その前にやらなければならないことが御座います。オオサワハヤト様、こちらへ」


 明らかなほど冷ややかな声で、間違いなく悪い方面に向かうであろうことが予想出来てしまう。

 鼓動が外にまで聞こえてしまいそうなほどうるさくなる中、震える足を動かして彼女の元へ近付く。

 説教されているのが確定的な呼び出しを受けた時よりも恐ろしい。


「あなたのスキル、百年前とはいえ、この世界でも発見例のある代物です。なぜ、勇者でありながらその程度の物しか持っていないのですか?」


「神が決めたこと……なんじゃないですか?」


「喧嘩売ってます?」


 この子の沸点がよく分からない。

 

「もう良いです、あなたのような罪人には消えて頂きます。シューベル、来なさい」


 名を呼ばれたのは俺たちの周囲で待機していた魔法使い風の男で、彼は返事をしながら寄って来た。

 この場で消し炭にされるのだろうかと不安を覚えていると、彼女は小声で何かを指示する。

 耳を澄ませてみると、少しだけ聞き取れた。


「……の森に送りなさい」


 森に送るということは、殺されるわけでは無いという事か?


「よ、よろしいのですか?」


「早くなさい」


 そう言われた彼だったが、俺と目が合うと気まずそうに目を逸らす。

 王女よりもよっぽど常識的らしい彼の様子を見て、この人に縋ればどうにかなるのではと、淡い期待を抱くと同時、後ろから近寄って来る足音に気付く。

 振り返るといつも通りの感情が読み取れない無表情な顔をした中村の姿があり、予想外な人物の登場で驚きを隠せない。


「……大澤君をどうするつもりなんですか?」


「ナカムラカヅキ様でしたね? あなたには関係の無いことです。皆様の元にお戻りください」


「大澤君は同じクラスメイトです。知る権利は当然ありますよね」


 絶対零度が如く冷たい声同士がぶつかり、会話に参加していない俺がチビリそうになる。

 それは魔法使いの男も同じなようで、少し怯えた様子で中村と王女を交互に見やり、俺と目が合うと困ったように目を逸らす。


「シューベル、この女も一緒に送りなさい。こんな無礼な人間、魔物に食い殺されて当然よ!」


「は、はあ……」


 急に発狂した王女に呆れた様子で、彼は宝石のようなものが乗っている杖を俺たちに向ける。

 すると中村は少し怯えた様子で俺の手を握り――フラッシュバンを喰らったかのように視界が真っ白になった。

 今度は何も出来ないなんてことはなく体の感覚はあり、そして数秒程度で視界は元に戻り、鬱蒼と茂る木々が視界に飛び込む。

 一拍遅れて土と草木の臭いが鼻の中にじんわりと広がり始め、小学校の遠足を思い出しながら周囲を見る。


「大澤君……どうしよう」


「俺が何とかする」


 手を繋いだまま震えた声で尋ねて来る中村に、俺は少し格好付けてそう言った。

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