彼女の日常
雪待ハル
彼女の日常
それは白馬に乗ってやってきた。
白馬と言ってもただの馬ではなく、ペガサスである。
胴体から生えた翼をはためかせ、ペガサスは空から悠々と地上へ駆け下りてくる。
ふわり、と華麗に着地を決めた美しいペガサスから――――それは降り立った。
「さあ、人間ども、ひれ伏しなさい!!我こそは魔法少女・カナデである!!」
空色の可愛らしい衣装に身を包んだポニーテールの少女。
彼女はその場に仁王立ちして、強い眼差しで声を張り上げた。
ビルが立ち並ぶ街中で歩いていた人々は彼女を見てはっとした顔になる。
そうしてそこにいた全員が「ははーっ!!」と跪いたのである。
「カナデさま、どうか我々をお救いください!」
「いつもありがとうございます!」
「お疲れ様です!」
街人たちがそれぞれに声を上げ、少女へ言葉をかける。
少女は彼らのその姿を見て、うむ、と満足げに頷いた。
「これから10分後、ここに魔物がやって来る。貴方たちは早急に避難するように!!」
「ははーっ!!」
彼女のその言葉を聞いた彼らは、落ち着いて行動を始める。
ある者は自分の子どもを抱きかかえ、早歩きで歩き出す。
ある者はどこかへ連絡しながら早歩きで歩き出す。
ある者は背負っていたリュックサックから『カナデさまがんばって!』と書かれたうちわを取り出して道の端っこにしゃがみ込む。
「って、馬鹿者!応援は不要だ、足手まといになるからさっさと逃げなさい!」
少女が怒ると応援うちわを構えた金髪の女子高生は「ええーっ」と不満げな声を出す。
「だって、カナデさま一人で戦うの心細くない?」
「心細いわよ!!でもそれとこれとは別!!」
少女は鬼のような形相で怒鳴り、「アカル!!」とペガサスの名を呼んだ。
「この子を連れて遠くへ行って」
「りょーかいっス。カナデさま相変わらず気苦労が絶えないですね。俺応援してるっス」
「やかましいわッ、早く行きなさい!!」
「はーい」
返事をした後の彼の仕事は早かった。
女子高生の首根っこをがぶっと咥えるとあっという間に飛び立って空の彼方へ行ってしまった。
少女は女子高生の「カナデさま~~っ!!」という悲痛な叫び声が聞こえなくなってから、さて、と手中に魔法のステッキを現わした。
ずん・・・ずん・・・と遠くから巨大な足音がゆっくりと近付いて来る。
少女はにっ、と不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、始めましょうか。この星はやらないわよ、魔物さん?」
カナデの戦いが今日も始まる。
おわり
彼女の日常 雪待ハル @yukito_tatibana
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