第14話「再会はしたけれど」
街の入り口に『金水蓮』がいた。
アレスにレベッカにハーマンさんにニニギさん。いつもの四人と知らない人ふたりが揉めているようだった。
ちょっと聞く限りは、お金のことで折り合いがつかなくなったみたいな感じだけど……。
「触らぬ神に祟りなし、だよね。気づかれないうちにコッソリ行こうっと」
そろーり、そろーり。
アレスたちの脇を忍び足で通り過ぎようとすると……。
「よおー、ロッカじゃないか。その後どうよ? 元気でやってるか? 困ってることでもあったらなんでも言ってくれよ? 道を違えたとはいえ、俺たちは元仲間なんだからなあーっ」
今までに見せたことのないような親し気な調子で、アレスが話しかけて来た。
「え、う、あ、アレスっ?」
「なんだよそのよそよそしい感じはあーっ。いつもみたいにもっと軽い調子で行こうぜーっ。へいへいへーいっ」
戸惑うボクと肩を組んで来るアレス。
いやいやいや、あなたと親しく接したことなんて、今まで一度もなかったけどっ?
いつもボクのことを下に見て、バカにしてたじゃないかっ?
とはいえ、下手なことを言って怒らせるのもめんどくさい。
こんなにフレンドリーに話しかけてくるってことは、少しはアレスも大人になったってことだろうし。
ならばここは平和的にいこう。
そう考えたボクは……。
「え? えーっと……その……こ、こんばんわ? そっちは元気? 楽しくやってる?」
アレスの腕をぽんぽんと叩きながら、目いっぱいの作り笑顔で応えた。
すると……。
「あ? ゴミカスがなに調子こいてんの?」
突如としてトーンを下げたアレスが、ボクの耳元で囁いて来た。
「こんなの社交辞令に決まってんだろ。そんなこともわかんねえからクビになるんだよ」
ドスの利いた声ですごまれたボクは、「ひっ……っ?」と情けない声を出してしまう。
「おいおいおい、変な声出すなよロッカくうぅぅ~ん」
ボクが怯えたのが嬉しかったのか、アレスは満面に笑みを浮かべた。
「あれ? 俺が怒ってると思ってびっくりしちゃった? そんなわけじゃないかあ~。だって俺とおまえの仲だよ? 長年にわたって一緒にやってきた仲間を怒るわけなんてないじゃないかあ~」
……なるほど。
ボクはようやく気が付いた。
今アレスは、なんらかの理由でボクとの仲を友好的に見せつけたいんだ。
それを利用して、何かを成し遂げたいんだ。
もちろん、それが何かまではわからないんだけど……。
「というわけで聞きたいんだけど、今のおまえって何やってんの?」
「えっと……一応冒険者やってるけど……」
「おー、そうかそうか。今も冒険者続けてんのかあー。いいぞー、偉いぞー。ユニークスキルが『生命感知』なんていうハンデを抱えながらよくやってるなあー」
ニコニコ、ニコニコ。
笑顔のわりに、アレスの言葉にはトゲがある。
「でもけっこう辛いだろおー? おまえのレベルの低さとそのユニークスキルじゃ、きっとどこのパーティーにも入れないもんなあー。たぶん今もソロなんだろー? っても狩人じゃ魔物討伐は出来ないから、採取クエスト中心ってとこかー? 世の中的には重要な役割だけど、寂しいよなあー? 稼ぎも少なくて、いつもひとりで悲しいよなあー?」
「寂しい? 悲しい? ああまあ……以前はそうだったけど、今ではそうでもないよ?」
「うんうんそうだよなー。そこで強がるのが男ってもんだよなあー。わかるわかるぅー。でも俺の前では本音で話していいんだぞおぉー?」
「ああいや、強がりとかじゃなく……。そもそもボク、今はひとりじゃないし、パーティー組んでるし……」
「……
ひとりじゃないと言った途端に、アレスの声のトーンが下がった。
ニコニコ笑顔は崩さないままだけど、声の端々がひび割れてた。
「はっはっは、なに言ってんの? そんなわけないだろうがぁー。やだなあもう、強がり言っちゃってぇー」
「いや、強がりとかじゃなく……」
「強がりじゃなかったらウソだろぉー? おまえみたいな弱くてどんくさくい奴とパーティー組んでくれる奴なんているわけないじゃないかあぁー」
「いるよ。ボクが弱くてどんくさいのはたしかだけど、そんなボクでもいいって言ってくれる人がたしかに……」
「
こめかみに青筋を浮かべたアレスが、ぎゅっとボクの顎を掴んだ。
何が気に障ったのかはわからないけど、ぎりぎりと骨を折らんばかりに力をこめ、にらみつけてくる。
「おまえがパーティーなんか組めるわけないんだ。おまえなんかを信頼してくれる奴なんかいるわけないんだ。変なウソをついてないで、とっととホントのことを……」
その時だった。
ブゥンと大きな音がした。
ブゥン、ブゥン。
風を切る音が立て続いた。
そのたび凄まじい風圧で地面の砂が飛び、ボクの頬をバチバチ叩いた。
「あらあら、おかしなことを言いますねえ~? ロッカさんがウソつきですって?」
恐る恐る声の方を見ると、そこには風圧の主──クラリスさんがいた。
腕を振り回しているのはおそらく
ドラン三兄弟に喰らわせたあの『神罰』を再現するつもりなのだ。
「ク、クラリスさん、それはダメですよっ」
ボクが慌てて止めると、クラリスさんは悔し気に拳を納めた。
「むむ、ロッカさんがそう言うのでしたらしかたないですね……」
だけどクラリスさんは止まらなかった。
『神罰』がダメなら舌戦だとばかりに口を開いた。
「あなた、アレスさんと言いましたっけ。どうしてロッカさんがウソつきだと感じるのか、その辺を詳しくお聞かせいただいてもよろしいですかあ~?」
美しく恐ろしい笑みを浮かべながら、まっすぐにアレスに対した。
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