純白な来世にて

春ノ宮 はる

第1話 最後の出会い

 柔らかに陽の差し込む小さな山小屋。古びた木製の椅子に、彼女は座っていた。

「あら、君は地球の子?」

 すべてを見透かすような、透徹として円らな瞳。

「私もだよ。まだ生き残りがいるなんて思わなかった」

 返事を待つことなく、彼女は続ける。

 有り体に言うと、地球は宇宙人に攻め込まれている。

 突如として空からサーチライトのような筋が無数に下りてきて、そこから異様に目の大きい半透明で小柄な人型が黙々と流れ出た。その光景が瞼に張り付いて離れない。

 彼らは、手当たり次第に人々を捕獲し始めた。手のひらサイズの真っ黒な物体に、次々と人が吸い込まれてゆくのだ。

 私は家族ともはぐれて無我夢中で逃げてきて、自分が生きているのだとやっと認識できたのが先ほどのこと。どれだけの時間逃げていたのかもわからない。自分が山奥まで来ていることすら自覚がなかった。

 そんないきさつをしどろもどろに話したところ、彼女も同じようにしてここに来たらしかった。

「私たち、助かると思う?」

 どこか他人事のように、彼女が問いかけてきた。

「わかりません。私、何が起きてるのか、何が何だかもうよくわからなくて」

「じゃあ、助かりたいと思う?」

「それは……もちろん助かりたいです」

 口元に不敵な笑みをこぼしながら、彼女は私の目をまっすぐに見据える。

「嘘、ついたでしょ」

「ついてません。死にたくないに決まってるじゃないですか」

 嘘なんて、ついたつもりはない。口に出したことはどれも私の本心だ。

 でも、彼女にまっすぐに見つめられて、なんだか胸がどきっと跳ねあがるのを感じた。まるで、嘘を見抜かれたみたいに。

「死にたくはないかもしれないけどさ。これまでの日常にもどりたいとも、正直思わないでしょ?」

 また、先刻と同じ瞳が私を捉える。逃げられないと、心のどこかが悟る。

「ねえ君、ここで一緒に暮らそうよ。似た者同士だと思うんだ、私たち」

 出会ったばかりなのに、私のすべてがばれているように感じた。私にも知りえないような深奥の錯綜すら、彼女に見透かされているかのようだ。

「どうして……」

「息苦しかったよね。心の奥底でどろどろと得体の知れない感情が混ざり合って、溶け合わなくて。それでも本当の自分なんて醜いものは受け入れてもらえなくて。必死に隠してきたよね。求められる自分を演じてきたよね。きっと皆そうなんだよ。皆苦しんでる。でもそんなのっておかしいよね」

「ちょっと、待ってください! なに言ってるんですか!」

 滔々と語る彼女を止めたのは、彼女の言うことが理解できなかったからじゃない。あまりに的確に私の心奥を言い当てるようだったからだ。

「だから二人だけで、ここから離れず暮らしていこう。下でだれが探していても、もう戻らない。これまでの私たちは死んだの」

 彼女の瞳はブラックホールのように深く、私をつかんで離さない。

「真っ白で混じり気のない来世を、二人でいっしょに築いていこう」

 地球最後の二人は、静かに約束を交わした。

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純白な来世にて 春ノ宮 はる @harunomiya

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