第19話 一秒でも早く走って、堀の涙を止めてやれ!
その頃、教室では。
チョコが見つかった喜びに顔を輝かせて駆け寄る者。ようやく姿を現した遠峰に、チョコ渡さなきゃ!と紙袋を胸に抱いた女子。
芳乃や片山達と、表情を曇らせる遠峰の只ならぬ雰囲気に、
状況が掴めずに、何となく芳乃達に近寄っていく者、と教室内で思い思いに動く生徒達。
青木と田中も状況を把握できずに、輪の後ろでコソコソと話し始めた。
(な、なあ。ここは喜んでいいとこじゃないのか?チョコと手紙、あったんだろ?)
(……手紙かチョコのどちらかが無かった、とか?あんましいい雰囲気じゃないね)
(ここまで来たら……笑顔の堀さんが出撃するとこ見たいよなぁ、たぬちん)
(とりあえずお口チャックしてなよ、アホちーは)
ぐぐぐぅ!と二人が無言でお互いの腕を取り、小競り合いをする
芳乃と菜々子は、俯いている遠峰を下から
●
「なあ、本当にどうしたんだ?怪我でもしたのか?美海のチョコがこうして見つかって、みんな喜んでんだ……おい、遠峰?」
「いや……僕、だけで取り返した訳じゃ、なくて……」
「そうなんだ!その人達はどこに……とおみー、本当にだいじょぶ?顔色、すっごいよ?」
遠峰の肩をばんばん!と叩いては首を
そこに、片山が割り込んだ。
「なあ、遠峰。お前まさか……中身見て、堀の好きな相手を知っちまったとか?」
「「……!!!」」
片山の言葉に顔を見合わせた芳乃と菜々子。
「……遠峰、見たのか?!」
「もしかして手紙の中身がお外にはみ出て、見えちゃった、とか?!」
「み、見てない!袋の中を覗いてもない!堀さんの、好きな人の……なん、だから」
唇を噛み締めた遠峰の言葉に、二人は胸を撫で下ろす。
その周りで羨ましそうにする男子達や、キラキラと顔を輝かせる女子達。
そう。
皆、美海のチョコが見つかる手助けをしたものの、美海の意中の相手を知らない。
このクラスで知っているのは、芳乃と菜々子、同中で美海や芳乃達と仲の良かった片山だけである。
だが、ここで。
片山はとある可能性に気付く。
「……あ」
「……
「うんうん!アホっぽい顔だねえ!」
「うっせえわ!」
芳乃と菜々子に同時にツッコまれた片山は二人に言い返した後に、さも愉快そうに笑った。
「よっし!堀のチョコが無事見つかった事だし!お、そういや芳乃。堀はいつ帰ってくんだ?」
「ちょい待ち……。” 買えたよ!ありがとう!今から学校に戻るね! ”って入って……いや。” 緊張してきた!ごめんね!公園で休んだら帰るね! ”って続いてる。電話出ないし、帰って来てる所なんじゃないか?」
「お、あそこか」
ふむ、と顎に手を当てた片山。
そこに菜々子が乗っかる。
「あのお店から学校までの公園って、あそこだよね!ゾウさんの滑り台があるとこ!」
「だな」
その言葉を聞いた片山は、俯く遠峰にニヤリと笑う。
「遠峰。第三公園に堀がいるみたいだから迎えに行ってやれよ。走りゃすぐだ。堀、チョコが見つかってお前に感謝すると思うぜ?何せ、今年は好きな奴に告白するんだ!って気合入ってたみてえだし」
「……?雄二?」
片山の微妙な言い回しに首を
だが、片山は尚も続ける。
「堀は可愛いし、あんないい奴だからなあ。とうとう我らが人気者、堀美海に初彼氏だな!明日には堀と彼氏がいちゃラブで登校してくっかもなあ!」
「……」
黙りこくる遠峰と、お相手は誰?!と否応なしに盛り上がる教室の中で。
片山は踏み込んだ。
ゴンッ!!
遠峰の胸倉を掴んで、頭突きを浴びせかける。
衝撃に堪えきれずに遠峰はよろけた。
「いっ?!……!!」
「きゃあ!かたりん?!だ、ダメぇ!」
「雄二!何してんだ!よせよ!」
割り込む芳乃が片山の肩を押し、カタカタと震えながらも菜々子が背中に遠峰を庇う。
騒然とする教室。
片山は手で周りの
「藍原さん、ありがとね。下がって」
「で、でも!ケンカしちゃダメなの!」
「驚かして悪かったな菜々子、芳乃。今だけだ」
「雄二!やめろって!」
必死で止めようとする菜々子と芳乃に、ひらひら、と手を振りながら。
片山は遠峰を睨みつけて怒鳴った。
「早くそいつを堀に渡しに行けよ!走れ!いつもニッコニコしてやがる堀だってなぁ!五年分気持ちが詰まった大切なもんを無くして落ち込んでるに決まってんだろが!」
「……!!」
片山の言葉に、遠峰は目を見開いた。
「行けよ!一秒でも早く走って、堀の涙を止めてやれ!言いてえ事があんなら、ついでに今日吐き出してこいや!明日には彼氏持ちだぜ?行け!行け!走れ!!」
「ごめん!目が覚めた!行ってくる!」
遠峰は背中を向け、教室を飛び出していく。
●
「……ま、明日には彼氏なんじゃねえの?お前がな」
寄り目をしながら舌を出した片山が、先程とは打って変わった笑顔で芳乃と菜々子を交互に見る。
「お前、遠峰の気持ち知ってたのか?!」
「かたりん!教えてくれてもよかったじゃん!」
「知らん。勘だ」
「……え?」
目を点にする芳乃。
「しょっちゅうフラレ虫のウチの姉貴みてえな顔をしてたから
「お前、野生の勘か?
「すっご!とおみーのあの顔、絶対そうだよ!」
今度はニヤニヤとしながら舌を出した片山だったが、そこで想定外のハプニングが発生する。
「片山くんっ!これ、貰ってぇ!」
「めちゃめちゃカッコよかったよ!私のもぉ!」
「あ、あの、あ、のぉ。つまらないモノですが」
「お!いーね!最高!どんどん持ってこーい!」
殺到し始める女子達に、驚きながらもチョコを受け取っていく片山。
「大漁、大漁……ん?おい、おいおい。……お前ら!他人の名前くらい外して持ってこいっつーの!!げっ……『遠峰君へ』とか書いてあんじゃねえかよ、おいぃ!!」
アセアセと見守る芳乃をヨソに、沸き起こる大爆笑に片山は顔を顰めて叫ぶ。
芳乃はコッソリと胸をなで下ろしたのだった。
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