第17話 何か、あったんか?


 昼休みの鐘が鳴る。


 遠峰が駅のベンチで座っていた、というチャットに希望を持った芳乃、菜々子、そしてクラスメイト達だったが、遠峰のその後の足取りが掴めずにいた。


「やっぱダメだわ。留守電になんねえし、既読もつかねえ。芳乃、菜々子、どうするよ」

「雄二悪い。そのまま様子、見といてくれ」

「かたりん!ありがとね!」

「おうよ」


 顔をしかめる片山に声をかけた芳乃と菜々子は、顔を見合わせて頷いた。


「美海、作戦変更!チョコ買いにいけ!」

「スマホ忘れないでね!これ、自転車のカギ!」

「ありがとう!」


 カギを受け取った美海が、大きく頷く。


「買う前に念の為私に電話な!駅と交番には電話しとくから気をつけて行けよ!」

「うん!わかった!」

「みうみう!焦らなくていいよ!事故に注意!」

「うん!ありがと!」


 芳乃と菜々子は脇を通り抜けようとする美海の背中に触れて、そっと押した。ありったけの、目いっぱいの、気持ちを込めて。


「行ってくるね!」


 小走りの美海は、手を握りしめながら背中を見送る視線の数々に気づかない。


 

 美海が出て行った後に、また教室内が慌ただしくなる。青木と田中ペアが、天を仰ぐ。


「テニス部の先輩経由で効いたんだけど、遠峰ともう一人の足取りが掴めないって」

「うーん……これだけやっても連絡つかないって事は後回しにした方がいいかも」

「ありがとね!たなちん、あおちー!」

「たなちん?!」

「あおちー?!」


 自分達の手を掴んで、ぶんぶん!と上下に振っている菜々子に目を白黒させる二人。


 その間にも芳乃や菜々子のスマホにはにはチャットやSNS経由で続々と情報が入ってきていた。


「ぶふ!あいつら、いいキャラしてんなあ!」

雄二片山、笑いすぎ。……もうこうなったら、テニス部の男子が何かを追いかけていって……っていうのは美海とは無関係と考えて動こう。みんな頼む!」

「任せろー!」


 芳乃の声に反応をしながら返事を返すクラスメイト達も、手がかりの一つが消え、どことなく皆が残念そうな顔をしている。


「まあ!さっき佳乃が言ったみたいな、あんま豪華なのは無理だけど手作りお菓子でもお礼に作ってくるからさ!」

「いやあー!藍原さん、気持ちだけで結構!」

「きゃー!菜々子ちゃんやめて!」

「へ?」


 クラスの方々ほうぼうから悲鳴や絶叫、断固拒否!のコールが上がり、きょとんとする菜々子。


「菜々子が先導して、実習の班でカレーを作ろうとしたら見た目がシチューになってて、なのに味がハヤシライスだったってのがトラウマになってるんじゃないのか?」

「えー?菜々子マジック、すっごかったじゃんよ!ひとつのカレーでみっつ味わえるんだよ?」


 菜々子が周りを見回すと、皆が目を逸らした。


「ひっどい!あおちー!責任をもって食べてよね!絶対美味しいんだから!」

「おおおおおお、俺ぇ?!」


 青木が絶叫し、皆が心の中でエールを送った瞬間に教室の扉がガラリ、と開いた。


 頬に大判の絆創膏ばんそうこうを貼った遠峰が姿を現わした。



「遠峰、お前全然連絡が取れないと思ったら……ケンカでもしたのか?揉め事なら手ぇ貸すぜ?」

「大丈夫か?…………あ!お前、それ!もしかして、美海のチョコか?!」


 駆け寄った片山と芳乃、菜々子。


「あ、うん……」

「とおみーだったんだ!みうみうのチョコ、取り返してくれたんだね!カッコいい!」

「あ、いや……」


 クラスが大きく盛り上がる中で、遠峰は不安げに瞳を揺らし続ける。


「……おい。何か、あったんか?」


 訝しげに自分を見る片山に、遠峰はうつむいた。


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