第9話 美海の知らないところで
少し
美海が女の子を介抱しはじめた頃、駅のホームでは。
駅員を呼びに動く者、手助けのタイミングを見計らう者、心配そうに遠目で見守る者達、立ち止まっては、ちらり、と横目で見て通り過ぎる者達、と反応は様々だった。
その中で。
なんだなんだ?と隙間をすり抜けて様子を見に来た男子が二人。
「ん?何か混んでね?んんー?あれは、小学生と……天使ちゃん?!まった具合悪い子でも介抱してんのか?俺も今度目の前ですっ転んでみよっかな……」
「やめとけ。やった瞬間に親衛隊みたいな奴らにあっという間に囲まれて治療されそうだから。それに、カバンの横のめちゃめちゃ気合いの入った袋見てから言えよ」
●
よこしまな事を言い始めた友人に忠告をする男子達の横へ、男子が一人同じ様に隙間をすり抜けてきた。
(あれは……?どうしたんだろ)
最前列にたどり着けず首を左右に動かして状況を確認する男子は、美海の姿を見つけて驚く。
(堀さん?何を……小さな女の子を抱えてる?また人助け、かな。堀さんらしい。何か僕にできる事があれば)
心配そうな顔で足を踏み出そうとした男子だったが、違う制服の男子二人から聞こえてきた会話の内容に足を止める。
「天使ちゃんの手提げの袋、本命オーラがやべえ……いや!あれは俺に渡すヤツだ!来たら即答しちゃる!大事にするから、ってハグしたる!頼れる俺がな!」
「妄想がガチすぎてキモい。ってかお前、あの子の近くにさえ恥ずかしがって行けてないだろうが。それで頼れるアピールないわー」
「今日告白されて、始まったりするかもだろ!」
(本命、チョコ……)
足を止めた男子は、カバンの脇に置いてある可愛らしい包みを眺めて唇を噛む。
そして、思う。
●
あの、チョコは。
誰に渡すのだろう。
太陽のような眩しい笑顔。
何にでも一生懸命頑張る、真っ直ぐさ。
困っている人を見過ごせない、優しい人。みんなで思わず、守ってあげたくなるような女の子。
(堀さんの本命チョコ。苦しい、苦しくてたまらない……でも、もう遅い、遅すぎた。ずっと言えずにいた僕が今さら告白したってもう……堀さんの邪魔になるだけだ)
拳を握りしめて
そこに、美海の声が聞こえてきた。
『駅員さん、こっちです!この女の子がぶつかって鼻血を出して……!』
『そうですか!びっくりしたよね、ちゃんと鼻血が止まるまで駅の事務室に行こうか。君の学校の先生とご家族に遅れるかもって連絡してあげるからね』
こくり、と頷いた女の子は美海の方へと振り返る。美海はホームの床の鼻血をそっとタオルで拭いていた。女の子は駅員に訴えかける。
『あのお姉さんと一緒がいい』
『ん?ああ、そうだね。私達も事情を聞きたいし、心細いよね。お姉さんはお時間大丈夫かな?お客様、少々よろしいでしょうか?』
『は、はい!』
『そういえば!お客様も鼻血ですか?!』
『いえ!お揃いですけど、私は大丈夫ですっ!』
●
「やばいな。俺も彼女がいなかったら惚れるかもしれん。普通、ミニタオルで床の汚れとか拭くか?女の子が気にしないようにしたのか無意識なのか知らんけど。俺も天使ちゃん親衛隊に入……ん?何だ?アイツ……おい!」
「ふっざけんなリア充!お前なんか親衛隊に入れてやるもんか、あん?」
忘れているのか、女の子を気遣っているからか。女の子と一緒に、そのまま駅事務室に向かった美海。
ホームの柱に寄りかかるように置いてあった美海のカバンに気づいた見守り隊の女性の目の前で、歩み寄ってきた若い男が袋を掴み取った。
そのまま、足早に去っていく。
●
「待ってください!」
男を追いかけて駈けだした男子、
「待て!」
「くっそ!俺のチョコに何しやがる!」
「違うだろ!っく!足
「天使ちゃんは俺のモンだああ!」
「もう嫌!」
逃げ出した男と追いかける男子三人と、追いかける見守り隊の体力自慢。
朝の駅で、逃走劇が幕を開けた。
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