第2話 道案内
家の玄関から気合いばっちり走り出た
(今出れば、学校に一時間前には着ける!でも、どうしよう。下駄箱?机の中?前日の朝にチョコが入ってたら驚くかな。まずは手紙の内容、見直してからにしないと!何回も見たけど……もっかいは見よう!いや、えと、三回くらいは……)
高揚感に包まれて、走り出しては歩いては、また走る。
何度も通学カバンとチョコを確認しながら駅へと向かう美海。
ふと、まだ空いていない店のショーウィンドウに映る自分の髪型を見て整えた後に、また歩きだそうとすると。
きょろきょろ。
きょろきょろ。
美海の目に、少し離れたカフェの店先で歩道にお土産などの手荷物を置きながら不安げに周りを見る老人の男性が飛び込んできた。
その手にはスマホが握り締められているが、操作せずに眺めては、また周りを見渡している。美海は駆け出して、男性へと声を掛けた。
「あ、あの!何かお困りですか?」
「ああ……お嬢さん、この辺りは詳しいかい?地下鉄の駅を探してるんだが、迷ってしまってね。どこにあるか知ってたら、教えてくれないかい?」
「地下鉄の駅ですね!えっと……」
自分が進んできた方向を見やって、美海は勝手知ったる地元の説明をする。
「この大通りをまっすぐ進んで、いち、にい、さん、……みっつ目の信号を右に曲がります」
「ふむふむ、三つ向こうの信号を右だね。うんうん」
「それで、曲がったら右側の歩道を進んでください。そうすると……えっと、少し歩くと牛丼屋さんがありまして」
「ああ、うん。右側を歩いて行くと牛丼屋……」
美海がそこまで説明すると、にこやかだった男性の顔がむむむ、となり、また少し不安げな表情になる。
(……大丈夫かなぁ。牛丼屋さんを通りすぎて横断歩道を渡ってから右に三分くらい歩くと地下鉄の看板があって階段を降りるんだよね……わかるかなぁ)
顔を見合わせて、むむむ、となる二人。
そこで、男性がニッコリと笑った。
「こっちに進んでみっつ目の信号を超えて、右に行ってから牛丼屋だね。わからなかったらまた聞いてみるとするよ。親切にありがとう」
ぺこりと頭を下げた男性が、笑った。
ちくり。
また道がわからずに困ってしまう男性を思い浮かべ、美海の胸に痛みが走った。
「あ、あの!私、ご案内します!任せてください!」
胸に手をあてて、美海は微笑む。
驚いて、目を大きく開いた男性。
「いや、いいよいいよ。もう十分に教えてもらったし、早く学校に行かないと遅刻してしまうよ?ありがとうね」
「いえ!私、今日はたまたま早く出てきたので、ご案内できます!ここからだとちょっとわかりにくいですし、ご迷惑じゃなかったらですが!」
「そ、そうかい?僕にとってはもの凄くありがたいんだけど……じゃあ、申し訳ないけどお願いしてもいいかな」
「はい!もちろんです!」
●
無事に駅に着いてから、改札を抜けて振り返っては笑顔で手を振る男性に頭を下げ、同じ様に笑顔で見送った美海のその手にはお土産の紙袋が二つほど増えていた。
(よかった!でもでも、申し訳ないなぁ。お土産、持ってかなくて大丈夫なのかな。『僕に恥をかかせないでほしいんだ、つまらない物だけど』って最後言われちゃったから断りきれなかったです、ごめんなさい、ありがとうございました)
美海は男性の姿が消えた方向に、深々と頭を下げた。
(よし、まだ時間はあるっ!予定通りっ!)
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