青い青年は養護教諭を攻略できない

にわ冬莉

第1話 俺様王子

 壇上に立つと、黄色い声が響き渡った。


「教育実習生として、今日から二週間お世話になります、大和凪人なぎとです。よろしくお願いします」


 簡単に挨拶をしただけで、女生徒たちが歓声を上げた。全校集会はさながら、コンサート会場のようだ。


「やばっ! なに!? 芸能人っ?!」

「かっこよすぎる~!」

「凪様~!!」

 黄色い声に苦笑いしながら、凪人はマイクを置いた。

 



 凪人はモテる。小さいころから、変わらず、ずっとだ。


 理由は明白だった。運動神経がよく、頭脳もそこそこ明晰な上、とにかく顔がいい。身長も高く、モデルのバイトをしているほどだ。


 百人の女がいれば、九十九人は彼に惚れるのではないかと自負している。

 残りの一人に関しては、謙遜のために残しただけで、本当は百と言いたいところだが。


 この学園には彼の弟が通っている。

 そして弟もまた、モテる。

 特定の彼女を作ってしまったため、今はあまり騒がれてはいないようだが。


(しかし、俺が来たからにはそんな平穏な日々も終わりだ。この二週間で、どれだけの女子に告られるのか、楽しみだぜ)


 凪人はほくそ笑みながら、女生徒たちを見渡していた。




 職員室に戻ると、早速、女性教師数人に囲まれ、質問攻めにあった。見かねた校長が間に入り、慎みなさいと注意をする。


「おはようございまーす」

 職員室のドアを開け入ってきたのは、白衣を着た若い女性だ。


「ああ、ちょうどよかった。谷口先生、こちら、今日から実習に来た大和凪人さん。タケル君のお兄さんだ。大和君、こちら養護教諭の谷口はるか先生だ」


 校長の言葉を聞き、凪人がくるりと振り返る。と、遥が眉を寄せ、何とも言い難い表情で凪人を見、吐き捨てるように、言った。


「……は?」


 凪人は、今まで見たこともないその反応に一瞬驚きながらも、いつも同様、外面用の飛び切りの笑顔で挨拶をした。

「今日からお世話になります、大和凪人です。こちらで二週間の、」

「はぁ?」

 凪人の挨拶を途中で遮り、遥。


「正気ですか?」

 遥からの予想外のセリフに、教頭が面食らう。

「え? どうしたんだ、谷口君?」

「え?」

 遥が校長を見つめる。

「え?」

 校長も、意味が分からず遥を見つめた。


 と、ぶるっと頭を振り、遥が言った。

「では、私は戻ります。失礼します」

 ぺこりと頭を下げると、何度か首をかしげながらそのまま職員室を後にする。


「……あの、僕、なにかしました…かね?」

 さすがの凪人も焦った。あんな風にさげすむような視線を向けられたのは初めてだ。女なら誰しも、いや、男ですら魅了してきた自分が。

「なんだろうねぇ? あんまりいい男だったからおかしくなったのかな? あはは」

 校長は適当に場を濁し、話題を変えた。




 二限目は特に授業もなかった。

 凪人は朝のことが気になり、保健室へと向かうことにした。彼女の態度の意味が分からない。それを、確かめたいと思ったのだ。


 扉をノックし、開ける。


「失礼しまーす。谷口先生?」


 余所行きの顔で中へ。丸椅子に座っていた遥がくるりとこちらを向き、そしてまた、朝と同じ顔をする。なんなんだ!

「あのぅ、」

 おずおずと声を掛ける凪人。

 これでも外では『俺様キャラ』で通っているというのに。


「どういうことだ?」

 真顔で、遥がそう言った。

「はい?」

「何がどうなっている?」

「だから、なにが?」

 凪人がイライラし始める。遥は大きく息を吐き出すと、

「ドッキリなのか? それとも学園一丸となって悪ふざけを始めたのか? 私は何も聞いていないのだが」

「意味が分からない…、」

 凪人が首を振った。


「私もだ! まったく意味が分からない! なんで君は、宇宙人のコスプレをして教育実習に来ているのか!」


 ピッと凪人を指し、遥。

 凪人は、すべてを理解する。


「あああ! あっ、あんた…見えるのかっ!」


 そう。

 凪人は、宇宙人なのである。

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