第10話 俺は、今後、どうすればいいんだ…

 鈴里玄すずり/くろは街中にいた。


 隣には、幼馴染がいる。


 本当は夕と付き合う予定だったが、今日の朝に、幼馴染のパジャマ姿を見てしまったという罪悪感も相まって。

 その責任を取るという形で、とあるデパートに向かっていた。


「ここなんだけど」


 色々な建物が立ち並ぶ繁華街を歩いていると、急に彼女が立ち止まった。


「私、ここに来たいと思ってたの」


 幼馴染がハッキリと言ってくれなかったこともあり、どこに行くものかと思ってたが。ここかと、ようやく知ることができた。


「来て。早く」


 幼馴染から制服の袖を引っ張られた。


 彼女とデパートに入るなんて、久しぶりである。


 二人は店内に足を踏み込むこととなった。






 デパート内は広い。

 それは当たり前のことだが、この頃、玄も、そんなにデパートへ訪れていなかったのだ。


 久しぶりすぎて、少々辺りをチラチラと見てしまう。


「こっち」

「え?」


 気づけば彼女は玄の制服の袖ではなく、手を触って引っ張っているのだ。


「なんで手を?」

「はッ⁉ 違うし、これは別に、そういう意味じゃないから」


 彼女は慌てていた。


「というか、そういう風に考える方が変態だし……」

「変態って……」

「うっさい。私が、そう思えば、そうなの……」


 彼女は不機嫌そうだが、表情は少々赤く染まっている。


 意味が分からなかった。

 幼馴染から横暴な意見を言われつつも、とあるフロアに向かうことになったのだ。






 玄はまだ、幼馴染の七野加奈ななの/かなに対して告白の返答をしていなかった。


 今のところ、夕とも付き合っているゆえ、すぐには心にケジメなどつけられないのだ。


 もう少し待ってほしいという気持ちの方が強い。


 そもそも、幼馴染から告白されるなんて想定していなかったからだ。


 幼馴染は、玄の手元から手を離していた。

 先ほどのことがあってか。恥ずかしくなったようで、積極的に引っ張って案内することはなくなっていた。


「ここよ」

「キーホルダー売り場?」

「そうよ」

「こういうの来るの?」

「別に……この頃、たまにね。来るようになっただけ」

「へえ」


 玄は始めて、そういう趣味が幼馴染にあったのだと知る。


 高校生になってからは、そんなに関わる機会なんてなかった。


 だから、予想外だったりする。

 幼馴染の趣味嗜好も、少しずつは変わっているのだと理解したのだった。




「……」


 加奈はキーホルダーの売り場前で、ジーっと異なる商品を手にして、考えているようだった。


 彼女が手にしているのは、動物のキーホルダーである。

 犬とか猫のデザインであり、しゃれていた。


「買うの?」

「別にいいでしょ。というか、まじまじと見ないでよ」


 加奈は恥じらっている。


 そんな彼女の仕草が魅力に映ってしまった。


 な、なんで、幼馴染になんて……。




「ねえ、あのさ」

「なに?」

「これどう思う?」


 幼馴染はとあるキーホルダーを見せてきた。


「いいんじゃないか?」


 それを見るなり、玄は返事を返した。


「そう?」


 加奈は嬉しそうに頬を赤らめていた。


「……私に似合いそう?」

「まあ、そうかもな」

「なんか、ハッキリとしないね」


 彼女から少々軽く睨まれてしまう。


「でも、買うんだったら、それでもいいんじゃない?」


 その場を保つために、玄は言葉を紡ぐ。


「……あんたが買うんだからね」

「ん? え、どういうこと?」

「だから、私の、あの姿を見て、何事もなかったってするつもり?」

「そうじゃないけど……」

「だったら、買って。それくらいいいでしょ」

「でも、俺、加奈の彼氏とかでもないし」

「……」


 加奈は無言だったが、彼女の瞳から伝わってくるものがあった。


 その瞳で訴えかけている。


 玄はしょうがないといった感じに頷いた。


「わかったよ、買うから」


 しょうがない。

 買うしかないか……。






「ありがと」


 購入後、彼女はちゃんとお礼を言ってくれた。


「というか、なんで、二つ買ったの?」

「これは、あとのお楽しみだし」

「後の? どういう意味?」

「今のあんたには関係ないことよ」


 加奈から意味深なセリフを貰う。


 どういった思惑があるのかわからず、玄は首を傾げることしかできなかったのだ。


 そんな中、彼女はキーホルダーが入っている袋を通学用のバッグにしまっていた。


「そうか、まあ、そういうことにしておくけど」


 玄は彼女の態度に溜息を吐いて、返答した。


「じゃあ、これからどうする?」

「加奈は、行きたいところあるのか?」

「行きたいところっていうか、あんたが行きたいところがあればね」

「いや、俺は、そこまではないけど」


 どこへ行けばいいのだろうか。


 内心、迷ってばかりいる。






「じゃあ、ちょっと喫茶店にでも行く?」

「あんたがそういうんだったら。別に行くし」


 デパートを出たところで、そんなやり取りをしていた。


 玄はまだ、彼女に対して告白の返答を返せていない。


 好きかどうかなんて、まだ自分の中でハッキリとしていないのだ。


 そういったことを引き延ばすとか、本当のところ、よくないと思う。


 だから、明日までには何とか返答するしかない。


 そんなことを思い、玄は幼馴染と街中を歩いていた。


 そして、丁度いい感じの喫茶店を見つける。


 そこに入店すると、丁寧な接客でスタッフが案内してくれたのだ。


 同じテーブルに向き合うように座るなり――


「ねえ、こういうのとかもいいんじゃない?」


 テーブル上に広げられたメニュー表。

 ここの店舗では、ケーキ類が人気なようだ。


「このショートケーキもよくない?」


 幼馴染は嬉しそうな口ぶり。

 そして、明るい笑顔を見せていたのだ。


 一瞬の出来事だったが、玄の瞳には、そのワンシーンが魅力的に映っていた。


 やっぱり、すぐにでも返答した方がいいよな。




「ねえ、これは?」

「それもいいと思うよ。加奈が好きなのを選んだら?」


 今のところは、彼女の様子を伺い、状況を見て返答しようと思う。


 そんなことを内心、考えていると。

 何やら、店内の雰囲気が変わったような気がした。


 体感的なものだろうか。


 玄はチラッと辺りを見渡す。

 すると、そこには見知った女の子の姿があった。


「ねえ、どうして、その子と一緒にいるの?」

「……え……」


 ふと、遠くから声が聞こえてきた。


 しかも、玄の瞳に映っているのは、有村夕ありむら/ゆうである。


 今、付き合っている彼女だった。


「こ、これには訳があって……」


 玄は咄嗟に、そんなことを口にした。


 すると、夕は、少々睨んだ態度で、玄がいる席へとやってくる。


 これ、まずかったな……。


 喫茶店なんて立ち寄らず、さっさと帰宅すればよかったと感じてしまうのだった。

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