第6話 あいつって、いいところあるんだな…
幼馴染のことなんて……。
どうだっていい。
そんなことを思っている。
でも、今もこんなことばかり考えているということは、どこかしら、幼馴染に対して抱いている思いがあるのだろう。
いや、そんなことはない。
そう思いたかった。
でも、そういったことは、なかなか自分の中で割り切れなかったのだ。
いくら考えないようにしても、不思議なほどに、幼馴染の顔がチラッと脳裏をよぎる。
心のどこかでは、彼女のことを忘れられずにいるのだろう。
でも、すでに今日から、
だから、幼馴染のことは、これで決別しようと強く思っていたはずだ。
それに両親同士の仲が良かったこともあり、未だに家族間での交流があるくらいだ。
先ほどゲームセンターに行き、幼馴染との懐かしさに浸ってしまったのが原因だろう。
が、でも、ゲームセンターに行かなかったら、夕に、イルカのぬいぐるみをプレゼントできなかったのだ。
結果としては良かったと思うが、心のどこかでモヤっとした感情に包まれていた。
いや、本当に忘れよう。
今、玄は、岐路についている途中である。
ちょうど、住宅街の十字路に差し掛かろうとしていたところだ。
「ねえ、どうしたの? 考え事?」
「い、いや、なんでもないよ」
右側の方を歩いている彼女から問われるが、悟られないように何も知らない振りを貫き通した。
今、考えていることは公言しない。
その方がいい。
夕とは今日から付き合い始めた。
そんな彼女に、幼馴染のことが忘れられないとか言えないからだ。
この感情をひたすら隠そうと必死だった。
そもそも、幼馴染のことなんて、どうだっていいのだから。
「このぬいぐるみ、ありがとね。クロって、クレーンゲーム得意じゃないって、言っていたのに結構できるじゃん」
「そんなことはないさ。本当にできないし。さっきのだって、たまたま取れたというかさ」
玄は謙虚な姿勢を見せた。
「でも、本当にありがとね。以前から欲しいと思っていたから」
夕は手にしているイルカのぬいぐるみを大事そうに触っていた。
彼女はそのぬいぐるみを普段から使っている通学用のバッグに入れている。
そして、とある写真を見せてきたのだ。
「そうだ、これ、半分あげるね」
「あ、ありがと」
夕から渡されたのは、先ほど撮影したプリクラの写真である。
近頃のプリクラは色合いが綺麗であり、インスタ映えしそうな感じに編集できるのだと知ることができた。
「記念になってよかったね」
「うん」
玄は優しく頷いた。
「それじゃ、明日も学校あるし。というか、私、家がこっちの方だから」
「そうなの?」
「そうだよ。じゃ、また明日ね。学校で」
夕は明るい笑みを見せ、簡単に手を振りながら、そして、背を向けて立ち去って行ったのだ。
玄は自宅に向かって歩いている。
そんな中、遠くの方から声が聞こえてくるのだ。
何かと思い、チラッと確認する。
それは近くの公園からであり、小学生くらいの子が、夕暮れになるまで、数人で遊んでいるようだった。
小学生は、まだ元気があるなと、玄は年寄みたいな感想を抱きながら、その公園を眺めていたのだ。
ん?
刹那、気づく。
その数人の小学生の近くで一緒遊んでいる高校生くらいの子がいることに。
あれって……加奈?
どこからどう見ても幼馴染である。
なぜ、こんな場所にいるのだろうかと思いつつ、玄は公園近くの道端で立ち止まるのだ。
「解散ってことで」
「じゃあ、またな」
「今度は俺が勝つからな」
公園内にいた、数人の小学生の男の子らの声が響く。
楽しげそうである。
その小学生らは、公園内で別れの挨拶を交わしていたのだ。
そんな中、玄は。昔、幼馴染とも、この公園で遊んだことを思い出していた。
あの頃が一番よかったと思う。
いや、もうそんなことはいいんだ……。
玄は自分に言い聞かせる。
幼馴染なんてどうだっていいと。
だから、立ち止まっていた玄は、その場所から歩き始める。
自宅に向かって、無心な感情で、ひたすら先へと進もうとした。
が、ちょうど、公園の入り口で、公園内で遊んでいた一人の男の子とぶつかりそうになったのだ。
「⁉」
玄は突然のことに驚く。
「ごめん。というか、俺、急いでるから」
そういう風に言うと、その男の子は立ち去って行ったのだ。
元気の良い走り方だった。
「ごめんね、なんか、迷惑をかけちゃって」
遠くから駆け寄ってくる足音。
愛嬌の良い話し方であった。
先ほどの男の子の代わりに謝りに来たのだろう。
「え?」
「ん?」
加奈が愛想よく話しかけてきたところで、彼女は気づく。
それに反応するように、玄もドキッとしながら、彼女の方を見やるのだ。
「と、というか、なんで、あんたがここにいるのよ」
「そ、それは俺のセリフだから」
「それは私のッ」
二人は公園の入り口付近のようころで口喧嘩をしてしまっていた。
「そもそも、なんで小学生と遊んでいたんだよ」
「それは、頼まれたからよ。この子たちの面倒を見てって。近所の人からッ」
「そうなのか」
というか、運が悪すぎだろ。
なんで、こんなところで、遭遇しないといけないんだよ。
玄は内心、頭を抱えていた。
「なに?」
「別に、なんでもないし」
加奈の問いかけに、玄はぶっきら棒に返答した。
「……」
「……」
二人は一瞬、無言になっていた。
「何よ」
「別に、なんでもないって」
本気で、気まずいんだが。
「あんたは帰ったら、もう夕暮れでしょ」
「か、帰るし。加奈に言われなくてもな」
「じゃあ、帰れば」
「加奈はどうするんだよ」
「私はまだ、あと一人家にまで送り届けない子がいるから。あともう少し残るけど」
「え? でも、さっき、数人の子らは帰ったんじゃ」
「他にもまだいるわ」
玄は公園内を見渡す。
砂場のところに、まだ一人だけ残っていた。
女の子のようだ。
先ほど岐路についたのは、男の子だけだったらしい。
「私、あとで帰るから」
そういうと、彼女は公園の中に戻っていくのだった。
あいつって、優しかったんだな。
いや、昔は優しかったけど……。
近頃は、横暴な態度を見せることの多い幼馴染。
でも、今、公園にいる加奈は、子供面倒をちゃんと見ているお姉さんのように思えた。
ちょっと、公園に立ち寄っていくか。
玄はそう思い、薄暗くなってきた公園に入るのだった。
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