夜明けの星に約束を
織香
白木の
「君は本当に変わっているね、エヴァ」
「そんな私を逃がそうとする貴方も、じゅうぶんに変わっているのよ。ユード」
彼のどこか楽しそうな声音に私はやんわりと、たしなめるように言葉を
どんどんと集まってくる
教会の
その地平線はまだ
聞こえてくるのはたくさんの星たちの
教会から離れていく人々の背に
「教会から逃げた二人が、教会に隠れるなんて誰も思わないでしょう? 神は心の広い御方だから、きっと僕たちを隠して下さる」
のんきに笑う彼の隣に、私は顔をしかめながら腰を下ろした。
黒い
いくら我慢強い彼でも小さな
彼の大柄で少々筋肉質な体は、ありがたいことに潰れかけた刃先から骨などの重要な部分を護ってくれた。それでも私よりもつくりが弱い彼に怪我を負わせてしまったことが、申し訳なかった。
私を
それがヒトの目に、どんな形で映るかも考えずに。
その行動に動揺していた街の住人を背に、私は彼を
『魔女から神父様を救い出せ!!』
その言葉と共にたくさんのヒトの足音が、眠りに沈む町に響く。その事に少しだけホッとして、少しでも二人で逃げられる道を探して目や耳を
私のヒトよりも
顔をしかめて私の手元を見ていたユードが自らの手をそっと重ねてくる。
彼の小麦色の手は私の貧相な手よりも大きくて、温かで。
言葉もなく、目を細めて見つめていると彼は私を見上げてきた。
太陽に愛された彼によく似合う、
澄んだ青空を想わせる笑顔。
(きっと心臓を貫かれたら、こんな感じなのかしら?)
私は目を見開いて、口元をきゅっと引き締めた。自分のなだらかな胸元に手を置いて、無事だった心臓の
だけど私が好きなその笑顔をすぐに引っ込めてしまうと、彼はいつもの
「ここから逃げなさい、エヴァ。君だけならば、どこへでも行ける」
その言葉に私は自分の頭からさぁっと血の気が引くのを感じ、息をのんだ。彼の言葉の意味がじんわりと心の中に
それがわかっている彼も、じっと私の目を
もしここでユードが私を逃がしたとすれば、
彼の命と引き換えに私はたくさんの夜を過ごせる。
人はきっと、
だからこれは
「貴方を見捨てるくらいなら、私は太陽に身を
自分の声が、細く震えているのがわかる。私は真剣な表情を崩さない、彼の大きな手を握り返した。それに額をつけた
「では僕が、君と同じ吸血鬼になればエヴァは逃げてくれますか?」
視線の先にある彼の顔が
それでも、
「私は貴方が好きよ、ユード。吸血鬼の私に
月の無い夜のような黒髪も、
春に萌える緑の瞳も、
太陽によく似合う小麦色の肌も、
からかうような彼の笑顔も、
全部一人占めしたいと思った。
そんな私の想いを知っているかのような
「お願いよ、そんなに私を誘惑しないで。それに……私が同族にできるわけないと知っているくせに」
「あなたは禁欲が好きですね。だからいつまでも幼いままだ」
その言葉にユードに視線を合わせると、口を引き結んでぱちぱちと目を
「あなたが産まれる前からこのままよ! それに私は
つんとそっぽを向いた私をなだめるように、笑いを噛み殺した彼は胸の前で十字をきる。
「血が苦手な吸血鬼などいまだに信じられないもので。それに、エヴァほど
その姿を見た私は、悲しみが胸の中に宿るのがわかった。目を
彼はどこまでも神の
悲しいほどに、私と相容れない存在。
それなのに、どうしても離れることが嫌だった。
どんな罰を受けようと、彼の側にいたかった。
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