約束
その日の晩、
「自殺はできないと言ったはずだよ……御鷹。さあ、ワタシとハグをして落ち着こう」
彼女はそう言ったが、御鷹は返答しなかった。彼は奏美を突き飛ばし、部屋から飛び出す。奏美が唖然とする中、彼はすぐに研究所から立ち去った。
御鷹が向かった先は、リベリオン・マギの拠点だ。数多の戦闘員が彼を取り囲むも、メタルミストの力によって一掃されてしまう。
「殺す……殺す……」
彼はうめき声のような独り言を繰り返し、次の標的を探す。その様子は、会議室の壁に設置されているモニターで監視されている。
「ふむ……この殺人衝動は、確かに異常だな。
何やら紅蓮は、組織とも情報を共有していたようだ。彼女はすぐに立ち上がり、発言する。
「御鷹の相手は、オレが引き受ける。足手まといを束ねても、余計な死者が出るだけだ!」
彼女の表情には、焦りが出ていた。秀一は迷うことなく、彼女に指示を出す。
「御鷹が奏美の兵器と化した以上、もはやアイツを泳がせておくメリットはない。奴を殺せ……紅蓮!」
ついに彼は、御鷹を殺すことを決めたようだ。紅蓮は何も返答せず、自分の二の腕に注射器を突き刺した。これから彼女が向かう先は、拠点の正面口だ。
御鷹の前に、紅蓮が現れる。彼女は全身に炎をまとい、臨戦態勢で身構えている。
「……叶うことなら、己自身の信念をもって立ち向かってくるオメェと戦いたかったよ」
「標的を確認。殺す……殺す……」
「まあ良い。御鷹を倒すためにも、先ずはオメェを倒してやる! 今のオメェは、オレの知る御鷹じゃねぇ!」
勝負開始だ。何丁もの銃に変形したメタルミストから乱射されるエネルギー弾と、紅蓮の放つ無数の炎の弾がぶつかり合う。まるで、彼らの周りだけ光の台風が発生しているかのような光景だ。続いて、御鷹は全ての銃を剣に変形させ、それらを遠隔操作し始める。紅蓮は灼熱の炎を放ち、剣を次々と消し炭にしていく。メタルミストの機能が増えようと、己の殺人衝動が暴走しようと、彼の力は彼女には及ばないようだ。
「目を覚ませ! 御鷹!」
紅蓮は周囲を灼熱の炎に包みこみ、その場に巨大な炎の竜を作り出した。竜はまるで生きているかのような挙動で動き始め、御鷹の方へと飛び込んでいく。
「殺す……殺す!」
御鷹はすぐに巨大な太刀を作り、炎の竜を切り倒そうとした。刀身と竜はぶつかり合い、双方の間には火花が散っている。徐々に削られているのは、太刀の方だ。
「ぜぇ……ぜぇ……殺すんだ。俺が、マグスを、殺すんだ!」
御鷹はそう言いつつ、両脚に力を入れて構えている。直後、彼の持つ太刀の刀身は砕け散り、彼の体は灼熱の炎に包まれた。大きな爆発の中で御鷹は悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちる。その体に煙をまとった彼は息を切らし、全身から血を流しながら紅蓮を睨みつけている。
「どうした紅蓮……早く、俺を殺せ」
「……やはりそれが狙いだったようだな、御鷹。だがオレは、今のオメェを殺す気にはなれねぇな」
「早くしろ! 俺をこのままにしていたら、アンタの同胞がどんどん死んでいくんだぞ! 俺はもう誰も守れないし、ヒーローにはなれないんだ!」
彼に残されたわずかな理性は、死を望んでいた。無論、紅蓮にもその気持ちが理解できないことはない。そんな彼の前にしゃがみ込み、紅蓮は笑う。
「これからは、オレがオメェを止めてやるよ。
「紅蓮……」
御鷹はゆっくりと立ち上がり、片足を引きずりながらその場を去っていった。
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