新入り

 リベリオン・マギの拠点を調べる前に、御鷹みたかたちは人質の親族の家を訪ねた。家の住人と対面する前に、愛恋あれんは大型犬に変身しておく。御鷹はインターホンを押し、家の住民の応答を待った。

「どちら様ですか?」

「マグスバスターの流鏑馬御鷹やぶさめみたかだ。リベリオン・マギの拠点の所在地を調べるために、アンタに協力して欲しい」

「おお、マグスバスターの方でしたか。今行きますね」

 リベリオン・マギが人間たちを脅かしているこのご時世では、マグスバスターの信頼は厚い。玄関の扉が開かれ、一人の老人が姿を現す。御鷹はゆっくりと深呼吸をし、彼に質問する。

「アンタの孫の匂いがついているものはないか?」

 人質のいる部屋を特定するにあたって、手掛かりの存在は不可欠だ。

「ああ、その犬に探してもらうのですね。それなら、孫が使っていた上着がありますよ」

「それで良い。後は俺に任せてくれ」

「頼りにしていますよ。マグスバスターさん」

 老人は、すぐに上着を取りに行った。御鷹はそれを受け取り、その匂いを愛恋に嗅がせる。


――――これで準備は整った。


 御鷹には、この家に長居している暇はない。

「では、失礼する」

「どうか……孫を助けてください」

「ああ、もちろんだ」

 彼は犬に変身している愛恋を連れ、その場を後にした。



 それから約一時間が経ち、二人は郊外にある怪しげなビルに辿り着いた。愛恋は嗅覚を頼りに、人質のいる場所を特定する。

「……あの辺りが怪しいね。僕の背中に乗ってくれ」

 彼はそう言うと、今度はワイバーンに変身した。御鷹は彼の背に飛び乗り、両手で角を掴む。

「御鷹……準備は良いかい?」

「ああ、もちろんだ」

「じゃあ、行くよ!」

 愛恋はすぐに飛び立ち、そのままビルの三階の壁へと突進した。壁は勢いよく破壊され、二人の目の前には、いくつもの檻の並んだ広い部屋が飛び込んでくる。しかし不思議なことに、そこにはもう人質の姿はない。そればかりか、向かいの壁にも「誰かが侵入を試みた痕跡」と思しき大きな穴がある。御鷹と愛恋が辺りを見回すと、そこには奏美かなみと、黒髪に赤いメッシュを入れている一人の少年の姿があった。そしてこの少年は、鉄の銃を手に持っている。彼らの足下では、たくさんのマグスが気絶している様子だ。


 唖然とする御鷹たちの方へと目を遣り、奏美は言う。

「……一足遅かったようだね、御鷹。人質なら、もう全員救出したよ。さあ、先ずはハグをしようか」

 何やら、彼女も何らかの方法でリベリオン・マギの拠点を特定していたようだ。

「いや、結構だ。それより、その男は?」

堺竜也さかいりゅうや……ワタシの新しい部下だよ。リベリオン・マギの連中が人々を誘拐していた時に、ワタシはわざと彼を誘拐させたんだ。竜也はメタルミストで発信機を作れるし、リベリオン・マギの拠点が簡単に炙り出せるというわけだね」

 そう――――奏美は仲間を忍ばせることにより、愛恋たちよりも効率的にこの場所に辿り着いたというわけだ。

「なるほどな……それで看守どもを二人で倒し、人質を解放したというわけか」

「そーゆーこと。さて、次にワタシたちが倒すべきなのは……」

「……なんだ?」

 御鷹は妙な悪寒を覚えた。奏美と竜也の目は、一体のワイバーンの方へと向けられる。

「御鷹をたぶらかしたマグスだね」

「……ミッション開始だ」

 マグスバスターの新入りは、奏美と同じくマグスへの温情を持たない。二人はメタルミストを構え、愛恋の方へと駆け寄っていく。

「よせ! 愛恋は悪いマグスじゃない!」

 御鷹は咄嗟に彼らの間合いの中に滑り込み、鉄の盾を作り出す。彼の盾は、エネルギーの弾を弾きながら斬撃を受け止めた。


 奏美は深いため息をつく。

「はぁ……もはや善悪なんか関係ないんだよ。マグスは人間の敵なんだから」

 それが彼女の持論だ。緊迫した空気の立ち込める中、御鷹は歯を食いしばっていた。

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