第30話 賢者

「さて、何をお作りしようかしら?」


 家に戻り台所に立つ。まだフィル様は部屋においでのようだ。フィル様の食事の好みも徐々に聞き出していかなければ。側仕えとして、主の好みを知ることは大事だ。と言っても今は大した食材がないので簡単なものしか作れない。盗賊どもに荒らされたせいだ。


「おのれ盗賊ども……フィル様の大事な食材を!」


 落ち着け、ナーリア。まずはフィル様に昼食のご希望を尋ねるのだ。……というかフィル様に会いたい。うん、そうしよう……


「わぁーーーー!! うわぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!!!」


 なっ! 二階からフィル様の悲鳴が!


「フィ、フィルさまっ!!」


 フィルさま! 私の女神様! 一体どうされたのです!!


 私は2階に駆け上がり、ノックもせずにドアを開ける。


「フィル様! どうされたのです!!」


 見るとフィル様はベッドにうずくまり、頭を抱えていた。


「ナーリ……ぼ、僕は…取り返しのつかないことをしてしまった……僕は……剣士を…」


 フィル様が潤んだ瞳で私を見てくる……美しい翡翠ひすいの瞳から今にも涙が零れ落ちそうだ……

 その姿は穢れを知らない純粋無垢な美しい少女が、知らない外の世界に怯えているよう……


「あぁ……なんて…かわいらしい…………はっ!!」


 ち、ちがう!! 今は見惚れてる場合じゃない!! 私は慌ててフィル様の元に駆け寄り、上から覆いかぶさるように抱きしめる。


「ああ……かわいい……じゃなくて、かわいそうにフィル様! いったい何をそんなに悲しまれているのです? どのようなことがあろうとも、ナーリアはお側におります! 僅かでもお心の痛みを和らげられるのなら、私は――!」


 もう何が何だかわからないが、とにかく私は無我夢中でフィル様の体をまさぐ……抱きしめる。あくまでフィル様を慰めるために!!


「あっ、ちょ、ちょっと……ナーリ…あ、んっ……ああ、いい…」


 仰向けになった拍子に、フィル様の翡翠の瞳から一雫の涙がこぼれ落ちる。


「ああ! 女神の雫めがみのしずくがっ!!」


 私は慌てて、女神の雫を舌で掬い取る。そしてそのまま舌を雫の源まで這わせ、瞼まぶたに優しく口づけをする。唇を離し、美しい翡翠の瞳を覗き込む。


 フィル様は美しい瞳をうるわせたまま、不安と期待の入り混じった色をその瞳に浮かべた。


「ど、どうしたの? ナーリア……急に……??」


 少年のようで少女のような、少女のようで少年のような……か細く、儚げで、そして可憐な声が、かすかに震えながら私の耳朶を震わせる。


 ダメです、フィル様……それはもう……女神すぎです……


 気付けば私は、フィル様を組み敷いていた。そして呟いた声は、なぜか艶のある低い声だった……


「どうもこうもありましょうか。貴方様がそのような不安な様子でおられたら……私にはこうするしか……」


 もう正直自分でなに言ってるのかわからない! でも、フィル様は嫌がってはおられない。いや、むしろその御身体は喜びに身悶えておられる! ならば……私はその期待に全力で応えるまで!! ああ、私の女神さま……


 ◇


 気が付けば、俺は幻想的なまでに美しい獣に組み敷かれていた。そう、聖(性)獣という名の獣に。今朝方けさがた、たおやかに俺に体を預けてきたナーリアとは全く異なる種類の美しさだ。幻想的だけど妖艶で……その琥珀色ヘーゼルの瞳には慈悲と弑虐性が同居している……


 俺は……ほんの少しの恐怖に震えながらも……『カラダは正直じゃねぇか、へっへっへっ』と言われても仕方ない状態になっていた。今までにないくらい、俺の霊峰がそびええ立っている、並大抵の修験者ではそのいただきには到達できまい。しかもまだ地殻変動が起きて隆起しそうだ……


 耳元で「ああ、私の女神さま……」という謎の言葉を聞きながら……俺は……貪られ、食い尽くされ、骨の髄までしゃぶられ……すべてを蹂躙された。


 そして俺は……【剣士】を失い……賢者になった。





――――――――――――――――――――

【あとがき】

 古き良き異世界転生ものが好きで、書き始めちゃいました。お暇なときにでもフォローや『★★★』いただけると書き続けるモチベが爆上がりします! よろしくお願いします!

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