三話

「起きてる? 入っても大丈夫かしら?」

「あ、は……はい」


 ドアを開けたのは、見事なブロンドを持つ長身の女性だった。


(美人さん…………!)


 柔らかに微笑みながら入って来た女性は、湯気の立つ大きめのカップを載せた盆を持っている。


「あら、起き上がっていたのね。大丈夫? あなた丸一日寝ていたのよ」

(丸一日?!)


 ブロンドの彼女の言葉に、アイリスは目を見開く。


「そんなに寝ていたなんて……」

「だいぶ疲れがたまっていたようね。それで、どうかしら? ヘイルからは「食欲はある」と聞いているけれど」


 女性は盆をベッドの脇の棚に置き、アイリスの目線まで屈んだ。


「あ、……なんだかぼうっとしてますが、大丈夫です。食欲もあります!」


 心配そうな女性の顔を見ると、申し訳ない気持ちになってくる。それを振り払うように、アイリスは声を強めた。


「そう、良かった! ぼうっとしちゃうのは、まだ疲労が抜けきってないのかしら……」


 そう言いながら、先程の盆をアイリスの前に持ってくる。


「スープを作ってきたの。お口に合うかしら?」

(わあ……! 美味しそう……!)


 コーンベースのスープを前に、アイリスののどが鳴る。いたって普通のスープだが、空腹が限界まで来ていたアイリスには極上の食べ物に見えた。


「良いんですか……?」

「ええ、もちろん!」

「……いただきます……!」


 胸の前で短くお祈りをして、カップの横のスプーンを取る。スープを掬い口に含むと、そのの温かさとコーンの甘みと少しの塩気が、口の中にじんわりと広がった。


「…………美味しいです……!」


 一口目をゆっくりと堪能した後、アイリスは女性の顔を見てそう言った。


「ありがとうございます……!」

「どういたしまして。良かった、お口に合ったみたいで」


 女性はほうっと息を吐いて、また笑顔になる。


「私はブランゼン・ヴィドニア。ヘイルから名前だけ聞いてるかしら?」

「私はアイリスです。ヘイルさんからはブランゼンさんは友人だと」

「そうそう。ここは私の家だから、アイリスもゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」


 アイリスはもう一度礼を言い、スープを食べる。その様子を笑顔で見ていたブランゼンだが、スープが残り半分という所でゆっくりと、こんな事を聞いてきた。


「……あのね、変な事を聞いてるかも知れないけど……アイリスは、人間……なの?」

「…………はぇ?」


 アイリスは思わず気の抜けた声を出す。そして、質問の意図が分からず、首を傾げた。


「えっと……人間……です、けれど」


 自分は、魔物か何かに似ていただろうか? そんな事を考える。

 その言葉を聞いたブランゼンは、「ああ!」と声を出し天井を仰いだ。


「……いえ、ごめんなさい。アイリスは全然悪くないの。全く……ヘイル……」

「ヘイルさんが……?」


 ブランゼンは頭を振り、決心がついたようにアイリスの瞳を真正面から見据える。


「アイリス、ここはね。ここは……玻璃の都。数少ない竜がすむ場所の一つ」

「…………え?」

「そして、そこに住んでいる私達は竜……。人間じゃなくて、竜なの。そしてあなたは、ここに迷い込んできた人間」

「……………………えっえええ??!」


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