最後の晩餐 ウロボロスのステーキ丼

 俺達が竜人の村に住み始めて半年が経過していた。


 古民家の建築を依頼したジョーも、初めて建てる古民家という事で、それなりの時間がかかると考えていた。暫くは集会場を宿にして、村の調理場を改造しながら竜人達に料理を作ろうと思っていたんだ。


 だが、いつの頃からか竜人族以外にも、俺の作った料理を食べにくる亜人たちが増えてきた。


 巨人や獣人、色々な種族達が俺の料理の噂を嗅ぎつけ、しまいには村に収まりきらないほどの行列が出来るくらいになってしまった。


 リーシアと2人、てんてこまいになりながらの毎日だったが、亜人たちは皆優しくて笑顔で「美味しい」と言ってくれる。


 そんな充実してる毎日を送っている時に、古民家がついに完成したんだ。


 古民家、というには綺麗な外観だが、それでも俺の夢が叶った瞬間だった。


 料理が得意な兎人族を新たに古民家レストランのスタッフとして雇い、忙しくも楽しい日々を送っている時である。ユウジが竜人族の村に来た。


「久しぶりだな。というか、暫く見ないうちに村がデカくなってる気がするんだが‥‥‥」


「あはは‥‥‥今やもう、この村に住んでるのは竜人族だけじゃないからな。近くに住む亜人たちが、この村に引っ越して来たから今も森を切り開いて拡張してるところだよ」


「どうりで他の亜人の姿も見ると思ったらそういう事か。しかし、良い感じの古民家じゃねぇか。シンの夢が叶ったってわけだな」


「紆余曲折あったけどさ、この村の皆も良くしてくれるからここに建てて良かったよ。それで、ユウジが来たって事は進展があったんだろ?飯でも食いながら話すか?」


「じゃあ、シェフのおススメでも食いながら話すか」


 おススメと言われたらアレを出すしかないな‥‥‥この大森林の王であるウロボロスを使った料理『ウロボロスのステーキ丼』


 狩りたてほやほやの新鮮な肉だけど、俺は専らステーキはミディアム派だ。そんなわけで、ユウジにもミディアムを提供しようと思う。


 ロースト村から仕入れた香りが強いニンニクを油をひいた鉄板で焼いていく。


 後は、にんにくの香りが付いた油で、塩コショウを両面に振ったウロボロスの肉を両面こんがり焼いていけば完成ッ!!



「ステーキ丼か!!良いじゃねぇか!これはなんの肉なんだ?」


「ウロボロスの肉だよ」


「ブホッ!!ウロボロスって、あのウロボロスだよな‥‥‥?あれって倒せないはずじゃなかったか?」


 ユウジが驚くのも無理はない。ウロボロスはこの大森林の王として有名だが、誰も殺すことの出来ない不死の魔物として有名だからだ。


 蛇の様な長い胴体に一対の翼を生やした魔物だが、頭を切られようが、潰されようが必ず再生してしまうという凶悪な魔物だ。


「正確には倒してないぞ。半分に切って再生しない方を持ち帰ってきてるみたいだぞ。村の皆は永久にウロボロスの食材を取れて嬉しそうにしてたな」


「いやいや、おかしいだろ?ウロボロスはそんなに簡単な相手じゃないぞ?いくら竜人達が強いからと言って、そんなポンポン狩れる相手じゃ‥‥‥まさか」


「そのまさかだよ。俺の料理を半年以上、毎日食べてるんだぞ?だからどうしようかと俺も頭を抱えてたんだよ」


「こんな短期間でそこまで強くなるんだな。俺もシンの料理スキルを甘くみてたわ。とりあえず、ステーキ丼を食ってから本題に入るか」


 そう言うとユウジは一瞬でステーキ丼を平らげ、無言で空になった丼ぶりを俺の目の前に出して、おかわりを要求してきた。余程美味しかったらしいな。




「それでだな、魔術の解析が終わったぞ。結論から言うと、術式が複雑過ぎて下手にいじると最悪、この大陸が滅ぶ」


「は?じゃあ結局、俺達みたいにこの世界に飛ばされる人が出て来てしまうのは防げなかったって事か?」


「最初に術式を解析したって言っただろ?空間転移の術式はいじれないが、こちらの世界から日本に空間転移の術式を繋げる事は理論上可能だ。そもそも――――」


 ユウジが言うには、あの古民家から無人島に繋がれているワームホールの様な物は一方通行である為、こちらからは古民家には戻れないそうだ。


 だが、こちらの世界から例の古民家に、一方通行のワームホールを繋いでしまえば、戻れるという事らしい。


 ここで問題になるのが、空間転移の術式を使えるだけの魔力量の持ち主が居ないという事だが、それはユウジが討伐した『黒の冠』の魔石を使用すれば大丈夫、という事だった。


「じゃあ、ユウジの目的も叶ったわけだな」


「ああ。シンは元の世界に戻らないのか?」


「いや、俺はこの世界で生きていくよ。正直、レストランを開ければ地球だろうが、異世界だろうが関係ないからな」


「ははっ。そうか。それでだな、ここからが本題なんだが‥‥‥シン。無人島に古民家レストランを建てないか?」


「‥‥‥は?」


「空間転移の術式は、ララのような特別な魔眼持ちでないと見えないんだ。つまり、帰り道があったとしても見えなければ帰れないだろ?だから、シンが無人島で古民家レストランを建てて、古民家の裏口に地球に繋がる空間転移の術式を繋げれば、間違ってこっちの世界に来ても戻れるってわけだ」


「んー‥‥‥別に俺がわざわざ無人島でレストランを建てなくても、小屋でも作ってそこに空間転移の術式を繋げれば良いんじゃないか?」


「勿論、それでもいいさ。だけど、シンだって亜人たちがどんどん強くなって困るとか言ってなかったか?」


「ぐっ‥‥‥やっぱり不味いかな?でも、無人島に古民家レストランを開業したって客が来ないんじゃ、ただの無人島でのスローライフじゃんか」


「例えば、迷宮の最深部にあるセーフスポットと呼ばれる場所にプレハブを置いて、無人島と繋がる様にすれば、そこそこ客は来ると思うぞ?」


「なるほど。それ面白そうだな。最深部まで潜れる冒険者は元々実力があるから、俺の料理を食べて身体能力が上がったとしても、俺のスキルだとは気付かないわけだ」


「その通り。どうだ?やる気になってくれたか?」


 竜人の村で古民家を開いて、忙しいながらも充実した毎日を過ごしていた。これはこれで、楽しいのは間違いない。


 毎日のようにレストランの中は亜人たちで埋め尽くされ、皆が幸せそうに俺の作った料理を食べてくれて最高の日々だった。


 だけど、俺がイメージしていた古民家レストランと違ったのも事実だ。


 ユウジが提案してくれたように、隠れ家的なレストランというのも良いのかもしれない。


 幸い、俺のレシピのほとんどを兎人族のスタッフは作れるようになっている。俺が居なくても、この古民家レストランは続ける事が出来るだろう。


「分かった。ユウジの提案を受けるよ」


 こうして、俺は無人島で古民家レストランを開業する事になり、迷宮の最深部に潜る冒険者たちの、一息つける謎のレストランとして噂が広がっていくことになる。


 俺の料理を食べようと、無理をして最深部に潜る冒険者が後を絶たなくなってしまい、泣く泣く迷宮の転移の術式を解除するというハプニングはあったものの、今もこうして俺は無人島で古民家レストランを開いている。


 転移の術式を解除したなら、客が来ないじゃん。と、思うかもしれないけど、あれからユウジとララノアさんが転移の術式の改良に成功し、大陸中に無人島へと繋がる転移門を設置してくれたおかげで、そこそこお客は来るようになった。




 そして今日も、転移門を運よく見つけた人が俺の古民家レストランの扉を開いてくる――――





【異世界でも料理人してます〜夢を叶えるまでは絶対に諦めない。目指せ夢の古民家レストラン!〜】~Fin~


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 どうも。ゆりぞうです。

 コメントもたくさん頂けて嬉しかったですし、励みにもなりました。

 本当に感謝しております。

 それでは、ここまでお読み頂きありがとうございましたッ!!























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