15品目 迷宮都市の屋台飯

 宴会も終わり村長の家に泊まらせてもらったのだが、村長の家と言ってもそこまで大きいわけではなく部屋数も少ない。何を勘違いしたのかよく分からないけど、「ごゆっくりどうぞ」と笑顔で俺とリーシアは同じ部屋に案内されてしまった。


 小さい部屋にはベッドが1つ。村長のご好意を今更断ることもできないし、どうしようか。リーシアは案山子の様にドアの前で固まって微動だにしないし‥‥‥考えてみれば女の人と同じ部屋で1夜を過ごすっていつ振りだ?


 自分の少ない恋愛経験を頭の引き出しから引っ張り出してみるが、最後に異性と付き合ったのは25,6歳くらいの時だ。それも数か月だけだし、会った回数で言えば数回程度‥‥‥もう相手の顔すら覚えてない。


 そんな自分の役に立たない恋愛経験を思い出していても仕方ない。今はこの状況をどうにかする事が先だよな‥‥‥結局、俺が取った行動はリーシアをベットで寝かせて自分は床で寝るという事であった。



 次の日の朝、村長の自宅で朝食をご馳走になった俺達は、迷宮都市に向かう事にする。その街でどんな食材、そして料理に出会えるのかワクワクする。



 馬車で迷宮都市まで1日の距離もノワルとゴマに乗れば数時間で着く。門の前には商人や冒険者グループが大勢並んでいる。前回の事もあるので少し離れた場所から歩いて向かったけど、やはりノワルを見て大騒ぎになってしまった。


 駆け寄ってきた衛兵に従魔証を見せ、なんとか迷宮都市に入れたもののテイマーが珍しいのか、ジロジロ見て来る視線が少し鬱陶しい。


「ここが迷宮都市か‥‥‥大陸唯一のダンジョンというだけあって冒険者なんかもかなりの数がいるな」


「ダンジョンでは食材だけではなくて、マジックアイテムも入手出来るからそれを狙いに来てるのかもしれないね」


 お父様から貰ったの。と言い腰に付けてるマジックポーチを見せてくれた。なんと、マジックポーチは売れば一生暮らしていけるような金額が手に入るらしい・・・そりゃ一攫千金を夢見て来る冒険者がいるわけだ。


 とは言ってもダンジョンに潜れば、誰もが巨万の富を得られるのかというと、そうではないらしい。ダンジョンに初めて潜った冒険者は1年後には約半数が、ダンジョン内で死亡している。


 冒険者ギルドも自分の実力以上の階層に進まない様に注意喚起をしている様だけど、死傷率は以前高いままだという。


 そんな危険な場所に俺が行くはずもない。俺はこの街で未知の食材を手に入れるんだッ!!



 そこで、気付く‥‥‥そこまで金がない事に。以前、冒険者ギルドで魔物を解体してもらい素材などを売りはしたけど、1番金になる肉などの食材は全部売らないで食べてしまったのだ。


「リーシア‥‥‥俺は今気付いた。俺達金持ってない‥‥‥」


「そうだけど、この都市で宿に1泊するくらいのお金はあるし、明日からは迷宮に潜るからお金の心配は要らないんじゃない?」


「え‥‥‥?迷宮潜るんですか?」


 俺はリーシアの言葉に愕然とした。なんでも、この迷宮でドロップした食材はレストランなどには流れるが、市場には流れないらしい。つまり、食材を手に入れたければ迷宮に潜るしかないという事だ。


「えー‥‥‥とりあえず嫌な事は後回しにして、今日の宿を決めようぜ」


 途中で冒険者ギルドに寄り、おすすめの宿を紹介してもらったので今日はそこに1泊する事にした。昼を少し過ぎた時間、この迷宮都市にあるレストランなども有名だが、中央広場にある迷宮の食材を使った屋台も人気のようなのでそちらに向かう。


「おぉ!!屋台がいっぱいあるぞ!?滅茶苦茶いい匂いだ‥‥‥」


「ギルドで聞いたけどアラブリダケの串焼きが美味しいみたいよ?」


「それ食べて見たかったんだよ‥‥‥あそこの屋台で売ってるな!!リーシア早く行こうッ!!」


 リーシアの手を掴んで屋台の行列に並ぶ。ふとリーシアの方を見ると走ったせいか顔が少し赤くなっているが、そんなことよりも串焼き気になる・・・。名前からしてキノコか?どんな味付けをしてるんだろうか‥‥‥想像するだけでワクワクするな。


 自分たちの順番が来ると30㎝くらいの串に、巨大な松茸の様なキノコが半分に割かれて串に刺さっている。


「兄ちゃん!何本食う?」


「とりあえず4本お願いします!凄い美味しそうですね‥‥‥味付けは塩だけですか?」


「ん?もしかしてアラブリダケの串焼きは初めてか?俺が仕入れてるのは中級品だが、こいつは怒れば怒るほど味が美味くなる魔物でな、余計な味付けをしないで食うのがいいんだ。だから塩焼きが1番美味いぞ?」


 そんな魔物が居るんだな‥‥‥店主にお代を渡し近くのベンチに座って食べる事にする。最初にノワル達に上げたけど、串焼きを噛んだ瞬間に中から旨味の汁が滴り落ちてきてた。どんな味がするか楽しみだ。


「んッ!?‥‥‥うまぁぁぁいッ!!!噛んだ瞬間に肉汁のようなキノコの旨みが口の中に溢れてきやがる・・・キノコの香りも抜群にいいしこれは炊き込みご飯にしたら最高に美味いのが出来るんじゃないか‥‥‥?」



 屋台は周りにまだまだある‥‥‥俺は次々に屋台に向かい食べ歩きをした。どれもこれも美味いものばかりで満足し、そろそろ宿に向かおうかとした時だった。何処か懐かしい匂いが漂ってきた。その匂いの方に釣られていってみると、その正体が分かった。


「ラーメンだとッ!?」


 大きな寸胴に何かを入れてぐつぐつと煮込んでいて、その横のベンチには麺を啜る人が見える。


「おッ!?兄ちゃんは迷宮都市に来るのは初めてなのかい?これは迷宮都市名物の豚骨ラーメンだ!迷宮都市に来たらこれを食わなきゃはじまらねぇぞ?食っていくかい?」


「食べたいッ!4人前でお願いな。ところで、この骨はなんの魔物のなんだ?」


「毎度ありッ!これは迷宮で出てくる、スケルトンボアの骨を煮込んでるんだ。臭みが少なくて濃厚な味わいが特徴的なんだ。他の屋台でも迷宮で出てくる色々なスケルトン系の魔物の骨を使ったラーメンなんかも売ってるぞ」


 アンデットって食べれるのかと聞いてみたけど、迷宮のアンデットがドロップした骨なら食べても問題ないらしい‥‥‥さすが異世界なんでもありだな。


 この世界に来てからラーメンは食べてないからな、初めてのラーメンがアンデットラーメンだとは思わなかったけど、食べるのが楽しみだ。


「豚骨スープって言ってたけど、確かに臭みはないな。まずはスープから‥‥‥濃厚ッ!骨の中の旨みがスープに溶け出してる。恐るべきはこれが骨だけから出ている味という事だな‥‥‥。これに醤油、味噌なんかいれたら一体どんなラーメンに仕上がるんだ?麺は中太麺で濃厚なスープと絡みあって最高の1品になってるな」



 かなりの数の料理を食べたのにリーシアもまだお腹に入るようで夢中で食べていた。


 結局、宿に着いたのは暗くなってからであり、腹が一杯になった俺達は夕食を食べる事が出来ずにそのまま寝る事にした。

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