第2章 未知なる食材を求めて
14品目 唐揚げ
村の名前はロースト村というらしく村までの道のりは馬車で2日程掛かるらしいが、ノワルとゴマに乗っていけば1日で着くと思う。さっきから大人しいリーシアを不思議に思いながらも俺達はロースト村に向かっていた。
街を出たのが夕方という事もあり、途中で野営をする事にしたのだがやっぱりリーシアが少しおかしい‥‥‥。
「今日ちょっと変だけどどうしたんだ?」
「そ、そうか?いや‥‥‥シン。どうして私を連れていくのだ?てっきり私は人間の住む場所に連れて行ったら役目は終わりだと思っていた」
すっかり忘れていた。リーシアの父からは行動を共にするかは2人で決めてね、みたいな事を言われてたな‥‥‥。
「あー‥‥‥悪い。リーシアの意見も聞かないで連れてきてしまって。リーシアはどうしたい?」
「私は‥‥‥その、シンの料理を食べるのが好きだからな。暫くは一緒に居てやってもいいのだぞ?」
「ははっ。それは良かった。リーシアは俺の料理を美味しそうに食べてくれるからな。これからも俺の料理を食べてくれよ」
「‥‥‥そ、それは私に
「ん?そうだけど?」
その後のリーシアは俺が話しかけても、心ここにあらずみたいな感じで終始上の空だった。この時は全く知らないで言ってしまったけど、『これからも俺の料理を食べてくれよ』という言葉はエルフの中ではプロポーズに使われる言葉の1つだったらしい。
そんな事を知らない俺はリーシアの様子が可笑しいのは具合でも悪いのか?と思っていた。
次の日の朝にはリーシアの様子も普通に戻っていたんだけど、明確には分からないけど何処かがおかしい気がする‥‥‥。
「道に沿って行けば村に着くって叔母様は言ってたけど、もう少しで着くかな?」
「‥‥‥分かったッ!!」
「ぅわッ!!いきなりどうしたの?」
「リーシア‥‥‥なんか話し方変えた?」
「な‥‥‥変、かな?お父様と話す時はこんな感じなんだけど。ほら!シンはもう身内になるかもだし、普通の話し方で良いかなって思って‥‥‥」
「いや?こっちの方がリーシアっぽくて好きだけど?おッ!!村が見えてきたぞ!!」
「す、好きッ!?」
リーシアの違和感に気付いて満足していた俺の目には目的地であるローストの村が見えてきた。なんだかリーシアがゴマの上でなにか言ってたけど、俺の思考は村でどんな野菜に出会えるのかだけになっていた。
村に着くと簡易的な柵で覆われていて辺りには野菜が植えられている畑が広がっている。ノワルやゴマを見て村人達が驚いて逃げ出すといったハプニングこそあったが、なんとか従魔証を見せて村に入る事が出来た。
村長さんに迷惑をかけてしまった事を謝罪して、お詫びとして余っていたコカトリスの肉をあげたらもの凄い勢いで感謝をされた。なんでも、この村は農業が出来る人間は多いのだが、狩りを出来る人がいないので肉を食べる機会が少ないらしい。
俺がこの村に来た経緯を話すと、今日の夜にコカトリスの肉とこの村の野菜を使った料理で宴会を開いてくれる事になった。俺も料理人だから1品作りたいと申し出ると村長は喜んで俺の提案を飲んでくれた。
「さて、コカトリスの肉は鶏肉に近いからな‥‥‥作るとしたらアレしかないな」
「シン。私も手伝う事あるかな?」
「じゃあ、リーシアは肉を一口サイズに切ってもらえるか?」
エルフの戦士とか言ってるけど、リーシアって意外と料理が出来るんだよな。こうやって2人で並んで料理をしてると、
「なんだか新婚みたいだな‥‥‥」
「はぅッ!!それはまだ早いというか‥‥‥ま、まだ私は了承してないぞッ!?」
「‥‥‥何言ってるんだ?それより切った肉はこのボウルの中に入れてくれるか?」
「なんでそんなことを軽々しく言っちゃうのよ‥‥‥」とか良く分からない事を言っている。
そんなリーシアを放っておいて俺は肉に下味を付けていく。そう、俺が作るのは唐揚げだ。
下味を付けた肉を衣に付けるんだが、俺のおススメは小麦粉と片栗粉を1・1の割合にした衣だ。小麦粉のみだと綺麗なきつね色に仕上がるけど、食感がフワッサクッという感じになるし、小麦粉だと白っぽい唐揚げが出来てカリッとした食感になるんだ。
正直どちらも美味しいし、そこは好みになるとは思うんだけど両方を合わせる事によりきつね色でカリッとした食感になるから俺はこっちの方が好きだな。ただ、ここで注意点がある。あまり衣をつけすぎると食感が悪くなってしまうからな、軽く転がす程度にしておくのがポイントだ。
揚げる時のポイントは170℃の油で焼き色が付くまで低温で揚げる。この時、ぎっちりと肉を鍋に入れてはいけないぞ?入れ過ぎると脂の温度が下がり過ぎてネチョッとした食感になっちまうからな。
そうだな‥‥‥大体3分の1くらい鍋に隙間が出来るようにする方がいいな。
キツネ色になってきたら一度パットの上で3分くらい余熱で中まで火を通してから、190℃に温度を上げた油に再度投入してこんがりと焼きあがったら【コカトリスの唐揚げ】完成ッ!!
後はこの村で作られてる野菜でキャベツとトマトがあるからそれを皿に盛ればいいな。流石に有名な野菜とあってトマトは青臭くなくてフルーツかと一瞬勘違いするほど甘く、キャベツなんかは、シャキッとした歯ごたえで後からほんのりと甘みがくる。正直ドレッシングなんていらないな。それくらい美味い。
未だにブツブツと呟きながら恐るべきスピードで肉を切っているリーシアを見て若干引いたものの、味見をしてもらう事にする。
「リーシアは‥‥‥両手が塞がってるな。食べさせてあげようか?」
「えッ!?い、いや、あーんなどというのは少し破廉恥過ぎないか?自分で食べる‥‥‥ます。‥‥‥なんなのこの料理ッ!?カリッフワッとした食感で中から肉汁が溢れてくるわ。こんな料理を食べれるなんて、本当にシンと出会って良かったわ」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるし、リーシアは本当に幸せそうに食べるよな。おっと‥‥‥ノワル達にも食べさせてあげなきゃな」
その後は村人全員が食べれる分の唐揚げを作り続けて、宴会が始まる事になった。
流石農家さんというだけあって自分達が作っている野菜がどんな料理に合うか熟知しているようで、村人たちが作ってくれた料理はどれも美味しい。
俺が作った唐揚げも大好評で山盛りになっていた唐揚げもみるみるうちに無くなった。この村の近くには、大陸唯一の迷宮都市があるからそれなりに人の行き来があるらしく宿なんかも1件だけある。
こんな感じの緑豊かな場所で古民家レストランなんてやれたら最高だな‥‥‥と思っていた時、村長から面白い話を聞いた。
村長が言うにはその迷宮都市は通称『食の街』と呼ばれていて、そのダンジョンでしか取れない食材を使ったレストランなんかが豊富にあるらしい。
先程まで考えていた事は吹っ飛んで、俺の興味は食の街に向かう事になるのであった。
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唐揚げは簡単なようで奥が深いですよね。
日本には色々な唐揚げありますが、味や衣もお店によっては違うけどどれも美味しいですよね。
私も唐揚げ研究家(自称)として味や衣の比率など変えたりして1番自分が美味しいと思えるような唐揚げにチャレンジしています。
そんな事言ってたら唐揚げが食べたくなってきちゃいました・・・w
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