1章 孤独との闘い
1品目 焼き帆立とウサギ肉の串焼き
「んっ―――あれ?‥‥‥海っ!?」
俺は波の音で目が覚めた。確か俺は古民家の掃除をしていて――変な扉を見つけてから記憶がない。
それで目が覚めたら砂浜に居て…。これどういう状況だよ。
落ち着け――現状を整理しよう。まず俺はどこにもケガはしてないな。後は持ち物だけど・・・スマホで現在地を確認しようにも、スマホは掃除してたから適当にぶん投げてたから持ってきてないし・・・。となると、壁を壊した時に使ったハンマー位しか持ってないぞ?
俺は拉致されてここに連れてこられたのか?いや、現実的に考えてあり得ないよな・・・・俺以外にあの古民家には誰も居なかったし、居たとするならあの扉の先に人が居た?それも考えられないよな・・・壁は新しかったけど塞がっていたし、中に人が居たとしても、もう・・・。
うん。怖いからあの扉の先の事は考えるのはやめにしよう。
目の前は見渡す限り海、そして後ろは森。とりあえず、考えながらこの砂浜を歩いて行ってみるか。
あれから俺は海に沿って砂浜を歩き続けた。その結果分かった事だけど・・・俺が居る場所は何処かの島みたいだ。
海の方も見ながら歩いてたけど、他には島なんかないしここから脱出するには何とかして船を作らなきゃいけないけど・・・。俺は料理人だ。船なんか作った事もなければ船の作り方すら知らん。
となると後は森の中なんだけど・・・どんな野生動物が居るかも分からないし出来れば行きたくはないんだよ。ん?チキン野郎?いや、普通に野生動物は怖いからな?俺の武器はこの小さめのハンマー一つしかないんだぞ?そんなんで森の中を冒険なんてしたくないね。
というわけで、船が通る可能性も考えて俺は砂浜に居る事にした。ただ黙って砂浜に居ても船が来た時に目印となる物がないとダメだから、森の近くから落ち葉や木を拾ってきて火をつけることにしたんだが・・・これがかなり難しい。
テレビとかで見る分には簡単そうなんだけど、実際に自分がやるとなると難しいもんなんだな。結局木の枝と格闘する事1時間。やっと火をつける事が出来た。
「やっと火が着いた・・・・。こんなに火をつける事が難しいとは思わなかったな。本当にボタン1つで火が着いたりするのは有難い事なんだな・・・。」
まずは第一段階はクリアしたから、次に必要となってくるのは水と食料だな。食料は海になにかしら居るだろうからいいとして、問題は水だよな・・・。
砂浜を歩いている時に一応は水が溜まっている場所とか確認したけど、見た限りではなかったんだよな・・・。それに歩いてる時は気にならなかったんだけど、この島ペットボトルとかの漂流物が一切ないんだよ。
これが意味する事は
あんなに苦労して火まで起こして、船を来るのを待とうとしたのに・・・船が来る可能性すらほぼ絶望的なんじゃないか?
「はぁ・・・もうなんなんだよ。俺の唯一の希望だったのに。しょうがない。今日はここで過ごすか。とりあえず食料でも探そう・・・。」
魚を釣る道具なんかもないから、狙うは岩に付いてる貝とか浅瀬に居るカニなんかを探す事にした。
こんな状況じゃなければ貝とか見つけたりするのは楽しいんだろうけど、状況はもう生きるか死ぬかだからな・・・。もう必死に探したよ。
1時間くらい探して得た成果は、見たこともないバレーボールくらいの大きさの貝が3つ。最初は本当にこれ食べれるのか?とか、毒とかあったらヤバいだろうなと思っていたけど、もはや俺の腹がさっきから限界だと騒いでいる。焼いて食えばなんでも食える精神で食べてみることにした。
火の上に貝を適当に置いて少し経ってから、カポッという小気味良い音が聞こえて殻が開きいい匂いがしてきた。開いた隙間に器用に木の枝を突っ込んで無理矢理開けると、見た目はでっかいホタテみたいな貝柱がでてきた。
味付けをする調味料なんかもないから、そのまま木の枝を箸にしてかぶりついたんだけど、これが滅茶苦茶に美味い!
ムチッ、ムチッとした丁度いい弾力で噛むと最初は甘みがきて、その後に磯の香りがくる。今まで食べた事のない触感と美味しさにただただ夢中で食べ続けた。
「はぁ・・・。空腹は最大のスパイスとかよく言うけど、あの貝は満腹でもいくらでも食える。その位美味かったな・・・。まだあったから後で取ってこよう」
腹も一杯になった俺は、さっきまではこれからの事に不安でしかなくて、若干パニック気味だったけど少し落ち着くことが出来た。
食料は何とかなる事は分かったし、後は水だよな・・・人は3日間水分を取らないと死ぬらしいからな。森に入るのは明日にしようかと思ってたけど、まだ明るいし少しだけ森の中に入ってみるか。
森の中に入ると太陽の光が入ってこないから少しだけ薄暗いな・・・。何が出てきてもいいように、ハンマーだけは構えておくか。
砂浜を歩いて一周した時に見たけど、島の中央が高くなって山みたいになってたから、もしかしたら湧き水なんかが出てるかもしれないな。
そういう淡い期待を持ちながら、島の中央に進んで行くとまさかの湧き水発見!!溢れ出す湧き水でちょっとした池になってる。
大丈夫か分からないから少し口に含んで見たけど、都会の水道水の何倍も美味かった。これでとりあえずは水に困らないし、海に行けば貝があるから暫くは困らないな。
俺は湧き水が見つかって安心していて、この時すっかり忘れていた。水場があるという事はそれを飲みに来る者も居るという事だ。
草を掻き分けるような音が後ろから聞こえて、ハッとして振り返ると二十メートル程離れた場所にウサギが居た。なんだ、ウサギかよと思ったんだけど、ある事に気付いてしまった。
「あれ?ウサギって角あったっけ?角ってより刃物・・・?」
姿形はペットショップとかで見るミニウサギくらにのサイズだったけど、よく見てみたらウサギの頭には角というより、ナイフくらい鋭く尖った黒い物が生えていた。
俺がウサギを見えてるという事は、ウサギからも俺の事が見えてるのは当然のわけで、突然俺の方に向かって猛烈な勢いで走って鋭く尖った角を刺そうと飛び掛かってきた。
まさかウサギが飛び掛かってくるとは思ってなくて、突然のことにビックリした俺は横に避けようとして、湧き水でぬかるんでた地面に足を滑らせて思いっきり転んでしまった。
ウサギの攻撃は転んだせいで俺には当たらずに、後ろにあった木に角が刺さってジタバタとしていた。
「うわ・・・転んでなかったら俺が串刺しになってたな・・・」
あの角が自分に刺さらなくて良かったと安心していたけど、木からウサギの角が外れたらまた俺に飛び掛かってくるかもしれないと思って、急いで転んだ時に落としたハンマーを持ってウサギに近づいた。
ウサギの近くに行くと角の半分まで木に刺さっている所を見て、マジでゾッとした。動物なんて自分の手で殺した事はないし、少し躊躇したけど自分がまたこいつに襲われるよりは今ここで殺した方が良いと、自分に言い聞かせて手に持ったハンマーで無防備になっている頭を思いっきり殴った。
小さいとはいえ鉄で作られたハンマーで殴ったのに、ウサギはまだジタバタと木から角を抜こうと藻掻いていた。何度も何度も殴ったけど、それでもまだウサギは生きていた。
角があるウサギなんかも見たことないし、こんなに殴っているのにまだ生きてるウサギを見て、俺はだんだんと怖くなってきてウサギが動かなくなるまで一心不乱に殴っていた。
どれくらいの時間そうやっていたかは分からないけど、気付いた時にはもうウサギも動いていなくてぐったりと木からぶら下がっていた。
「なんなんだよ・・・こんなウサギ見た事ねぇよッ!」誰も居ない島に俺の声だけが響いていた。
後から冷静になってから思った事だけど、森の中で見たこともない動物がいて襲われたのに、大声で叫んで他の動物が寄ってこなかったのは、本当に運が良かった事だって気付いた。
少しして落ち着いた俺は、ウサギをこのままにしておくのも悪いと思って木からなんとかして外して、火を焚いている砂浜に戻っていった。
結構な時間が経っていたし、もしかしたら火が消えているかもと焦ってたけど、なんとか火種は残っていたので慌てて枯れ木を探して火を着けなおした。流石にもう今日だけで色々な事があったから疲れたし、またあの地獄のような火おこしをするなんて嫌だったから本当に良かった・・・。
森の中に居たから気付かなかったけど、もう太陽は日が沈みつつあって暗くなり始めていたから急いでこのウサギを解体して食べる事にした。
解体するっていってもナイフなんかないし、どうしようかと思ってたんだけどこのウサギについている角を有効活用すればいいんじゃね?と考えた俺は、なるべく先が尖った石を見つけてきて角の根本に何度も叩きつけた。
ウサギもそうだったけど、角もクソ堅くて石の方が先に割れるんじゃないかと思ったけどなんとか無事に根本から折れてくれた。
「こうやって角を近くで見ると本当にナイフみたいに薄いのに、なんでこんな硬いんだよ・・・・」
角もナイフみたいに鋭いし、ハンマーで何回も何回も殴ったのに全然死なないんだぞ?そんなウサギを見た事なんてないし、聞いたこともない。いくら鈍感な俺でも流石におかしいとこの時には既に思っていたけど、気付かない振りをして自分を誤魔化してたんだと思う。
ツタが生えていたから、近くの木にウサギをぶら下げて血抜きをしてから解体することにした。ウサギの角で解体出来るか不安だったけど、この角滅茶苦茶切れ味が良い。なんなら、俺が特注で作ってもらった包丁より切れ味が良いんだが・・・。改めてこいつの角に刺さらなくて本当に良かったと思ったよ。
いくら料理人をしていたからといっても、俺の店に届くのは部位ごとに分けられたブロック肉だから、動物を捌くのは初めてだったけど、なんとか無事に解体できたと思う。ウサギの心臓の部分には石?みたいな物があったけどこれが何かはこの時は分からず、そのまま砂浜にぶん投げていた。
次にいつ肉が食べれるか分からないから、明日の分を大きめの葉っぱに包んで保存しておくか・・・。
適当に取って来た木の枝に肉を刺して火で焼く。調味料なんかもないから肉本来の味しかしないだろうな、と思いながらも腹ペコな俺は肉にかぶりつく。
「・・・・うまっ」本当に美味いと言葉が出ないと言うが、なんとか絞り出せた言葉がそれだけだった。俺もレストランの料理長をやってたくらいだから、A5の肉なんかも食べたりはする。するんだけど、まさかこのウサギ肉のほうが美味いとは思わなかった。
程よく脂が乗った肉を噛むと、子供でも嚙み切れるくらいには柔らかく、噛めば噛むほどに脂の旨みが口の中一杯に広がってくる。無駄な調味料なんて要らないが、欲を言えばほんの少しだけ塩が欲しいと思った。
「あー・・・この肉と一緒にビールが飲みてぇ・・・・」
そう無意識に呟いてしまう程、この肉とビールは絶対に合うと思った。その後は夢中で肉を焼いては食べるを繰り返し、満足した頃にはもう真っ暗になっていた。
何気なく横に視線を向けると、さっきまでは絶対に無かったしこの無人島には絶対に存在しない物がそこには置いてあった。
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