注文したら白馬に乗ってやってきた件。

維 黎

第1話

――それは白馬に乗ってやってきた。


 特製卵ソースがたっぷりと染み込んだ一口大のフレンチトースト。

 それらと同等の大きさに揃えられ斜めにカットされたバナナ。

 二つをまとめ上げるのは、甘い香り立つ黄金色こがねいろのメイプルソース。

 添えられたホイップクリームを加えれば、別の表情あじわいを見せてくれる。

 名を"キャラメル&バナナソース"といふ。



 フレンチトースト専門店"メープルキッス"。



 27歳OL、彼氏いない歴1年と3カ月。

 給料日の翌日、半年ほど前から私の朝食はこの店と決まっている。

 なので初めての注文ではない。だけど今回は徹夜だった。もちろん彼氏と同衾どうきんした結果という訳ではない。彼氏がいないことはさっき言った。

 酔った勢いで行きずりの――なんてこともない。そこまでがっついて男が欲しいとも思わない。単にNetplixでアニメを一気見していただけ。


 徹夜明けの寝ぼけた頭で良く確かめもせず注文してしまったのだろう。いつも使っている宅配とは違うサービス業者がやってきた。

 玄関を開けた先、白馬が小刻みに頭を振ってブルルと鼻を鳴らしている。


「――Umer Eatsウーマーイーツです。ご注文の品、お届けに参りました」

「――なんで馬なの?」

「この業界も競争が激しくなってきましたんで。他社と差別化を図るとかなんとか」

「ふ~ん」


 徹夜明けのポヤポヤ頭では深く考えられない。

 白馬だろうと天馬だろうと、注文が問題なく届くなら細かいことはいいや。


「――ッりっしたぁ!!」


 部活の後輩が先輩にする挨拶に似た声を上げると馬に乗って颯爽と走って――もとい。速歩はやあしで次の配達先へ向かう配達員。

 後日、ネットで調べてみたら信号などの交通規則ルールを守れば法律上は馬で道路を移動してもいいらしい。


 そして"キャラメル&バナナソース"は絶品だった。



――了――

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注文したら白馬に乗ってやってきた件。 維 黎 @yuirei

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