みなしごステーション
柊ハク
第1話
「やあ、幸薄き隣人達よ。君達はこの世界の仕組みから解き放たれた。君達には選択肢がある。我々と来るか、ここに残るか」
「我々は来る者は拒まない。しかし一度足を踏み入れたら、去る事は決して許さない。さあどうする?」
白い鳥仮面の男の声に応じる子供の姿はない。みな不安そうにこの闖入者を見ているのみだ。
「……まあ、来ないというのもひとつの選択だ。親に見放された時点で、人生を諦めるというのも潔い」
「捨てられてなんかない!」
仮面の男の言葉を受けて、反射的に男の子が言った。
「待ってて、って言われたもん。必ず迎えに来るからって」
「ああ、健気にも君は、その言葉を信じているのだね?」
心の底から同情するように、仮面の男は頷いてみせる。
「嘘じゃないもん!」
男の子の方は、その反応を見て激しく動揺していた。いや、動揺しているのは周囲の子供達も同様だった。待つ事を言いつけられて捨てられた子供達は、しかし薄々は気がついているのだ。もしかして本当は、迎えなど2度とやってこないという事に。だが、それを認める事が出来ない。待ち続けて、耐えて耐えて、その先に、あの思い鉄の門扉をこじ開けて、自分の親が迎えに来てくれる事を夢想せずにはいられないのだ。
「ここがどういう場所か知っているかね?」
仮面の男は努めて無感情な風に言う。
「ここはゴミ捨て場なんだ。親が子供を捨てる為の、専用のゴミ箱さ。金が無いとか、面倒を見る暇が無いとか、理由は色々あるだろうが、親が生きる為に子供を捨てなきゃならん事が人生にはままある。野生動物と同じようにな」
「嘘だ!!」
「嘘ではない。が、信じずとも良い。ここに残ると何が起こると思う?やがて奥のあの大きな扉が開いて、君達はその中に行く事になる。そしてバラバラに解体されて、今親元で大事にされている子供達の臓器になったり、血液になったりするわけだ。愛される子供へ、愛されない子供のパーツを、というわけだ。残りは豚か犬の餌になり、糞になるさだめだな」
仮面の男の淡々とした口調に子供達は絶句していた。まさか、そんなバカな、と。
「親が君達を捨てたわけではない、としよう。ではなぜこんな場所に君達をいつまでも“待たせて”いるのかな?ん?」
仮面の男は、口元を笑みの形に歪ませて問う。
「ぐずぐずしてると愛する子供がバラバラにされてしまう。そんな場所にどうして待たせた?なぜ早く迎えに来ない?早くしないと、自分の子供が殺されてしまうぞ!!!」
嘘だ、と叫んだ男の子も、すっかり怯えて顔を青くしている。その様子を見て、仮面の男は心底愉快そうに笑った。
「ぎゃははははは!!!ここまで言われりゃバカなガキにも理解出来たか!?お前達は“要らない”んだってさぁ!!さっさと捨てて、他人の一部になっちまう方が幸せなんだってさ!!ぎゃははははは!!」
現実を突き付けられて、そこかしこで啜り泣きが始まる。目に涙を浮かべた男の子が、それでも敵意ある目で仮面の男を睨みつけた。
「おまえの話は全部ウソだ」
「嘘なものか。それとも、確かめてみるかね?」
仮面の男が指を鳴らすと、奥へと続く巨大な石の扉がズズズ、と開く。中からあらゆる狩猟具を身につけた男達が現れ──
「すまない、見学なんだ」
「ああ?誰だてめえ。よそもんはさっさと消えろ」
「見学させてくれ」
指をもう一度鳴らすと、男達は虚な目をして棒立ちになった。
「さあ、私の言葉が嘘だと思うなら、共に確かめに行こうではないか。急ぐが良い。あまり時間は無いからな」
子供達は互いに目を見合わせて、おずおずと足を踏み出した。願わくば、この先に待つのが、「解体場」などではなく、もっと素敵な何かである事を期待して。
「地獄の入り口へようこそ」
みなしごステーション 柊ハク @Yuukiyukiyuki892
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます