第8話 大司教②

大司教は穏やかな笑みを浮かべている。

でも、その目の奥は笑っていない。


そして、その目の奥に人ならざるアヤカシの影を見る。


「大司教!真の姿を見せろ、真の姿をこのシマジに見せてみろ。」

シマジは声を張り上げて威嚇してみる。


「これは、これは勇敢な少年よ。

正体?どういう事ですか?

悩みなら私がお聞きしますよ。」

大司教は相変わらず、不気味な笑みを浮かべながら、メガネを上げる。


本当に偶然だった。

たまたま寄ったパミュの街。


聖騎士一行が、この街方向に来るのを察知したシマジは、先回りしていたのだった。


ギルドで、クエストを遂行しながらレベル上げを行って街に滞在していたところ、

大司教が、『夜な夜な娘を教会に招き入れて何かエッチな事をしている』という不穏な噂を酒場で聞いた。


スケベジジィめ、なんて思いながらも

遠目から大司教の姿をチラ見した時に異変を察知した。


『アヤカシだ。』


ポックントン神拳を恵徳したシマジは体内の気(オド)から常人とアヤカシを判別出来るようになっていた。


背中に冷たい物を感じる。


ちょっとやそっとのレベルのアヤカシではない。

遠目で見ながら、正視出来ない程の強烈な瘴気を感じるのである。


や、ヤベー。どうするか?

聖騎士様を待つか?


そっと動向を探っていた矢先、

ティーラが教会に深夜に入ろうとしている姿を確認したのである。


思わず叫んでいた。

「逃げろ!」と。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ネズミめ。・・・キヅイテイタゾ……。

我が力で貴様を千の肉片に切り裂いてくれようぞ」

額のホクロが不気味に黒紫に光り、

全体的に瘴気が吹き上がる。


大魔司教ガリウスとして、正体を現した。


神に使える法衣を纏うも、顔は髑髏で額のホクロは、紫の魔石と化している。


ヤギのような角が2本生えており、

手には邪神を司る杖を持ち、シマジに襲いかかってきた。


大魔司教ガリウスは詠唱しながら、

杖をシマジへ向けながら、

いきなり大技を出してくる。


『魔瘴気轟龍波(ましょうきごうりゅうは)』


強力な魔瘴気が龍のようにウネリながら、シマジの元へ恐るべき速さでやってくる。


遅い!いくぞ!


ポックントン神拳奥義!

『飛竜乗雲の滝ィィィ!!』

空中に回転しながら、轟龍波を交わすシマジ。


回転しながら、蹴りを見舞う。

そしてその蹴り先は青白い波動が宿る。


バキッィィィィーーーーー!!


決まった。波動が流れる音と感触が分かる。勝った!


一瞬膝をつく大魔司教。

「フフフ……。よもや、よもや。

私に膝を付かせるとは。」


波動の流れを強引に断ち切り、

大瘴気が再び全身を、纏う。


大魔司教は呪文を唱える。


あ、……!あ、……!ぐ!!


体が、う、動かない。


『フハハハ小童!これで終わりぞ。

魔瘴気轟龍波!!』


再び轟龍の化した魔瘴気が

シマジの体を貫く!


グハッ!!!!


思わずもんどり打って倒れる。


い、痛ぇ!!!!

口からは吐血。


強烈な衝撃。

肉体よりも精神にダメージを齎すようだ。


衝撃を受ける直前に気で防御していたのにこのダメージとは。


やばい。このままでは死ぬ。


一時退却だ。

キビツを返して教会のドアへ向かおうとするも、身体が動かない。


そしてドアも奇怪に歪む。

強烈な瘴気は地場を歪ませて、

特殊な空間にしているのだった。


重ねてシマジはダメージも引きずっている。

あの流れる軽やかな羽はもがれたのだ。


脱出経路は断たれた。


一瞬退却が過ぎった時に、心に隙が出来る。

逃げれないと知るや、其の隙は恐怖へと変化するのに時間はかからなかった。


『し、死ぬ……。』


冷や汗が全身に滴る。


「お前には餌になってもらう。

聖騎士を引きずり出す餌にな」


そしてシマジの意識は失った。


次回へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る