第7話 終わりと始まり/リール視点

「私のために、すいません」


 プレミアは酷く落ち込んだ様子で言った。


「気にするな。自分のためにやったことだ。いつかはアクトス達との関係に決着をつけたかった」


「そうですか……。でも、お店がこんなことになってしまうとは……」


 焼け焦げた店内を見ながらプレミアは悲しそうに言った。会って間もないが、優しい子なのが伝わってくる。いくら過去との決別を決意したとはいえ、やはり変わり果てた店内を見ていると悲しくなった。


「バルドルの話からすると、遅かれ早かれ壊されただろうな」


 アンチョリが丸焦げになっている。これではもう食べられない。『喫茶店リール』は何もかも終わったのだ。


「これからどうする? メテオが落ちてくるのを待つのか?」


「まず始めに、アクトスが持っている『賢者の石』を奪い返します」


「伝説の魔法具か。実在していたとは」


「はい。賢者の石とは魔王の魔力を封じ込めた石のことです。魔王を倒したのではありません。アクトスは、未来の世界滅亡と引き換えに賢者の石を譲り受け、この世界を操っているのです」


 倒されたと言われていた魔王は倒されておらず、その魔王に取り込まれた仮初の勇者が世界を支配しているということか。偽物の平和とはよく言ったものだ。セリンが追放され、セリンの娘である彼女の命が狙われた理由が分かった気がした。


「お母さんは、その話を知っているんだな?」


「はい……」


「アクトスが賢者の石でメテオを呼び、この世界を滅ぼすということか」


「そうです。それが魔王との契約です。不履行はアクトスのみの死を意味するそうで、それならば世界を滅ぼそうということのようです」


「どこまでも自分勝手な奴だ」


「この事実をしっているのは、アクトスと母のセリン、そして私だけです」


「ということは、バルドルは事実を知らずに動いているのか。哀れな」


「哀れですよね。ファクターも私の命を狙っています」


 ファクターとは勇者パーティの一人であり、攻撃型の魔法を得意とした女だ。


 かなりキツイ性格の女で、魔術師ギルドのギルドマスターである。気に入らなければ所かまず処刑をすることで有名だ。男癖も悪く、何人の男が犠牲になったのか分からないとの噂だった。


「ファクターもか……人気者だな」


「えへへ、人気者です……」


 プレミアは言葉をそのまま捉えたようで、ひどく照れている。少し天然な子なのかもしれない。本当であれば、母親の愛情をたくさん受けながらのんびりと生きているような子だと思った。


「大丈夫。俺が守ってやる。バルドルからもファクターからも、アクトスからも」


「あ、ありがとうございます……。で、できればメテオからも守ってほしいです……」


「そうだったな。ドラゴンだろうがメテオだろうが任せておけ」


「ありがとうございます!!!!」

 

 プレミアは本当に嬉しそうに答えた。初めてお客さんに出したコーヒーの反応もこんな感じだったことを思い出した。

 

 また誰かの笑顔のために働けるのであれば、それはきっと幸せなことだと思った。

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