第3話 相模の獅子 前編

「本当に政治を行う建物なのですか?」

「防災というか防衛拠点にもなっているんじゃ」

 義久古の目に写ったのは。まるで昔教科書で見た、軍事要塞……戦国時代の城に似ている建物であった。そこに向かう途中で、同じような服の男達とすれ違った。

「スーツか。義康殿の宇宙船にあった雑誌で拝見しました」

「宇宙船……もうわしは突っ込まんぞ!それよりさっきもじゃが義康殿と言ったか?どっかで聞いたような」

「最上義康殿です。ボランティアにも取り組む心根の優しい好青年です」

 高橋は目を見開いて思わず大声で言った。

「2ヶ月前に行方不明になったはずじゃよ!」

「今朝の墜落事故直前まで一緒でしたが」

 時計を見ると、高橋は人通りの少ない公園に島津を手招きし、当たりを見回してから歯切れ悪く言った。

「義康殿はその……父親から疎まれていて…地盤を譲って貰えないかも、みたいな噂が出てたんじゃよ……もしかしたら…」

「……あのように素晴らしい青年が疎まれる筈が無い!誰がそのような讒言を!」

 珍しく激昂した義久古を高橋はまぁまぁと宥めた。

「確かに義康殿は評判がいい人じゃが。まぁ取り巻きとか偉い人の覚えが目出度いかとかね、色々あるんじゃよ。」

 義久古は眉間にシワを寄せて考え込んだ。弘だけでなく、義康まで心配になってきたのだ。

「島津さん、そろそろ急がんと」

「はい。……取り乱して失礼いたしました」

 義康殿には悪いが、今は弘を優先しよう……それから義康殿も救う。義久古はそう決意して歩きだした。しばらくして城の敷地に入ると城門で受付の者から札を渡され、指定の部屋(会議室)に入った。

「島津さんは名刺はないんじゃよね?」

「今から書きたいので紙をいただけますか?」

「うーん……じゃあわしの名刺の裏にでも書いたらどうじゃろか」

そんな呑気なやり取りをしていたその時だった。

「緊急通報じゃ!」

 高橋の携帯端末から不穏な音、さらに、街のスピーカーから緊急通報が放送された。

「土の五行が乱れています。頑丈な建物に避難してください」

「また地震ですか?」

「地震じゃねぇ。土や人の頭くらいの岩石がバンバン空中から降ってくるんだべ……それから」

「土の化け物が襲って来ます!早く現場に向かってください!鍵で刀のロックを外して、【五行戦士・土見参!】と叫んでさやを付けたまま五芒星を描いて変身して戦ってください!」

 今まで静かだったツッチーが高橋のバックから頭だけ出して訴えた。

「ツッチーさん何を言ってるだ!危ないじゃろ!島津さん行っちゃだめだべ!何かあったら弘くんが悲しむべ!」

 思わず袖を引っ張る高橋に義久古は首を振った。

「……私はこの地で高橋殿初め、幾人もの人々に世話になりました。恩を返さねばなりません。高橋殿は北条殿への連絡と弟の情報収集をお願いします」

 義久古は一応変身等が人体に悪影響が無いか確認すると、鍵で刀のロックを解いて叫んだ。

「五行戦士・土見参」

 刀で空中に五芒星を描くと、鍵から溢れ出た金針が義久古の体を包み、がっちりとした装身具を形作った。たくさんの小さな札が黄色と黒の糸でつながり、面となり防具となったそれは義康の宇宙船にもあった「和風の甲冑」だった。

「いざ!出陣!」

「島津さん!」

 義久古は高橋を振り払う。そしてちょっと待ってと訴えるツッチーを肩に乗せて城内を全速力で駆け巡った。だが。

「……交通手段が無い!」

「今気が付いたんですか!」

「ツッチー殿は空を飛べないのか!?私を乗せてくれ!」

「乗るかよ!片足すらはみ出るわ!」

 人選を誤ったか。そうため息を吐いたツッチーだが、城内の液晶掲示板と構内図を見た彼は叫んだ

「突き当りを右に!別館に行くんです!」

「承知!」

 義久古は全速力で走って走ってついでに扉を刀でブッ壊して別館になだれこんだ。中には、ライオンの型の乗り物に跨がる甲冑姿の男達がいた。

「と、扉ガーッ!」

「誰だ?」

 甲冑姿の男達に細長い筒を向けられた義久古は刀を床に置き、両手を上げて名のりを上げた。

「お初にお目にかかる!私の名前は島津義久古!助太刀に参った!」

「えーっと、農家の高橋殿の知人です!」

 ツッチーはなるべく義久古の声に寄せて喋った。島津はあっ、と声を上げるとシュッと名刺を投げた。

「給食用の食材を寄付してくれてる高橋さんの知り合いか」

「だが扉をブッ壊して来たぜ」

困惑しざわめく男達。だが、それを制する男の気配を義久古は感じた。それから少しして男達が振り返ると、そこには三角が重なった模様の甲冑の男が立っていた。

「貴方が島津殿か。助太刀ありがたい!早速現地にご同行頼みたい!付いてきてくれ!」

「知事!コイツは扉を壊して入って来たんですよ!」

 知事は足速に島津に近寄り、刀を渡しながら言った。

「そんな男が床に武器を置いて、無防備な姿を晒しているのだ。信じるしかなかろう」

「かたじけない」

 義久古は知事の知的な眼差し見つめて一礼し、彼に促されてライオン型バイクに跨った。

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