『狼少年は木偶人形の夢を見るか』
世の中はバカばかりだ、と常々思う。
「なー
「見た見た、でもあれ嘘じゃないの?」
「すご、超バズってんじゃん」
登校すると早速クラスメイトに囲まれた。俺は心の中でにやりとほくそ笑む。SNSでバズった投稿を思い出す。今回も大量に引っかかった。
俺はツイートゥーというSNSに投稿をしている。芸能人の誰々の不倫の現場を目撃したとか、購入した食品に虫が混入していたとか、内容は過激なものばかり。実際は捏造ばかりの根も葉もないデマが殆どだ。何故そんな投稿をするかというと理由は簡単、話題の中心になれるから。俺にとってツイートゥーは承認欲求を満たすための場だ。
センセーショナルな呟きにつられて、フォロワーは真偽を確かめようともせず簡単に拡散する。途中で嘘だとバレても構わない。その頃には俺の嘘は世の中に浸透しており、つまりは広めた奴も同罪ってことだ。俺一人が悪い訳じゃない。正義面して呟きを咎めるコメントはよく届くが、そいつらは俺がバズってるのが気に食わないアンチだ。気に留める必要はない。
今回は俺にアンチが多くついていることから、たまたま同じ方向を歩いている奴を盗撮して「ストーカーに遭ってるぽい。助けて」と顔を隠して晒してみた。取り留めのない嘘は瞬く間に拡散されて、ネットの海を広く漂った。有志による相手の特定も盛んに行われている。巻き込んだ奴に恨みはない。話題の中心になれるんだ、むしろ感謝してほしいくらいだ。
さて、次はどんな嘘を呟こうか。俺の周りでわいわいと騒ぐクラスメイトを見ながら思考を巡らせた。
× × ×
昼休み。暇潰しついでに午後の授業をサボるためどこかの教室で居眠りでもしようと思い立ち、目についた教室に入った。途端に視界に飛び込む本の壁。図書室だ。本なんて読むガラではないが、静かな室内は寝るにはちょうどいい。
室内をぐるりと見回す。図書準備室の鍵も開いているようだ。こっちの方が人も少ないし、口煩いセンコーにも見つからずに眠れるだろう。戸を潜ると、ここもまた本の壁で埋め尽くされていた。図書室よりも狭い間隔で並ぶ書架。生徒に貸出する一般的な本ではなく、授業で使う専門的な書籍が並んでいるようだ。
物珍しさから色褪せた背表紙の数々を眺めていると、棚に収まらなかったのか無造作に立てかけてあった本がばたん、と倒れた。俺は触っていない。けど、後々誰かに俺がこの部屋に入ったとチクられるのは面倒だ。
床に伏した表紙を起こす。表題は『ピノッキオの冒険』。確かガキの頃にアニメーション映画のDVDを観たことがある。内容は殆ど覚えちゃいないが、何故だか目が離せなくなった。
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