合縁奇縁〜ゑにし堂綺譚〜

佐倉みづき

前書き

 書店とは、本との一期一会の出逢いを楽しむ場所である。

 ふらりと立ち寄った店でなんとなく陳列された本を眺めていて、ふと目に留まる。表紙に、タイトルに、簡潔なあらすじに心惹かれて気がつけば購入していた。そんな経験は、本好きならば誰しもあるだろう。

 自分が体験した一期一会の出逢いを、誰かにも同じように味わってもらいたい――いつからか、僕はささやかな夢を抱くようになっていた。とはいえ、僕の仕事はもっぱら裏方だ。在庫の帳簿をつけたり、本の修繕をしたり、掃除をしつつ売り場や本の状態を確認したり……おかげで、店にある本のことはそこそこ詳しくなったけれど。

 僕が働く古書店〈ゑにし堂〉は、一風どころか二風も三風も変わったお店だ。「人が本を選ぶんじゃあない、んだ」とは、店主であるゆかりさんの言である。

 普通の古書店とは異なる点がいくつかある。まず、一般には流通していない奇書、稀覯本を多く取り扱っている点。そして極めつけに、ゑにし堂に足を運ぼうとしても絶対に辿り着けない点。立地が辺鄙だから? 違う。入り組んだ路地の奥の奥にあるから? 違う。からだ。

 これはどういうことなのか、前述のゆかりさんの言を思い出してほしい。本が人を選ぶとは文字通り、のだ。大事にされていた本には、それを読んだ時の人の想いが残りやすい。それは喜怒哀楽様々で、楽しい思い出だけでなく、持ち主の未練や怨みが篭っているものも多い。

 ゆかりさんが買い取るのは、そんな曰くつきばかりだ。僕らは〈忌書きしょ〉と呼んでいる。持ち主が亡くなり引き取り手が見つからなかった本が大半を占めているが、中には呪われていたり、本物の悪魔を呼び出せた魔導書なんかもあったりする。

 では、どんな人であれば個性豊かな忌書に導かれるか? これから具体的な例を紹介していこう。

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