21. 同衾

「ちょ、ちょっと! 何すんだよ!」


 オディールが怒ると、レヴィアは悪びれもせず満足そうに伸びをする。


「あぁ、いい湯じゃ!」


 まるで小学生のようなドラゴンの自由奔放さに二人は呆れ、ため息をついた。


 オディールがジト目でレヴィアを見ていると、星明りの中、どうも何かがヒラヒラして見える。


「あれ? レヴィア、何着けてるの?」


「何って? 服じゃよ」


 なんと、レヴィアは服のまま飛び込んでいたのだ。


「服のまま入るバカがいるかよ!」


 頭にきたオディールはレヴィアにつかみかかり、服をはぎ取ろうとする。


「何すんじゃ! エッチ!」


 レヴィアは暴れ、逃げ回る。


「いいから脱げーー!」


 怒って追いかけるオディール。


「ヤなこった!」


 レヴィアは両手でお湯をバシャバシャとオディールにぶっかける。


「やったな! このぉ!」


 応戦するオディール。浴槽は二人の掛け合うしぶきでグチャグチャになった。


「ちょっと、止めて!」


 ミラーナは怒るが、二人は熱くなってお湯のかけ合いはヒートアップする一方だった。そのうち、流れ弾がミラーナを直撃し、ミラーナの堪忍袋の緒が切れる。


「止めてって言ってるでしょ!!」


 絶叫するミラーナ。


 あまりの剣幕に二人は凍り付く。


 ふぅふぅというミラーナの荒い息がその場を支配した。


「……。風呂では、はしゃがない。分かったわね?」


 低い声でミラーナは諫める。


「はい……」「分かったのじゃ……」


 二人はお互いをジト目でにらみながら答えた。



        ◇



 家に戻るとヴォルフラムは毛布にくるまっていびきをかいていた。


「じゃあ、我も寝るわ。おやすみちゃーん」


 レヴィアはそう言いながらあくびをし、毛布をもって二階へと上がって行く。


「じゃあ、僕らも寝ようか?」


 歯ブラシをくわえながらオディールはミラーナに聞いた。


「そうね、今日はいろいろあって疲れちゃった……」


「ほいほいっと……、あれ……?」


 オディールはマジックバッグから毛布を出そうとしたが、三枚しか買っていなかったことを思い出す。


「あちゃー……」


「どうしたの?」


「ゴメン、毛布足りなかった……」 


「あら、でも一緒に寝ればいいじゃない」


 ミラーナはニコッと笑う。


「い、一緒!?」


 さすがに十七歳の少女と一緒に寝るのはマズいだろう。オディールは両手をブンブンと振って後ずさる。


「あら? 私と寝るの……嫌なの?」


 ミラーナはオディールを寂しそうな目で見つめる。


「そ、そ、そ、そ、そんなことないよ。いやでもほら、僕、寝相すっごく悪いからさ」


 オディールはうつむき、真っ赤な顔を隠しながら必死に言い訳をする。


「寝相は私も悪いから……。毛布なしじゃ寒いわ。二人で温め合お?」


 ミラーナはオディールの手を取る。その柔らかな温かさにドキドキが止まらなくなるオディール。


「ま、まぁ、そうだけど……」


「じゃ、行こっ」


 ミラーナはオディールの手を引き、階段を上っていく。


「あっ、ちょっ……」


 オディールは早鐘を打つ心臓を押さえながら、引かれるままについていった。


 三階にはさっき作っておいた玉砂利のベッドがある。ビー玉サイズの石のプールだ。寝心地は実に快適ではあるが、それでも毛布がないとさすがに寒い。


「さぁ、寝るわよー」


 ミラーナは玉砂利をジャラジャラ鳴らしながら飛び込んで、隣をポンポンと叩きながら嬉しそうにオディールを誘った。


「う、うん……」


 オディールは、『い、妹と寝るようなものだと思えばいいな。手を出さなきゃいいだけだし、うん』と、一生懸命自分に言い訳しながら、恐る恐る隣に横たわった。


「はい、どうぞ」


 ミラーナは毛布をオディールにかけようと、オディールの上に覆いかぶさる。風呂上がりの黒髪がオディールの真っ赤な頬をなで、ふわっと湯上りの甘い香りが鼻をくすぐった。


『くぅっ! 妹、妹!』


 オディールは目をギュッとつぶって何とか平常心を保とうと頑張る。


 そんなオディールの気持ちをぶち壊すように、ミラーナは


「玉砂利って冷たいわね……。ねぇ、もうちょっとこっち来て……」


 と、オディールに抱き着き、引っ張る。


『あひぃ……』


 ふわふわと柔らかく温かいミラーナの身体にオディールは目がグルグルしてしまう。


「ふふっ、オディ、温かいわ……」


 ミラーナはオディールの腕に抱き着いて幸せそうに言った。


 オディールは深呼吸を繰り返し、頑張って返す。


「ミ、ミラーナも、あ、温かいよ」


「私、誰かと寝るの初めてかもしれない……」


 ミラーナはポツリと言った。その口調には嬉しさと恥じらいが滲んでいた。


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