第2話 ツンデレ

「自由行動みんなどこか行っちゃったな」

「本当、みんなどこ行ったのよ」

 俺こと、滝之沢心之助ともう一人御神木セーラは、観光客が行きかう京都の観光名所で、ぽつんと立ち呆けていた。


           *


 京都の有名な観光名所に繋がる参道には、大勢の観光客や地元住民、ちらほらとだが舞妓さんの姿も見ることができる。

 俺がいるこの場所には、先程まで修学旅行生の集団が屯していた。

 点呼を終えた引率の教師が自由行動の時間を告げると、生徒達は一気呵成にざわつき始めた。

 かく言う俺自身も待ち望んだ時間ではあり、教師の長い話が終わるまで、頭の中で何度も「どのルートに行くか」だとか「どの観光名所を効率よく回るか」だとか、シュミレーションに余念がなかった。

 周りの雑音をシャットアウトして暫く思案に暮れ、導き出した妙案に満足すると早速クラスの友達に声を掛けた。

「そうだ清州寺にいこう!」

 俺は意気揚々とした声を掛けたが——それは空返事におわった。

 俺の目に飛び込んできた景色は、先程までいた生徒たちが既に散会した後だった。    

 慌ててクラスメートの姿を探すが、大勢の人ごみに紛れ、後の祭りだった。

 見知らぬ土地で一人置いてけぼりをくらった俺は、あまりの淋しさに膝をつきそうになる。

「……あんた、何そんなところで突っ立ってんの?」

 背中から突如として掛けられた声に、友人の面影を求め振り返った。

「なんだ、セーラか……」

「何よその反応! 腹立たしいわね」

 ただ、そこに立つ人物男友達でもなく、女子クラスメートの御神木セーラだった。普段通り、理由の分からない不機嫌な表情を浮かべた御神木は、俺と睨めっこでもするかのように仁王立ちしている。

「……お前こそ、一人じゃないか」

 御神木に負けまいと言い返す。

「トイレに行っていたら、みんないなかったのよ。私も」

 てっきり反抗的な口調が返ってくると思っていたからか、若干浮かべた悲しげな表情に言葉が出なかった。

「…………見て回るか、一緒に」

「えっ……?」

 気まずい雰囲気を打ち消そうと発した言葉だったが、きょとんとした彼女の表情に急に恥ずかしくなってきた。

「いや……別に嫌なら……」

 俺の言い訳の言葉の途中で、御神木は急に背中を見せるとすたすたと歩きだした。

「何やってるのよ、自由時間は限られてるわよ!」

「……ああ、そうだな」

 その口調は何とかならないかと思いつつ、一人での自由行動を回避できたことに胸をなでおろした。


           *


「ちょっとお土産見て良いか?」

「早くしなさいよ」

 目的の寺に向かう参道にて見かけた売店に立ち寄ると、棚に掲げられたお守りやらストラップが目を惹いてきた。

 何故だか俺の背中越しに、御神木の視線を感じるが、気にせず購入予定にお土産を吟味した。

 

           *


 レジを通したあと、御神木を待つ間、購入した桜の模様が入った鈴を満足気にみていると、当の御神木が店から出てきた。

「ちょっと何同じお土産買ってるのよ、これじゃあお揃いだと思われるじゃない」

 声高に右手を前に出す彼女の手には、色違いの俺と同じ鈴が手に握られていた。

「いやちょっと待て、こっちの方が先に買っただろ」

 もっともな意見をぶつけたが、当の本人は不機嫌そうに顔を横にそむけた。

「……分かったよ、交換して来るよ」

 しぶしぶ踵を返した際、ふいに右手首を掴まれた。

「待ちなさいよ、交換なんて失礼でしょ、まあ良いわ我慢してあげても」

 俺は開いた口を閉じることが出来ず、御神木を見つめるばかりだった。


           *


「ちゆーちゅー」

「ちゅう……ちゅう」

 先程から心の中で同じ言葉を何度もつぶやいていた。

 「いや、これもうデートだよ」「お金がないから一つのもの2人で飲むわょってカップルのすることだよ」「今何が起こってるの、整理がつかないんだけど」

 ぐるぐると思考がまとまらないまま、視線を前に向けると、目の前にはストローを加えた御神木の姿がある。

 つい先ほど、御神木がのどの渇きを訴え、出店が見えてきたので一緒に入店した。メニュー表を見てみると、予想していたよりも高い価格が記載されており、手持ちの財布を覗いてみてもぎりぎりだった。

 メニュー表をぱたんと閉じた御神木は店員さんを呼ぶとドリンクを一つだけ注文した。

 「仕方ないわね、二人で一つでいいかしら?」

 「そうだな、学生だしお金はそこまでないからな……」

 そうして今の状況があるわけだが……、側から見たら恋人同士に見られないか? 無表情にストローを啜る御神木の表情が若干赤い気がするが気のせいだろう。


           *


「戻ってきたら、私たちがデートしてたって噂が広がってるじゃない」

「いや、あれ見られたらそう思われるだろ」

 自由行動が終わり集合場所に戻ってくると、案の定俺たちの噂が同級生達に広まっていたようだ。

 懸命に言い訳する俺を御神木は腕を組んで頬を膨らませていた。

「何よ簡単に受け入れちゃって」

「ふんだ」

 靴の踵に何かが当たったような気がして足元を見ると、小さな石ころが転がっていた。

「ふんだ」

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